151 / 299
151話 現実とゲームと④
しおりを挟む
道に近い家から子供や老人を連れて出てきた。怪我人も居た。
とにかく落ち着いて話を聞きたいのだが、キャンピングカーに乗せるには多すぎる。
ざっと数えて赤ん坊も入れると17人か。
「車より、一旦家の中へ入らせていただきましょうか。子供や怪我人が居たと言う事は室内は安全なのですよね?」
キヨカの言葉に、近くに居た男性が頷く。
「とうきびなら沢山ある、持っていってくれ、その代わりガソリン分けてもらえないか」
「はい。大丈夫です。それより建物の中へお邪魔させてください」
男性は頷き、家から出てきた人らを促して家の玄関へと向かう。カイホAは、車を家の前に付けますと言って運転席へと戻った。
自宅は多少荒れてはいたが、何かに襲われた感じは無かった。
とりあえず怪我人を尋ねるとさっきの包帯の男と、ズボンで見えなかったが足に包帯を巻いている男性も居た。
近くのソファーに座ってもらいヒールをかけた。
かけられた本人は何が起こったのかさっぱりわかっていなかったが、痛みが突然無くなった事に驚き、包帯の上から恐る恐る触っていた。
車を停めたカイホAも来たので話を聞いた。
隕石落下、津波の被害は無かった。多少の地震はあったが建物の被害もなく家族と家で暮らす事に問題は無かった。
ただひとつ、ガソリンの入手が出来なくなった。
北海道は広い、車が無いと移動ができない。そのためのガソリンは不可欠なのだ。
広い畑もガソリンが無いと、足で回れる範囲しか世話が出来ない。仕方なく近場の畑のみ世話をした。
本州のどこかで火山が噴火したらしいが、火山灰も毎日はらい落とせる程度であった。勿論、手が届かぬ遠方の畑はダメになった。
今は自分達が食べるのに困らない程度はある。が、冬が来たら。
電気が届かなくなった。理由はわからない。灯油の入手出来ない。このまま冬が越せると思えない。
畑の向こう(ここから見えないが)の家から2家族が集まった。残ったガソリンや灯油を持って来てくれた。
一緒に居た方が節約になると考えたからだそうだ。つまり今ここには3世帯が集まっているのか。
電話が通じなくなる前は、地元の消防団からの連絡も定期的にあったそうだ。
「ここら辺りはみんなそんな感じだ。隣の家が遠い。電話が通じなくて車も出せなくなるとどこも孤立だろ」
「そうだね」
「それどころか、どうなってるかもわからんよ」
「うちは志波田さんとこに早くに居させてもらって良かった。あんな怖い事……なぁ」
「怖い事? 何がありました?」
カイホBが先を促すと、何人かが顔を見合わせながらおずおずと話し始めた。
「信じてもらえないかも知れんが、木が……歩いてたのよ」
「本当だ、気持ち悪い、ズルっズルっと根っこ引きずってこっちに来た」
そして、何人かがこっちを振り返って、俺がヒールをした男性を見た。
「そんでその時近くに居た高橋のオッちゃんが弾き飛ばされて、そしたら茂吉が突っ込んでって、茂吉が蔓に巻かれて林の中へ……」
「わあああああん、わああああん、もぎぢぃぃ」
突然男の子が泣き出した。
えっ?茂吉……さんが、魔物植物に攫われたのか?
「あ、茂吉は涼くんが可愛がってた犬なんらわ」
あ、ああ、犬か。犬が魔物植物に攫われたのか。ま、まさか魔物植物って肉食……じゃないよな?
