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8話 帰還前日
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いよいよ帰還の前日になった。
B2にも行った。知り合いへの挨拶も済ませた。
明日の夜、日付けを跨いだ時には地球の元いた場所に帰還しているはずだ。
昨日から、帰還組は何度も手順を打ち合わせていた。
「もう一度、皆で確認のおさらいをしましょう」
タウさんが何故か俺を見て言う。皆で、と言いつつ俺をガッツリ見るのはやめてほしい。
「10年前のあの時に戻るとすると、ステータスは消えて普通の人間に戻ると思います」
そうだな。今はステータスのフレンドや血盟で『念話』や『メール』が当たり前のように送れる。どこにいても連絡を取り合うのは簡単だ。
「帰還後の地球、日本でも連絡が取れるように、スマホに互いの電話番号、メールアドレスを登録しましたか?LAINEは通信が繋がらないとお互いのIDを繋げません、戻ったら繋げる為に、皆のIDをスマホのメモ機能に書いておいてください」
「あの、俺、LAINEのIDのやり方わかんねぇ。戻っても出来るかな」
「一応カオるんにはLAINEの繋げ方を書いた紙を渡しましたが、無理なら普通にメールか電話で連絡を取りましょう」
「おう、頼む。オッサンの俺には敷居が高いわ」
そう言うと、タウさんとカンさんが俺を優しく見つめる。
「ご、ごめんなさい。オッサンとか関係なく俺がスマホの操作が苦手です」
つい、謝ってしまった。タウさんもカンさんも俺と歳が近いのに、2人は普通にスマホを操作出来るそうだ。
「それにしても、10年もしまっておいたのにスマホが壊れてなくて良かったー。あ、でも充電はしなくちゃね」
アネさんが俺が貸した手回し充電器のハンドルをクルクルと回していた。
「そうですね。皆さん充電は今日中に済ませておいてください。それから皆さん、明日の帰還の時は、スマホやメモは必ず自分が着ている服のポケットに入れてくださいね。いつものようにアイテムボックスに入れても、あちらに帰った時は失くなってる可能性が高いですから。特にカオるん。財布もスマホも大事な物はポケットに入れるんですよ?」
危ない、つい、いつものくせでうっかりアイテムボックスに入れてしまいそうだ。
「カオっち、通勤バッグとかまだ有ったらそれに大事なモノは入れておきな」
なるほどなぁ、と、あっちゃんに向かってうんうんと頷いた。
「日本から持って来た物なら持って帰れるかな。あと、服はもう無いんだよなー。10年前の。この世界に来たばかりの頃にかなり着倒してボロくなって捨てたからなぁ」
「おれもそうなんよ」
すかさずミレさんも同意した。
「僕もです。もうあの服とっくにないです」
ゆうご君もか。
「一応、日本に戻っても違和感がないようなシャツとズボンにしますが」
「まさか、戻った途端に消えるなんて無いよな?」
「それは困りますね。現在は下着までこちらの世界の物ですから、戻ると同時に消えたら、私はデスティニーランドで素っ裸で捕まりますよ」
「た、確かに、それは困る。俺も会社……いや、営業へ向かう途中だったから、商店街を駅に向かってたよな?確か……」
「僕は自宅です。良かった」
「あ、カンさん、ずりぃ」
「僕は大学ですよ。いや、あの日はまだ自宅にいたはず。セーフだ」
ゆうご君がホッとした顔で息を吐いた。
「えええ!私、めっちゃヤバイんですけどぉ!」
アネの叫びを聞いたリンさんが、アネ本人より慌てていた。
「ちょっ、アネ、待ってて、旦那の服でいいなら取ってある。私のはサイズが合わないでしょ、ちょっと持ってくる」
リンさんがテレポートで消えたと思ったら、3分程でTシャツと半パンを持って現れた。
「アネ、これ。洗ってあるから。取っておいてよかったぁ。日本の思い出にって取っておいたんだ。私のも取ってあるけどサイズがね…」
そう言ってリンさんは畳まれたTシャツと半ズボンをアネさんへ手渡した。
そっか、アネさんは結構ボンキュボンなスタイルをしている。リンさんはスレンダーと言うかかなり細身だ。確かにリンさんの服をあねさんが着るのは無理があるのだろう。
「リンー、ありがとう!良かったぁ。駅のホームで裸にならなくて」
俺とタウさんとミレさんは同時に山さんをみた。
「……いや、ゴメン。僕も当時の服は無いんだ」
キックを見るが、キックは意外と小柄だ。俺には入らない。パラさんは細マッチョだ。くっそう。
