わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが

水谷繭

文字の大きさ
12 / 67
2.改心してがんばります!

しおりを挟む
 アベル様は、『星姫のミラージュ』のサブキャラクターだ。

 ヒロインのステラに思いを寄せるが、最後には兄とステラの仲を応援して身を引くことになる。

 読者からも大変人気のあるキャラだった。


 しかし、漫画の中でアベル様がリリアーヌと関わる場面はほとんどなかった気がする。

 なのに、漫画の記憶ではない私のこの世界の記憶では、アベル様はやけにリリアーヌに絡んでいた。

 私が王宮までジェラール様に会いに行けば、呼んでもないのに勝手に二人のお茶会に割り込んできたり、学園でも高等部と中等部で校舎が違うのに、やたらと会いにきたり。

 漫画にはそういった話は一切描かれていなかったので、前世と今世の記憶が合わさると、不思議に感じてしまった。

 首を傾げる私に、なおもアベル様は尋ねてくる。


「ねぇ、リリアーヌ。本気なの? 本気で兄上との婚約をやめるつもり?」

「え、ええ……。まぁ」

 私が曖昧に答ると、アベル様はぱっと目を輝かせた。

「よかった! それがいいよ! リリアーヌ、ちっとも相手にされていない兄上に毎日付き纏って、見ていられなかったもん!」

「さっきから失礼ですわね! 私は必死だったんです!」

 私が怒ると、アベル様はごめんごめんと謝る。

 それから私の手を取ってぎゅっと握りしめてきた。


「ねぇ、リリィ」

「愛称で呼ばないでください」

「それなら僕と婚約しない?」

「はぁ?」

 私はアベル様に手を掴まれたまま、間抜けた声で聞き返した。


「一体何をおっしゃってるんですか」

「だって兄上との婚約は破棄したんでしょう? ならいいじゃないか。僕と婚約し直そうよ。リリィには兄上より僕の方が合ってるって」

 アベル様は、笑顔でそんなことを言う。

「お断りします。今は新しく婚約を結ぶ気分ではありませんの。大体、ジェラール様との婚約だってまだ正式に解消されたわけではないのですよ」

「そんなこと言わないでよ。僕の何が不満なの?」

「不満だらけですわ。それに、私はシャリエ公爵家を継ごうと思ってるんです。今は新しい婚約者のことなんて考えている暇はないのですわ」

「えっ」

 アベル様は驚いた顔をした。


「リリアーヌ、本気? リリアーヌに公爵の仕事なんてできるの? その前に公爵って何かわかってる?」

「本当に失礼ですわね! わかってますし、できますわ! ……できるというか、ちゃんと勉強したら、将来は多分……できるようになりますわ!」

 反論する声が最後の方で弱気になってしまった。

 口に手をあてて何か考え込んでいたアベル様は、ふいに笑顔になって言う。


「でも、それなら僕がシャリエ家の婿になればちょうどいいんじゃない?」

「アベル様が婿に来るなんて嫌です」

「僕が君の補佐をするよ。リリアーヌだって今からよく知らない男と婚約し直すよりも、僕の方が気心が知れていていいだろ? ねぇ、リリィ。僕はずっとリリィのことを見てたんだ」

 アベル様はいつになく真剣な口調でそんなことを言う。

 私は眉間に皺を寄せて、掴まれていた手を振り払った。


「からかわないでくださいまし。私、もう行かせていただきますわ」

「あっ、待ってよ、リリィ!」

「だから愛称で呼ばないでください!」

 私はアベル様を無視して、バスケットを閉じてベンチから立ち上がった。

 アベル様はまだ付き纏ってきたけれど、全て聞こえないふりをする。

 私はこれからシャリエ家の当主を目指す予定なのだ。

 アベル様の突拍子もない冗談につき合っている暇なんてない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。 他小説サイトにも投稿しています。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。

暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。 リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。 その翌日、二人の婚約は解消されることになった。 急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...