いや、どっちにしても許すまじ。イッヌを襲うとは許せん。
「それでその後に男達が何人かでナタとか持って奥の林に入ったけど、何か硬い物がビュンビュン飛んできて、怪我して戻って来たんだわ」
なるほど。やはりここらも魔物植物は居るのか。
「魔物植物は全国的に出現しているのでしょうかね」
カイホAの言葉にお爺さんが驚いた。
「東京にも居るんか、あの変な植物はぁ!」
「どうする?」
「どこに逃げたらいいの」
「とにかく街へ行こう、街のが移動しやすいだろ。そうだ、アンタら、東京からどうやって来た? 飛行機か? 札幌からか? そっちは電気通ってるか?」
「電話とかネットは繋がる?」
「人が多いとこなら避難所とかあるだろ」
皆が口々に喋った後、こちらの返事を待つように黙った。
「私達は、茨城の避難所から来ました」
「イバラキってどこだ?」
「爺さん、茨城は関東だよ。東京の上か横かその辺り」
「ええ、まぁ、関東…東京都の右横の千葉県の隣です」
「デスティニーランドの近くだ!千葉県ってデスティニーランドあるとこだよね!そこに避難しようよ、デスティニーランド行けるよ!」
いや、行けねぇよ。デスティニーランドは今、水の中だ。
とは言えない。子供の夢を壊してはいけない。
カイホBが口を開いた。
「飛行機は飛べません。富士山が噴火いたしました。他にも幾つかの火山が。本州は火山灰が酷い状態です。我々は……」
言葉を探しているようだ。
「私達はね、船で来たのよ。苫小牧からは車で、今外に止めてあるでしょ、あれで」
アネがサックリと答えた。
「あのねー、木が歩いていたでしょ。今どこも、世の中がヘンテコになってるの。こっちが今までの常識に縛られていると生き残れないのよ。それでね、これあげる」
アネがエントのミサンガを出した。
「あの歩く木ってこれを嫌うから、これを持ってると襲われないわよ、あ、はぁーん、疑ってもいいわよ。別に宗教でも教祖でもないから。あくまで親切でこれを渡すだけ。お金も取らないし宗教に入れとも言わない。ってか宗教でないからね」
そう言って差し出したミサンガに手を伸ばしたのは小学生くらいの男の子だった。茂吉?の飼い主の子だ。
アネはその子にミサンガを渡すと、その子に向かってさらに話を進めた。
「大人はどうせ古い常識に囚われて信じないだろうから、君が使いなさい。沢山ないからひとつしか渡せなくてごめんね」
アネに続くようにカイホAが続ける。
「我々は次の地点へ急いでいます。次の地点は千歳ですが、実際に行ってみないとどうなっているかわかりません。千歳に皆さんを連れて行く事は出来ません」
「でも、ここでは冬は越せない、連れて行ってください!」
「行った先で冬が越せる確証はないのですよ?」
「ここでは確実に越せないんですよ!」
「でも、食料や水はあるのに……」
「あの変な怪物が出るのでとうきびも碌に採れない!」
「さっきのミサンガがあれば大丈夫なのですが……」
「なぁ!頼むよ!車に乗れるだけでいい、連れていってくれ!子供や爺さん婆さんだけでも!」
「苫小牧の避難所もいっぱいでしたよね……」
「今、避難所はどこもいっぱいだろうなぁ」
救助一件目からこの状態か。確かにどこも切羽詰まっているだろうから仕方ないのだが、どうしたもんか。
俺たちの重要な仕事は『ブックマーク』だ。救助が必要な先は『救助チーム』を呼ぶ事になっている。
しかし、救助が必要か、と言われると悩む。
食料も住む場所もある彼らに必要なのは灯油やガソリンなのだ。それを俺たちは持っていない。
いや、車一台分くらいのガソリンを渡す事は出来るだろう、しかしそれではどうにもならないだろう。
彼らがそのガソリンで車に乗って避難場所を探したとして、果たして。避難所が見つかったとしてそこに入れるか、入れたとして、その避難所で食料や暖が取れる保証はない。
ぐずぐずしている時間が勿体ない。ここは俺が何とかしなくては!
