わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが

水谷繭

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5.できるかしら

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「よし、じゃあ早速勉強を再開しようかしら」

「えっ、帰ってきたばかりなのにですか? 少し休んだらどうです?」

「いいえ。私には時間がないの! テストまであと二週間しかないんだから。シルヴィ、鞄を貸して」

 私はシルヴィに持ってもらっていた鞄を受け取る。そして、中から教科書を取り出した。

 再び頭をぐるぐるさせながら読み進める。

 そんな私を、シルヴィは呆気に取られた顔で見ていた。


「本当にお嬢様、変わられましたね……」

「ええ、私は今までのリリアーヌじゃないのよ」

 私は教科書に視線を落としたまま言った。

 その後、シルヴィは「お茶を持ってまいります」と言って部屋を出て行った。

 静かな部屋で、私は淡々と教科書に書いてある文章を眺める。


 今読んでいるのは、市場についての章だ。

 需要曲線だとか価格弾力性だとか、動的価格設定だとか、聞いたことのない単語がいっぱいに並んでいる。

「どれも意味がわからないわ……」

 私はソファにもたれかかりながら、げんなりして言った。


 すると、ノックの音がして、ティーセットを載せたワゴンを押したシルヴィが入ってきた。

「お嬢様、紅茶をお持ちしました」

「ありがとう」

 シルヴィはポットから紅茶を注ぎ、私の座っているソファの前のテーブルに置いてくれる。

 その間も私は、動的価格設定のページを読んで頭を悩ませていた。


「お嬢様、眉間に皺が寄っていますよ」

「え? そう? この辺りがちっともわからなくて」

「わー、難しそうな単語がたくさん書かれてますね……」

 シルヴィは教科書を眺めると、顔を顰めた。

「でしょう? こんなの理解しろなんて無理よね!」

 同意されたので勢いづいてそう言うと、シルヴィはしかめ面のままうなずいた。しかし、難しい顔で教科書を眺めていた彼女は、ふいに「あ」と声を上げる。


「こういうの、お店に出ていたときにあったかもしれません」

「え? どういうこと?」

「この、動的価格設定ってやつの話です。この単語は知りませんでしたけれど、こういうことあったなーって」


 シルヴィは私の手から教科書を抜き取ると、売り子時代の経験を話し出した。

 シルヴィの実家は、王都の宝石店だ。

 そのお店は貴族向けに高級ジュエリーを扱う店舗と、平民向けに比較的安価なジュエリーを扱う店舗に分かれていて、シルヴィは平民向けの店舗の方で売り子をしていた。


 シルヴィのいた店舗では、毎年王都で行われる祭典の日になると、イミテーションジュエリーのついたネックレスがよく売れたらしい。

 なんでも、平民の女の子たちの間で祭典の日にイミテーションジュエリーをつけて回るのが流行っていたみたいだ。

 なので、その日はどこのアクセサリー店でも飛ぶようにそれが売れたのだそうだ。


 シルヴィのいた店舗では普段からイミテーションジュエリーを売っていたが、本物の宝石に押されそれほど人気がなかった。なので、普段は安めの値段で売られていた。

 しかし、祭典の日だけは値段が1.5倍ほどになったのだそうだ。それでもばんばん売れていたらしい。


 ちなみに、祭典の日ではなく事前に買っておくという人は少ないらしい。

 前世でいう、テーマパークの耳飾りみたいな感じだろうか。当日お店で買うこと自体が楽しいのだそうだ。

 私はシルヴィが何の気なしにそう話すのを聞いて、ぽかんとしてしまった。
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