「仕方ありませんね。戻った瞬間に裸でしたら、直ぐに身を隠すしか……」
どうやらタウさんは諦めたようだ。
「……あ、そうだ、うちは職場のフロアごとの転移だったから、戻って裸でも大丈夫だ。他の社員で帰還を選択した者がいても皆裸だろうからな」
ミレさんとタウさんが恨めしそうな目で俺を見た。仕方ないじゃないか。
「まぁ、それはいいです。神の話ですと帰還は災害の60分前と言う事です」
「災害の60分前って事は、やっぱ災害が起こるのは確実なんだな」
「そうみたいですね。ですから、その60分が勝負です。まずは帰還の目的でもある家族との合流」
そうだな。皆はその為に帰るんだ。合流出来なかったら戻った意味がない。
俺は、特に急いで会いたい家族はいないし、どうするか。
「その60分でなるべく迅速に家族と合流、やる事は沢山あります。ネットやテレビが観れるなら隕石の情報を。特に落下についての情報を入手して出来る限り安全な場所へ移動してください。どの方向に落下するかで、そちらから来るであろう衝撃波に備えてください。建物の倒壊や火災、それから沿岸部は津波も考えられます。まずは家族と自分の安全の確保を」
隕石、衝撃波、建物崩壊、火災、津波……。俺たち、生き残れるのか?『災害』と一括りにした言葉では実感が湧かなかったが、具体的な言葉にすると急に不安が押し寄せて来た。
俺、大丈夫だろうか?WIZでなくなったらもう回復魔法も使えないんだぞ?アイテムボックス入っている大量のポーション(回復薬)も無くなる。ヒールを詰めたスクロールも無いのだ。
俺は今更ながらに、この世界でとてつもなく恵まれていた事に気付いた。
「ねぇ、こっちのセボンで買った物をポケットに入れておいたら持って帰れるかな?」
アネの何気ない疑問に皆の顔が明るくなる。
「そうだよ、ポケットに詰められるだけ詰めて」
「あ、俺、絆創膏とかポケットに入れとこう。回復魔法が使えなくなったらもう、絆創膏だけが頼りだ」
「カオるん、絆創膏はそこまで頼りにはならないと思うぞ?」
「何も無いよりマシだぞ?」
俺とミレさんの言い合いにタウさんがズバッと俺らふたりまとめて斬り捨てる。
「こっちで買った物は無くなると思った方がいいです」
やはり、消えるのか。
アイテムボックスからバナナを取り出して食べ始めた。この高級バナナとも明日でお別れだ。さらば、永遠の友(?)バナナよ。
ミレさんが手を差し出したのでバナナを一本渡した。
「隕石落下後の災害を切り抜けて、安全確保の目処が着いたらステータスの確認を、ええ、無いのは解っていますが、一応確認はしましょう。それからお互いの安否をメールで知らせ合う。出来れば、隕石落下前に一度連絡を取り合いたいですね。ですが、家族との合流と安全な場所への避難でギリギリかもしれませんね」
「隕石落下の前? 落ち着いてからゆっくり連絡し合えばよくないか?」
「そうなんですが、隕石落下後は、もしかすると通信系が使用出来ない可能性が高いです。繋がるうちにメールだけでも出来たら送信しておいてください。あくまで、出来るならです」
「隕石落下で、電波が乱れるのか?」
「いえ、違います。通常の災害時と同じです。皆が一斉にスマホを使うので繋がらなくなります」
「ああ、そうだな。東日本の震災の時も暫く繋がらなかった」
「そうなんですか?」
「ああ、そっか。ゆうごはまだ小学生くらいか?」
「はい。小3だったかな?まだスマホとか持ってなかったですね」
「関西はそうでもなかったな。あの時は普通に通じてた」
「千葉はダメだったね」
「うちも茨城は夕方すぎてようやく電話が復活しましたね。あ、自宅の固定電話はもっと早かったかな」
「まぁ、隕石がどこに落ちるかにもよりますが、繋がらなくなる可能性は高い。早めに連絡を取り合いましょう。メールなら送っておけばそのうち届くでしょうし」
なるほど、言われて見るとそうだったかも知れない。俺はあの震災の時も、連絡を取るような相手がいなかったから気が付かなかった。
実家の電話番号なんて知らん。ハルちゃんや雪美叔母さんもとうの昔に連絡が取れなくなってた。世話になってた政治叔父さんちは……、いや、20年以上連絡なんて取ってなかったんだ。今更急いでもな。
「ここからはもしステータスがあった場合の話です。ゼロに近い話ですので流して聞いてください」
ステータスか、無いだろう。だが、うん、神の気まぐれ…いや、慈悲深い神によってもしかしたら?