「あの!聞いてください! ここは家があって食べ物も水もある。襲ってくる植物はさっきのミサンガを持っていれば近くにこない。この家の周りと畑くらいは大丈夫です! ここにとどまれない理由は『暖』ですよね。冬を越せる暖。薪ストーブや暖炉はありませんか?昔はどうやって暖をとってました?木は周りに沢山ありますよね」
何かを言い返そうとした人を爺さんが止めた。
「何とかなる。昔は何とかしてた。……ただ、薪は木を切って直ぐに使えるもんじゃねぇ。乾かさなくちゃならねぇ」
「では、薪があれば暫くは凌げますか?」
俺はアイテムボックスからよく乾燥させた木の枝を出した。
実は洞窟周りの倒してしまった木や枝を集めて置いていたのだ。杉田のジッちゃんちの空き地を借りていた。
火山灰を精霊に吹き飛ばしてもらった時に、乾燥出来るか聞いてみたら、サクッと乾燥してくれた。そしてアイテムボックスへしまって置いたのだ。カンさんちにあった薪ストーブを洞窟で使う時の薪に使おうと思った。
それから魔物植物を倒してシュワシュワっと縮んで消えた後に残った黒い石の様な塊。
これ、報連相を掛けたら何とドロップだった!
『魔物植物の核:最上質の炭、長時間燃え続ける、ひとつでかなりの暖かさ。火が着いた状態で核同士をぶつけると爆発する危険がある』
報連相を聞いたパーティ(当時はゆうご以外)が直ぐに飛んできて、見つけたら拾うように言われた。放置は危険。
それから、アイテムボックスから以前にホームセンターで集めた中に火鉢があったのを思い出して、それも取り出した。
火鉢の中に魔物植物の核をひとつポロンと置き、火をつけた。
うわ、あっつ。
思わず火鉢を家の外へ出して、家の門の外へ置いた。
「これ、近づくと火傷するから気をつけてくださいね。ここ線を引いておきます」
どれくだいの時間保つのか知らんが、とりあえず『熱い』から『暖かい』の間に線を引いた。
家の玄関は勿論、窓を開けると暖かさは家の中にも入ってくる。道路から家を挟んだ畑の方は春くらいの暖かさだ。
核が切れた時ように予備を渡すか悩んだが取り扱いが難しいのでやめておいた。
何が起こっているのかわからずに唖然としている状態の大人達を他所に、やはり元気なのが子供と老人だった。
今ここに居るのが若者だけだったら説得は無理だったが、何とかなりそうで良かった。
キヨカやマルクは、スマホの連絡先やラジオの周波数などを伝えていた。北海道の拠点造りが始まれば、通信が復活する可能性がある。
それから、乳幼児や子供の物で足りない物を女性から聞き出して箱詰めして渡していた。
俺たちはキャンピングカーに乗り込んで次のブックマーク先へと出発した。
車内ではテーブルで今回の事を話す。
「これから内陸部に入ると家が増えてきます。北海道の一番の問題はこの広さですね」
「そうだなぁ。集まるに集まれない、移動が厳しい。通信が通じないのとガソリンが無いのが問題だなぁ。そして冬か」
「でも、冬問題は、否の木やカラ魔ツを倒せばいいんじゃない?」
マルクはそう言うが、一般人に魔物植物退治は難しいだろう。かと言って俺たちには今、それをしている時間はない。
「そうだなぁ、けどブックマークもしないといけないしな…」
「だったらー、さっさとブックマークしちゃって、次は魔植倒しながら燃料配ればいいんじゃない? 両方いっぺんだとカオるんがぐるぐるするからねw」
「そうだよ!父さん!」
アネさんの言う通りだな。ぐずぐず考えるよりも、まさにソレが一番だな。
「よっし、スピードをあげてブックマークをするぞ!」
カイホAにスピードを上げてもらった。サッチョーさんは「法定速度がぁ」とか言っていたが、こんな時代に誰が気にするってんだ。
あ、一応、人を跳ねないようには気をつけてもらう。歩いている人は全くいないが。
「熊とか鹿はどうします?」
「急に出てきたら避けれないよな?」
「その辺は適宜で頼む」
タウさんらには念話でこの事を報告した。まず褒められてそれから少しだけ怒られた。
「こう言う時の為に『救助チーム』を用意しています。救助チームにその辺りをお任せする予定ですので、カオるん達はガンガンと進めてくださってかまいませんよ?」
そうか、そうだったのか。救助って名前だったから何か凄い状態の時にお願いするのかと思ってた。
「千歳です。皆さん降りてブックマークを」
「ブックマークは千歳駅でお願いします」
キヨカに言われた。チトセ駅…と。北海道は漢字が難しいのでほぼカタカナで想像しながら登録をしている。
トマコマイ、サッポロ駅中央口、ワッカナイ…オタル駅、チトセ。
漢字テストがあったら俺、0点取れる自信があるな。ト真子麻衣、殺歩路、輪っか内、小田流、血と背……。北海道、難しすぎるだろ!
