妾の嫁入り

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 水無瀬家では、朝食と夕食は、可能な限り家族揃ってとるのが慣習だ。
 しかし席についているのは瑛久、珠子、鈴子の三人。
 主を欠いた食卓に、最近ではもうひとつ空席が追加された。
 
 「今日も蒔子さんはこないのね」

 「全部お兄さまのせいよ」

 もう何度目かしらない女性陣の嫌味を、瑛久は新聞を片手に聞き流した。

 「鈴子」

 「なに?」

 「おまえ、紫乃さんの話し相手になってやってくれないか」

 「なんで私が!?」

 そんなの絶対にご免だと言う鈴子に、珠子もその通りだと加勢した。
 
 「鈴子があんな女と一緒にいて、万が一蒔子さんに変な誤解でもされたらどうするの」

 「その言い方はやめてもらえませんか。紫乃さんは、私の子の母となる女性ですよ」

 瑛久は、至極身勝手な理由で、紫乃を妾という立場に置いた張本人でもある。
 だからこそ、彼女の人生に責任を持たなければならないと考えていた。
 確かに世間から見たら後ろ指をさされるのも仕方ないかもしれないが、だからといって自分たちが彼女を蔑むのは違う。

 「蒔子さんはまだ若いんだから、今度こそ大丈夫かもしれないじゃない!」

 「お母さん。頼むから、そうやって蒔子を追いつめるのはやめてください」

 母は瑛久に言うのと同じように、蒔子に悪気なく圧をかけ続けている。
 励ましているつもりなのだろうが、かえって逆効果だ。
 その証拠に、蒔子もあれだけつらい経験を重ねたのにもかかわらず、夜になると瑛久を求めてくる。
 蒔子の身体を考えた上で断ると、その度に鬼の形相で『もう私に興味がなくなったの』『後継ぎを産まなければならないのに』と詰るのだ。
 瑛久はもう、蒔子をこの問題から解放してやりたかった。
 
 「でも、もしあの女も子を産めなかったらどうするつもりなの」

 「その時は今度こそ鈴子に婿を迎え、後継ぎを産んでもらわねばならないでしょう」

 瑛久の言葉に珠子も鈴子も押し黙る。
 そもそも最初からそうすれば妾など迎える必要がなかったのに、拒んだのは鈴子と鈴子を甘やかす母親だ。
 都合が悪いとすぐ黙り込んで知らん顔。
 その身勝手さには怒りを通り越して呆れる。

 「とにかく、女同士でなければ話しづらいこともあるはず。紫乃さんが不自由なく暮らせるよう気にかけてやってくれ」

 「……わかったわよ」

 不貞腐れた態度を隠しもしない。
 年下の紫乃の方がよほど落ち着いていて聞き分けがいい。
 紫乃は、大人にならざるを得なかった理由が、その生い立ちに凝縮されている。
 それに比べて何不自由なく育った妹は、世間を知ったような気ではいるが、まだまだ子どもだ。
 瑛久の口から自然とため息が出た。

 

 

 
 
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