「もしもステータスが表示されたら、まずはアイテムボックスに中身が入っているかの確認を。中身の詳細な確認はずっと後でいいです、中身の有無だけ確認をしてください。それからフレンド欄、血盟欄。残っていたら即連絡を取り合いましょう」
なるほど、ステータスのメールなら、通信障害に関係なく送れるからな。けれど、こちらの世界に来た時はフレンド欄も血盟欄も空白になっていた。戻ったら消えるんだろうな。いや、ステータス自体が消えるか。
「次にスキルや魔法の画面。特にカオるん、魔法が使えるか確認してください。それからブックマーク画面、今のこの世界のブックマークが帰還しても生きてるとは思えませんが、万が一表示されていても迂闊に使用しないように。地球に戻ったのにテレポートで異世界へ飛んでしまっては元も子もない」
え、それは困る。
「まぁ、無いだろうよ。そんな簡単に世界を行き来出来るなら神様も苦労しないだろう」
パラさんが苦笑いだ。
「ですね」
「ブランク状態である事を願います。が、現在地をブクマ出来るか試してください。ステータスがあり、ブックマークの画面があるなら、僕らはテレポートが出来るかも知れない。アイテムボックスの中にテレポートリングが入ってるはずです。それからスクロールやポーションが使用出来るかどうかの確認もしたい所ですが、そこまで時間が取れるかどうか」
うぅむ。現代日本に戻って、そんなに上手い話があるとは思えない。慈悲深い神様もそこまではしてくれないだろうな。
パラさんだけでなく、話しているタウさん自身も苦笑いだ。
「明日が神託から10日目、この世界もあと1日です」
タウさんの言葉に皆が頷いた。
この世界、異世界に転移して10年。もう無いと思っていた地球に明日戻る。忙しくも楽しかったこの世界と別れを告げて。
この街で出来た家族とも別れを告げて。俺はきっと後悔するのだろうなと思いつつ、でも『帰還』の道を進むのだ。
神は言った。「選ぶのはお前自身だ」と。
俺は選んだ。「地球に戻る道を」。
何度かの繰り返しの打ち合わせの後は、最後の晩餐ならぬ呑み会へと突入した。
子供らがご馳走を作ってくれた。この街で知り合った人からも沢山の差し入れを貰った。今夜はやまと屋の店を開け放して通りにもテーブルや椅子を置く。魔法『ライト』を沢山放ち、やまと屋の前の通りは昼間のような明るさになった。
そうして近所の人や冒険者も巻き込んでの大宴会が遅くまで繰り広げられた。
こんなに楽しいのに悲しい。俺が人との別れを悲しいと思うのは生まれて初めてかも知れない。
実家を出て町でひとり暮らしをした時も、上京を決めて町を出た時もこんな気持ちにはならなかった。
派遣先を変わる時も派遣仲間に開いて貰った送別会でも、特に何の感情も湧かなかった。
俺が子供の頃、本家の居間で俺を除いた家族団欒を見た時、俺は何か言い知れない思いを感じた。団欒の外にひとりでいる自分の見窄らしさに怒りを覚えた。
今俺は、その団欒の中にいる。やまと屋は俺の居場所だった。俺はちゃんと居場所を作れたのか。それに気がついたのが居場所から抜ける前日とはな。
それも俺らしいか。
背中にぺったりと張り付いたマルクは、あれから何も言わない。ずっと背中に張り付いているので話を出来ずにいた。言わなくも伝わればいいのにな。
お前達を置いて行くのではない、俺はお前達の重石にはならないぞ?お前達が巣立つのを見送るのは俺だ。
マルクの巣立ちは見れないが、どこにいても俺はマルクの父ちゃんだからな。
B2にも行った。知り合いへの挨拶も済ませた。
明日の夜、日付けを跨いだ時には地球の元いた場所に帰還しているはずだ。
昨日から、帰還組は何度も手順を打ち合わせていた。
「もう一度、皆で確認のおさらいをしましょう」
タウさんが何故か俺を見て言う。皆で、と言いつつ俺をガッツリ見るのはやめてほしい。
「10年前のあの時に戻るとすると、ステータスは消えて普通の人間に戻ると思います」
そうだな。今はステータスのフレンドや血盟で『念話』や『メール』が当たり前のように送れる。どこにいても連絡を取り合うのは簡単だ。