マルクはキヨカに聞いて漢字で登録をしているようだ。……スン。いいんだ、息子は父を追い越していくものさ。
「千歳って書くんだー、それでちとせなの?すごいねぇ」
ほうほう、なるほど。聴き耳を立てていたがもうカタカナで登録したからな。変更はしない。
「次は千歳空港でここから直ぐです。皆さん乗ってください」
カイホAに言われて急いで乗車した。
チトセ空港も登録をした。出発した。
「次もそんなにかかりません。北広島駅です」
「北海道なのに広島?」
思わず声に出してしまったが、全国で同じ地名があっても別におかしくないか。銀座なんて各都市にあるくらいだからな。
「そうなんです。元は広島駅だったそうですが、広島県と区別を付けるために北を付けたそうですよ」
「めちゃくちゃ北だな……」
そんな話をしていた時、念話が入った。
フレンド登録の念話で、サンちゃん(自衛隊のサンバ)だった。
とにかく落ち着いて話を聞きたいのだが、キャンピングカーに乗せるには多すぎる。
ざっと数えて赤ん坊も入れると17人か。
「車より、一旦家の中へ入らせていただきましょうか。子供や怪我人が居たと言う事は室内は安全なのですよね?」
キヨカの言葉に、近くに居た男性が頷く。
「とうきびなら沢山ある、持っていってくれ、その代わりガソリン分けてもらえないか」
「はい。大丈夫です。それより建物の中へお邪魔させてください」
男性は頷き、家から出てきた人らを促して家の玄関へと向かう。カイホAは、車を家の前に付けますと言って運転席へと戻った。
自宅は多少荒れてはいたが、何かに襲われた感じは無かった。
とりあえず怪我人を尋ねるとさっきの包帯の男と、ズボンで見えなかったが足に包帯を巻いている男性も居た。
近くのソファーに座ってもらいヒールをかけた。
かけられた本人は何が起こったのかさっぱりわかっていなかったが、痛みが突然無くなった事に驚き、包帯の上から恐る恐る触っていた。
車を停めたカイホAも来たので話を聞いた。
隕石落下、津波の被害は無かった。多少の地震はあったが建物の被害もなく家族と家で暮らす事に問題は無かった。
ただひとつ、ガソリンの入手が出来なくなった。
北海道は広い、車が無いと移動ができない。そのためのガソリンは不可欠なのだ。
広い畑もガソリンが無いと、足で回れる範囲しか世話が出来ない。仕方なく近場の畑のみ世話をした。
本州のどこかで火山が噴火したらしいが、火山灰も毎日はらい落とせる程度であった。勿論、手が届かぬ遠方の畑はダメになった。
今は自分達が食べるのに困らない程度はある。が、冬が来たら。
電気が届かなくなった。理由はわからない。灯油の入手出来ない。このまま冬が越せると思えない。
畑の向こう(ここから見えないが)の家から2家族が集まった。残ったガソリンや灯油を持って来てくれた。
一緒に居た方が節約になると考えたからだそうだ。つまり今ここには3世帯が集まっているのか。
電話が通じなくなる前は、地元の消防団からの連絡も定期的にあったそうだ。
