自立したい僕を社長が甘やかしてきます

春夏

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5.繋がる心

18.僕のままで

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学校のことなんかを話していると、あるお店の駐車場で車が止まる。
「勝手に選んでもうたけど良かったかな」
「ここ、小学生のころ来たことあります。久しぶり」

ラストオーダーぎりぎりに個室に滑り込んで、それぞれメニューを開く。
「遠慮せんと、好きなもん選んでエエよ」
そんな言葉に甘えて、鶏五目釜飯とお味噌汁のセットを注文。
「そんだけで足りるん?」
「充分です。それに子どもの頃からこの釜飯が好きで。誕生日とかに連れてきてもらってました」
「そか。思い出の味やねんな」

釜飯は注文されてから炊かれるため、30分ほどの時間がかかる。
「じゃ、この間に…。隣、ちょっと使っていいですか?内緒話なんです。……葵クン、こっちで話そう」
僕らのあとから入ってくるお客さんはもういないから、お店の人も笑顔で「どうぞ」と言ってくれた。
このお店を選んだのは柴田さんと話す時間を作ってくれるためだったんだ、と気づいて、ありがたいような申し訳ないような、複雑な気持ちになった。

「葵クン、オメガなんだってね。ぼくもそうなんだ」
「横山さんが、いろいろ教えてくれるように頼んだ、って言ってました。僕、相談できるような人がいなくて…。面倒かけてすみません」
「かまわないよ。不安だらけだよね?ぼくもそうだった。知りたいこと、知っておかなきゃならないこと、なんでも話そう」

柴田さんの優しい声に、目の奥が痛くなる。
「泣かないでよぉ。大丈夫、怖いことじゃないからね」
「…僕、ヒートがくるのが怖くて、だけど避けられることじゃないし、でも、でも……」
テーブルの向こうに座っていた柴田さんが僕の隣に移る。
背中を撫でてくれる手の暖かさが、僕の涙をようやく止めた。

「…葵クン。今日はあまり時間がないから、今度ゆっくり話をして、必要なものの買い物もしようね。だから、今日はひとつだけ覚えておいて」
顔を上げた僕に柴田さんが言う。
「ヒートがきてオメガという性を自覚するようになったとしても、葵クンは葵クンのままだよ。頑張り屋さんで、真面目に働いて、しっかり勉強して。みんなに可愛がられる葵クンが変わってしまうわけじゃないよ。自分のことを信じてあげてね」

「オメガって、やらしいことしか考えられないんだろ?葵もそうなんだろ?嫌がってるふりなんかするなよ」
僕を押さえつけながら、いとこはそう言った。
違う、嫌だ、叫んでも蹴っても止めてくれなかった。
僕は違う、僕はそんなんじゃない、何度言っても信じてくれなかった。
……僕もそうなっちゃうの?
ヒートの時じゃなくても、そのことしか考えられなくなっちゃうの?
怖い、ヒートが来るのが怖い。

「…僕は…僕のままでいられる…?」
「もちろん、葵クンは葵クンだ。ぼくだってぼくのままだよ?今のぼくには一緒に過ごしてくれるパートナーがいるけれど、1人の時でも大丈夫なように準備しておけば済むことだよ。大丈夫、何も変わらないよ」

力が抜けたように膝に頭を埋める僕にタオルを渡して、顔を洗っておいで、と柴田さんが席を立つ。
鏡に向かって僕は思う。
僕は僕のまま。
僕は何も変わらない、僕は僕のままなんだ……。

「お待たせしました」
「葵、ご飯きとるで」
智秋さんの声に返事をかえす僕の声は、僕自身の耳にも弾んで聞こえた。
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