「帰還後の地球、日本でも連絡が取れるように、スマホに互いの電話番号、メールアドレスを登録しましたか?LAINEは通信が繋がらないとお互いのIDを繋げません、戻ったら繋げる為に、皆のIDをスマホのメモ機能に書いておいてください」
「あの、俺、LAINEのIDのやり方わかんねぇ。戻っても出来るかな」
「一応カオるんにはLAINEの繋げ方を書いた紙を渡しましたが、無理なら普通にメールか電話で連絡を取りましょう」
「おう、頼む。オッサンの俺には敷居が高いわ」
そう言うと、タウさんとカンさんが俺を優しく見つめる。
「ご、ごめんなさい。オッサンとか関係なく俺がスマホの操作が苦手です」
つい、謝ってしまった。タウさんもカンさんも俺と歳が近いのに、2人は普通にスマホを操作出来るそうだ。
「それにしても、10年もしまっておいたのにスマホが壊れてなくて良かったー。あ、でも充電はしなくちゃね」
アネさんが俺が貸した手回し充電器のハンドルをクルクルと回していた。
「そうですね。皆さん充電は今日中に済ませておいてください。それから皆さん、明日の帰還の時は、スマホやメモは必ず自分が着ている服のポケットに入れてくださいね。いつものようにアイテムボックスに入れても、あちらに帰った時は失くなってる可能性が高いですから。特にカオるん。財布もスマホも大事な物はポケットに入れるんですよ?」
危ない、つい、いつものくせでうっかりアイテムボックスに入れてしまいそうだ。
「カオっち、通勤バッグとかまだ有ったらそれに大事なモノは入れておきな」
なるほどなぁ、と、あっちゃんに向かってうんうんと頷いた。
「日本から持って来た物なら持って帰れるかな。あと、服はもう無いんだよなー。10年前の。この世界に来たばかりの頃にかなり着倒してボロくなって捨てたからなぁ」
「おれもそうなんよ」
すかさずミレさんも同意した。
「僕もです。もうあの服とっくにないです」
ゆうご君もか。
「一応、日本に戻っても違和感がないようなシャツとズボンにしますが」
「まさか、戻った途端に消えるなんて無いよな?」
「それは困りますね。現在は下着までこちらの世界の物ですから、戻ると同時に消えたら、私はデスティニーランドで素っ裸で捕まりますよ」
「た、確かに、それは困る。俺も会社……いや、営業へ向かう途中だったから、商店街を駅に向かってたよな?確か……」
「僕は自宅です。良かった」
「あ、カンさん、ずりぃ」
「僕は大学ですよ。いや、あの日はまだ自宅にいたはず。セーフだ」
ゆうご君がホッとした顔で息を吐いた。
「えええ!私、めっちゃヤバイんですけどぉ!」
アネの叫びを聞いたリンさんが、アネ本人より慌てていた。
「ちょっ、アネ、待ってて、旦那の服でいいなら取ってある。私のはサイズが合わないでしょ、ちょっと持ってくる」
リンさんがテレポートで消えたと思ったら、3分程でTシャツと半パンを持って現れた。
「アネ、これ。洗ってあるから。取っておいてよかったぁ。日本の思い出にって取っておいたんだ。私のも取ってあるけどサイズがね…」
そう言ってリンさんは畳まれたTシャツと半ズボンをアネさんへ手渡した。
そっか、アネさんは結構ボンキュボンなスタイルをしている。リンさんはスレンダーと言うかかなり細身だ。確かにリンさんの服をあねさんが着るのは無理があるのだろう。
「リンー、ありがとう!良かったぁ。駅のホームで裸にならなくて」
俺とタウさんとミレさんは同時に山さんをみた。
「……いや、ゴメン。僕も当時の服は無いんだ」
キックを見るが、キックは意外と小柄だ。俺には入らない。パラさんは細マッチョだ。くっそう。
「仕方ありませんね。戻った瞬間に裸でしたら、直ぐに身を隠すしか……」
どうやらタウさんは諦めたようだ。
「……あ、そうだ、うちは職場のフロアごとの転移だったから、戻って裸でも大丈夫だ。他の社員で帰還を選択した者がいても皆裸だろうからな」
ミレさんとタウさんが恨めしそうな目で俺を見た。仕方ないじゃないか。