「ここら辺りはみんなそんな感じだ。隣の家が遠い。電話が通じなくて車も出せなくなるとどこも孤立だろ」
「そうだね」
「それどころか、どうなってるかもわからんよ」
「うちは志波田さんとこに早くに居させてもらって良かった。あんな怖い事……なぁ」
「怖い事? 何がありました?」
カイホBが先を促すと、何人かが顔を見合わせながらおずおずと話し始めた。
「信じてもらえないかも知れんが、木が……歩いてたのよ」
「本当だ、気持ち悪い、ズルっズルっと根っこ引きずってこっちに来た」
そして、何人かがこっちを振り返って、俺がヒールをした男性を見た。
「そんでその時近くに居た高橋のオッちゃんが弾き飛ばされて、そしたら茂吉が突っ込んでって、茂吉が蔓に巻かれて林の中へ……」
「わあああああん、わああああん、もぎぢぃぃ」
突然男の子が泣き出した。
えっ?茂吉……さんが、魔物植物に攫われたのか?
「あ、茂吉は涼くんが可愛がってた犬なんらわ」
あ、ああ、犬か。犬が魔物植物に攫われたのか。ま、まさか魔物植物って肉食……じゃないよな?
いや、どっちにしても許すまじ。イッヌを襲うとは許せん。
「それでその後に男達が何人かでナタとか持って奥の林に入ったけど、何か硬い物がビュンビュン飛んできて、怪我して戻って来たんだわ」
なるほど。やはりここらも魔物植物は居るのか。
「魔物植物は全国的に出現しているのでしょうかね」
カイホAの言葉にお爺さんが驚いた。
「東京にも居るんか、あの変な植物はぁ!」
「どうする?」
「どこに逃げたらいいの」
「とにかく街へ行こう、街のが移動しやすいだろ。そうだ、アンタら、東京からどうやって来た? 飛行機か? 札幌からか? そっちは電気通ってるか?」
「電話とかネットは繋がる?」
「人が多いとこなら避難所とかあるだろ」
皆が口々に喋った後、こちらの返事を待つように黙った。
「私達は、茨城の避難所から来ました」
「イバラキってどこだ?」
「爺さん、茨城は関東だよ。東京の上か横かその辺り」
「ええ、まぁ、関東…東京都の右横の千葉県の隣です」
「デスティニーランドの近くだ!千葉県ってデスティニーランドあるとこだよね!そこに避難しようよ、デスティニーランド行けるよ!」
いや、行けねぇよ。デスティニーランドは今、水の中だ。
とは言えない。子供の夢を壊してはいけない。
カイホBが口を開いた。
「飛行機は飛べません。富士山が噴火いたしました。他にも幾つかの火山が。本州は火山灰が酷い状態です。我々は……」
言葉を探しているようだ。
「私達はね、船で来たのよ。苫小牧からは車で、今外に止めてあるでしょ、あれで」
アネがサックリと答えた。
「あのねー、木が歩いていたでしょ。今どこも、世の中がヘンテコになってるの。こっちが今までの常識に縛られていると生き残れないのよ。それでね、これあげる」
アネがエントのミサンガを出した。
「あの歩く木ってこれを嫌うから、これを持ってると襲われないわよ、あ、はぁーん、疑ってもいいわよ。別に宗教でも教祖でもないから。あくまで親切でこれを渡すだけ。お金も取らないし宗教に入れとも言わない。ってか宗教でないからね」
