嘘つきな獣

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中

文字の大きさ
14 / 46

13

しおりを挟む




 「わかった、今行く。それとお前はもうここには来るな」

 立ち上がりざま、セシルはアイリーンを諭す。

 「はぁい、わかりました」

 しかし返事とは裏腹に、アイリーンは頬を膨らませて不満顔をしていた。

 セシルが部屋から出るのを見届けると、アイリーンはくるりと身体の向きを変えた。
 
 「ねえシャロン様、いったいどうなっているのかしら」

 「……え?」

 「約束しましたよね?下賜についてセシル様と話すって。それなのに、娼婦みたいな真似をしてセシル様を誘惑するなんて。まさかここでの暮らしが気に入ったとでもいうのかしら」

 さっきまでとは打って変わったように怒りを滲ませるアイリーン。
 だが【娼婦】とは聞き捨てならない。
 シャロンは誓って誘惑などしていない。
 しかしシャロンが否定の言葉を口にすると、アイリーンは声を荒げた。
 
 「じゃあ何でセシル様は毎日のようにここに来ているのよ!?」

 そんな事を言われても、シャロンとて現在自身の置かれている状況がさっぱりわからない。
 セシルはだんまりだし、ようやく口を開いたかと思えばシャロンを詰ってばかり。
 彼が何を考えているのかなんて、恋人であり外の世界と接しているアイリーンの方が、シャロンよりもよほど詳しいだろうに。
 
 「アイリーン様はセシル殿下と恋人同士なのですよね?でしたら直接殿下にお聞きになればよろしいのでは」

 シャロンが言い終わるや否や、アイリーンはテーブルの上に置いてあったティーカップを掴み、シャロンの後方の壁に投げつけた。
 陶器の割れる音とともに、侍女たちの甲高い悲鳴が部屋に響く。
 アイリーンはシャロンをめ付けた。

 「あなた、セシル様の婚約者だったからって、私を馬鹿にしているの」

 「そんなつもりは──」

 決して意図してこうなっているわけではない。
 けれど、彼女の苦しみは何となくわかる。
 恋人が他の女の元に通い、あまつさえその身体を抱いているのだ。
 自分が彼女と同じ立場だったら耐えられるだろうか。
 (黙って目を瞑るなんて……無理だわ)
 【婚約者】と【恋人】は違う。
 シャロンとセシルが政略で婚約したように、婚約や結婚は本人の意思は関係なく成り立つが、恋人はお互いの気持ちがなければ成り立たない間柄だ。
 アイリーンが置かれている状況は、女にとってはまさに地獄。 
 シャロンにそのつもりがなくとも、自分の存在が彼女を苦しめていることに違いはない。
 そう思うと、それ以上何も言えなくなってしまった。
 黙り込んでしまったシャロンを見て、アイリーンは冷静さを取り戻した。

 「とにかく、早く下賜先を見つけるようセシル殿下に言ってくださいね」

 アイリーンはそう言うと、乱暴な足取りで部屋を出ていったのだった。





 
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

貴方に私は相応しくない【完結】

迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。 彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。 天使のような無邪気な笑みで愛を語り。 彼は私の心を踏みにじる。 私は貴方の都合の良い子にはなれません。 私は貴方に相応しい女にはなれません。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

処理中です...