「まぁ、それはいいです。神の話ですと帰還は災害の60分前と言う事です」
「災害の60分前って事は、やっぱ災害が起こるのは確実なんだな」
「そうみたいですね。ですから、その60分が勝負です。まずは帰還の目的でもある家族との合流」
そうだな。皆はその為に帰るんだ。合流出来なかったら戻った意味がない。
俺は、特に急いで会いたい家族はいないし、どうするか。
「その60分でなるべく迅速に家族と合流、やる事は沢山あります。ネットやテレビが観れるなら隕石の情報を。特に落下についての情報を入手して出来る限り安全な場所へ移動してください。どの方向に落下するかで、そちらから来るであろう衝撃波に備えてください。建物の倒壊や火災、それから沿岸部は津波も考えられます。まずは家族と自分の安全の確保を」
隕石、衝撃波、建物崩壊、火災、津波……。俺たち、生き残れるのか?『災害』と一括りにした言葉では実感が湧かなかったが、具体的な言葉にすると急に不安が押し寄せて来た。
俺、大丈夫だろうか?WIZでなくなったらもう回復魔法も使えないんだぞ?アイテムボックス入っている大量のポーション(回復薬)も無くなる。ヒールを詰めたスクロールも無いのだ。
俺は今更ながらに、この世界でとてつもなく恵まれていた事に気付いた。
「ねぇ、こっちのセボンで買った物をポケットに入れておいたら持って帰れるかな?」
アネの何気ない疑問に皆の顔が明るくなる。
「そうだよ、ポケットに詰められるだけ詰めて」
「あ、俺、絆創膏とかポケットに入れとこう。回復魔法が使えなくなったらもう、絆創膏だけが頼りだ」
「カオるん、絆創膏はそこまで頼りにはならないと思うぞ?」
「何も無いよりマシだぞ?」
俺とミレさんの言い合いにタウさんがズバッと俺らふたりまとめて斬り捨てる。
「こっちで買った物は無くなると思った方がいいです」
やはり、消えるのか。
アイテムボックスからバナナを取り出して食べ始めた。この高級バナナとも明日でお別れだ。さらば、永遠の友(?)バナナよ。
ミレさんが手を差し出したのでバナナを一本渡した。
「隕石落下後の災害を切り抜けて、安全確保の目処が着いたらステータスの確認を、ええ、無いのは解っていますが、一応確認はしましょう。それからお互いの安否をメールで知らせ合う。出来れば、隕石落下前に一度連絡を取り合いたいですね。ですが、家族との合流と安全な場所への避難でギリギリかもしれませんね」
「隕石落下の前? 落ち着いてからゆっくり連絡し合えばよくないか?」
「そうなんですが、隕石落下後は、もしかすると通信系が使用出来ない可能性が高いです。繋がるうちにメールだけでも出来たら送信しておいてください。あくまで、出来るならです」
「隕石落下で、電波が乱れるのか?」
「いえ、違います。通常の災害時と同じです。皆が一斉にスマホを使うので繋がらなくなります」
「ああ、そうだな。東日本の震災の時も暫く繋がらなかった」
「そうなんですか?」
「ああ、そっか。ゆうごはまだ小学生くらいか?」
「はい。小3だったかな?まだスマホとか持ってなかったですね」
「関西はそうでもなかったな。あの時は普通に通じてた」
「千葉はダメだったね」
「うちも茨城は夕方すぎてようやく電話が復活しましたね。あ、自宅の固定電話はもっと早かったかな」
「まぁ、隕石がどこに落ちるかにもよりますが、繋がらなくなる可能性は高い。早めに連絡を取り合いましょう。メールなら送っておけばそのうち届くでしょうし」
なるほど、言われて見るとそうだったかも知れない。俺はあの震災の時も、連絡を取るような相手がいなかったから気が付かなかった。
実家の電話番号なんて知らん。ハルちゃんや雪美叔母さんもとうの昔に連絡が取れなくなってた。世話になってた政治叔父さんちは……、いや、20年以上連絡なんて取ってなかったんだ。今更急いでもな。
「ここからはもしステータスがあった場合の話です。ゼロに近い話ですので流して聞いてください」
ステータスか、無いだろう。だが、うん、神の気まぐれ…いや、慈悲深い神によってもしかしたら?