そう言って差し出したミサンガに手を伸ばしたのは小学生くらいの男の子だった。茂吉?の飼い主の子だ。
アネはその子にミサンガを渡すと、その子に向かってさらに話を進めた。
「大人はどうせ古い常識に囚われて信じないだろうから、君が使いなさい。沢山ないからひとつしか渡せなくてごめんね」
アネに続くようにカイホAが続ける。
「我々は次の地点へ急いでいます。次の地点は千歳ですが、実際に行ってみないとどうなっているかわかりません。千歳に皆さんを連れて行く事は出来ません」
「でも、ここでは冬は越せない、連れて行ってください!」
「行った先で冬が越せる確証はないのですよ?」
「ここでは確実に越せないんですよ!」
「でも、食料や水はあるのに……」
「あの変な怪物が出るのでとうきびも碌に採れない!」
「さっきのミサンガがあれば大丈夫なのですが……」
「なぁ!頼むよ!車に乗れるだけでいい、連れていってくれ!子供や爺さん婆さんだけでも!」
「苫小牧の避難所もいっぱいでしたよね……」
「今、避難所はどこもいっぱいだろうなぁ」
救助一件目からこの状態か。確かにどこも切羽詰まっているだろうから仕方ないのだが、どうしたもんか。
俺たちの重要な仕事は『ブックマーク』だ。救助が必要な先は『救助チーム』を呼ぶ事になっている。
しかし、救助が必要か、と言われると悩む。
食料も住む場所もある彼らに必要なのは灯油やガソリンなのだ。それを俺たちは持っていない。
いや、車一台分くらいのガソリンを渡す事は出来るだろう、しかしそれではどうにもならないだろう。
彼らがそのガソリンで車に乗って避難場所を探したとして、果たして。避難所が見つかったとしてそこに入れるか、入れたとして、その避難所で食料や暖が取れる保証はない。
ぐずぐずしている時間が勿体ない。ここは俺が何とかしなくては!
「あの!聞いてください! ここは家があって食べ物も水もある。襲ってくる植物はさっきのミサンガを持っていれば近くにこない。この家の周りと畑くらいは大丈夫です! ここにとどまれない理由は『暖』ですよね。冬を越せる暖。薪ストーブや暖炉はありませんか?昔はどうやって暖をとってました?木は周りに沢山ありますよね」
何かを言い返そうとした人を爺さんが止めた。
「何とかなる。昔は何とかしてた。……ただ、薪は木を切って直ぐに使えるもんじゃねぇ。乾かさなくちゃならねぇ」
「では、薪があれば暫くは凌げますか?」
俺はアイテムボックスからよく乾燥させた木の枝を出した。
実は洞窟周りの倒してしまった木や枝を集めて置いていたのだ。杉田のジッちゃんちの空き地を借りていた。
火山灰を精霊に吹き飛ばしてもらった時に、乾燥出来るか聞いてみたら、サクッと乾燥してくれた。そしてアイテムボックスへしまって置いたのだ。カンさんちにあった薪ストーブを洞窟で使う時の薪に使おうと思った。
それから魔物植物を倒してシュワシュワっと縮んで消えた後に残った黒い石の様な塊。
これ、報連相を掛けたら何とドロップだった!
