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中編─婚約者─
しおりを挟む俺はいつ見ても美しい。
どの角度からも完璧だ。鼻は高く輪郭はしゅっとしていて瞳は美しいエメラルド。
この俺に微笑まれて顔を赤くしない女がいたらそいつはどこかおかしい。感性が育ちきっていないのだろう…。気の毒に。
俺の婚約者が正にそうだ。いつも自信が無さそうに下を向き、俺と目を合わせても顔を赤くするどころか青褪めるばかり…。
あれでは軽視されても仕方がないのではないか?
ファッションセンスもなっていない。妹のタルト嬢を少しでも見習ってほしいものだ。いつも流行の最先端の服を着ておられる。
皆、弱い者を見抜く目を持っている。
こいつには強く出てもいいが、こいつには気を遣わなければいけない…。
そうやって勝手に判断して振る舞うのだ。
馬鹿にされても言い返さないアリアを見ると心底苛つく。これは好意からではない…。
ましてや好きな女性ほど苛めたいという愚かな考えからでもない…。
つまり俺は彼女のことなど何とも思っていない。
だからあの日、彼女が家を訪れてきた意外性に何かの間違いではと思った。
連絡も無しに来るなど今までなかったことだ。いつも必要以上に近寄ってなどこないくせに…。
『あなたの顔、好みではありませんの』
冷たい響きだった。どうしてそんな流れになったのかは分からない。
ただアリアがそれが真理とでも言いたげに凛とした口調で言った。
感性がどうたらと考えている暇などなかった。自分でも驚くほどダメージを受けていた。
口を開こうとするとアリアが言う。
『妹はあなたのことを気に入っているみたい…ふふとてもお・似・合・いだわ。』
含みのある口調で言われた。追い縋ろうとする俺に彼女は追い討ちをかけてきた。
『そもそも痛いのよね…。大した顔でもないのにあまり調子に乗らないことね。─私からの最後の忠告よ』
彼女の美しい瞳は隠されていた。それが本当に見放したと言っているようで…。
俺は今更ながらに気づいた。
彼女にただ微笑んでほしかったのだということを…。
もう遅い。全ては終わってしまった。彼女の良さを俺が誰よりも分かっていたというのに口を開けば傷つけるようなことばかり。
自業自得だ。
あの美しい黒髪もルビーのように輝く瞳も俺のものにはならない。いつも誰に対しても態度を変えず公正だった彼女。
具合が悪い者に一早く気づいて手を差し伸べていた彼女。
良いところなどいくらでも挙げられるのに、彼女が自分に振り向くことはもうないだろう…。
俺は悲しみにしばし浸っていたい。
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