「もしもステータスが表示されたら、まずはアイテムボックスに中身が入っているかの確認を。中身の詳細な確認はずっと後でいいです、中身の有無だけ確認をしてください。それからフレンド欄、血盟欄。残っていたら即連絡を取り合いましょう」
なるほど、ステータスのメールなら、通信障害に関係なく送れるからな。けれど、こちらの世界に来た時はフレンド欄も血盟欄も空白になっていた。戻ったら消えるんだろうな。いや、ステータス自体が消えるか。
「次にスキルや魔法の画面。特にカオるん、魔法が使えるか確認してください。それからブックマーク画面、今のこの世界のブックマークが帰還しても生きてるとは思えませんが、万が一表示されていても迂闊に使用しないように。地球に戻ったのにテレポートで異世界へ飛んでしまっては元も子もない」
え、それは困る。
「まぁ、無いだろうよ。そんな簡単に世界を行き来出来るなら神様も苦労しないだろう」
パラさんが苦笑いだ。
「ですね」
「ブランク状態である事を願います。が、現在地をブクマ出来るか試してください。ステータスがあり、ブックマークの画面があるなら、僕らはテレポートが出来るかも知れない。アイテムボックスの中にテレポートリングが入ってるはずです。それからスクロールやポーションが使用出来るかどうかの確認もしたい所ですが、そこまで時間が取れるかどうか」
うぅむ。現代日本に戻って、そんなに上手い話があるとは思えない。慈悲深い神様もそこまではしてくれないだろうな。
パラさんだけでなく、話しているタウさん自身も苦笑いだ。
「明日が神託から10日目、この世界もあと1日です」
タウさんの言葉に皆が頷いた。
この世界、異世界に転移して10年。もう無いと思っていた地球に明日戻る。忙しくも楽しかったこの世界と別れを告げて。
この街で出来た家族とも別れを告げて。俺はきっと後悔するのだろうなと思いつつ、でも『帰還』の道を進むのだ。
神は言った。「選ぶのはお前自身だ」と。
俺は選んだ。「地球に戻る道を」。
何度かの繰り返しの打ち合わせの後は、最後の晩餐ならぬ呑み会へと突入した。
子供らがご馳走を作ってくれた。この街で知り合った人からも沢山の差し入れを貰った。今夜はやまと屋の店を開け放して通りにもテーブルや椅子を置く。魔法『ライト』を沢山放ち、やまと屋の前の通りは昼間のような明るさになった。
そうして近所の人や冒険者も巻き込んでの大宴会が遅くまで繰り広げられた。
こんなに楽しいのに悲しい。俺が人との別れを悲しいと思うのは生まれて初めてかも知れない。
実家を出て町でひとり暮らしをした時も、上京を決めて町を出た時もこんな気持ちにはならなかった。
派遣先を変わる時も派遣仲間に開いて貰った送別会でも、特に何の感情も湧かなかった。
俺が子供の頃、本家の居間で俺を除いた家族団欒を見た時、俺は何か言い知れない思いを感じた。団欒の外にひとりでいる自分の見窄らしさに怒りを覚えた。
今俺は、その団欒の中にいる。やまと屋は俺の居場所だった。俺はちゃんと居場所を作れたのか。それに気がついたのが居場所から抜ける前日とはな。
それも俺らしいか。
背中にぺったりと張り付いたマルクは、あれから何も言わない。ずっと背中に張り付いているので話を出来ずにいた。言わなくも伝わればいいのにな。
お前達を置いて行くのではない、俺はお前達の重石にはならないぞ?お前達が巣立つのを見送るのは俺だ。
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