『魔物植物の核:最上質の炭、長時間燃え続ける、ひとつでかなりの暖かさ。火が着いた状態で核同士をぶつけると爆発する危険がある』
報連相を聞いたパーティ(当時はゆうご以外)が直ぐに飛んできて、見つけたら拾うように言われた。放置は危険。
それから、アイテムボックスから以前にホームセンターで集めた中に火鉢があったのを思い出して、それも取り出した。
火鉢の中に魔物植物の核をひとつポロンと置き、火をつけた。
うわ、あっつ。
思わず火鉢を家の外へ出して、家の門の外へ置いた。
「これ、近づくと火傷するから気をつけてくださいね。ここ線を引いておきます」
どれくだいの時間保つのか知らんが、とりあえず『熱い』から『暖かい』の間に線を引いた。
家の玄関は勿論、窓を開けると暖かさは家の中にも入ってくる。道路から家を挟んだ畑の方は春くらいの暖かさだ。
核が切れた時ように予備を渡すか悩んだが取り扱いが難しいのでやめておいた。
何が起こっているのかわからずに唖然としている状態の大人達を他所に、やはり元気なのが子供と老人だった。
今ここに居るのが若者だけだったら説得は無理だったが、何とかなりそうで良かった。
キヨカやマルクは、スマホの連絡先やラジオの周波数などを伝えていた。北海道の拠点造りが始まれば、通信が復活する可能性がある。
それから、乳幼児や子供の物で足りない物を女性から聞き出して箱詰めして渡していた。
俺たちはキャンピングカーに乗り込んで次のブックマーク先へと出発した。
車内ではテーブルで今回の事を話す。
「これから内陸部に入ると家が増えてきます。北海道の一番の問題はこの広さですね」
「そうだなぁ。集まるに集まれない、移動が厳しい。通信が通じないのとガソリンが無いのが問題だなぁ。そして冬か」
「でも、冬問題は、否の木やカラ魔ツを倒せばいいんじゃない?」
マルクはそう言うが、一般人に魔物植物退治は難しいだろう。かと言って俺たちには今、それをしている時間はない。
「そうだなぁ、けどブックマークもしないといけないしな…」
「だったらー、さっさとブックマークしちゃって、次は魔植倒しながら燃料配ればいいんじゃない? 両方いっぺんだとカオるんがぐるぐるするからねw」
「そうだよ!父さん!」
アネさんの言う通りだな。ぐずぐず考えるよりも、まさにソレが一番だな。
「よっし、スピードをあげてブックマークをするぞ!」
カイホAにスピードを上げてもらった。サッチョーさんは「法定速度がぁ」とか言っていたが、こんな時代に誰が気にするってんだ。
あ、一応、人を跳ねないようには気をつけてもらう。歩いている人は全くいないが。
「熊とか鹿はどうします?」
「急に出てきたら避けれないよな?」
「その辺は適宜で頼む」
タウさんらには念話でこの事を報告した。まず褒められてそれから少しだけ怒られた。
「こう言う時の為に『救助チーム』を用意しています。救助チームにその辺りをお任せする予定ですので、カオるん達はガンガンと進めてくださってかまいませんよ?」
そうか、そうだったのか。救助って名前だったから何か凄い状態の時にお願いするのかと思ってた。
「千歳です。皆さん降りてブックマークを」
「ブックマークは千歳駅でお願いします」
キヨカに言われた。チトセ駅…と。北海道は漢字が難しいのでほぼカタカナで想像しながら登録をしている。
トマコマイ、サッポロ駅中央口、ワッカナイ…オタル駅、チトセ。
漢字テストがあったら俺、0点取れる自信があるな。ト真子麻衣、殺歩路、輪っか内、小田流、血と背……。北海道、難しすぎるだろ!
マルクはキヨカに聞いて漢字で登録をしているようだ。……スン。いいんだ、息子は父を追い越していくものさ。
「千歳って書くんだー、それでちとせなの?すごいねぇ」
ほうほう、なるほど。聴き耳を立てていたがもうカタカナで登録したからな。変更はしない。
「次は千歳空港でここから直ぐです。皆さん乗ってください」
カイホAに言われて急いで乗車した。
チトセ空港も登録をした。出発した。
「次もそんなにかかりません。北広島駅です」
「北海道なのに広島?」
思わず声に出してしまったが、全国で同じ地名があっても別におかしくないか。銀座なんて各都市にあるくらいだからな。
「そうなんです。元は広島駅だったそうですが、広島県と区別を付けるために北を付けたそうですよ」
「めちゃくちゃ北だな……」
そんな話をしていた時、念話が入った。
フレンド登録の念話で、サンちゃん(自衛隊のサンバ)だった。
460
あなたにおすすめの小説
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった
海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。
ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。
そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。
主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。
ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。
それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。
ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ガチャから始まる錬金ライフ
盾乃あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。
手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。
他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。
どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。
自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる