私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭

文字の大きさ
1 / 78
1.取るに足らない婚約者

しおりを挟む
 今日もリュシアン様の周りにはたくさんの女の子たちがいる。

 耳元で何か楽しげに囁いたり、腕を絡めて一緒にお庭に行きましょうと引っ張ったり。

 私から見れば婚約者のいる方にそんな振る舞いをするなんて無遠慮だと思うのだけれど、リュシアン様がそれを咎めることはない。

 むしろ、感じのいい笑顔を浮かべ、彼女たちの態度を歓迎しているように見えた。

(リュシアン様は私のものなのに……)

 そう思いつつも不満をそのまま口にすることなんてできず、私はただ恨めしげにリュシアン様と彼を取り囲む令嬢たちを眺めるばかり。


「ジスレーヌ、なんだその顔は。不満があるならはっきり言ったらどうだ」

 こちらに目を留めたリュシアン様が、眉をひそめて言った。私は慌てて笑顔を作り、「不満なんてございません」と口にする。

 リュシアン様はそれでも不快そうな顔のままで、すぐにほかのご令嬢たちとのおしゃべりに戻ってしまった。

(またやってしまったわ。気をつけないと)

 私はいつもリュシアン様の機嫌を損ねてばかりだ。

 侯爵家の娘と言うので運よく王太子であるリュシアン様の婚約者候補になり、両親の懸命な後押しがあって婚約者になることができたけれど、ちっとも良好な関係になれない。

 リュシアン様は私がなんとか近づこうとするたびに、迷惑そうに顔を歪める。

 それにしても綺麗なお顔だなぁ。サラサラした金色の髪に、澄んだ湖を思わせる青い瞳。彫刻のように形のいい鼻も、薄い唇も、何もかも本当に素敵。

 うっとりしながら眺めていると、リュシアン様がカップを手に取り、紅茶を口に含んだ。

 ああ、紅茶を持つその手まで、芸術品のよう。カップを持ったまま優しげな笑みで横の令嬢に話しかける姿は、絵画の中の光景そのものだった。


 すると突然、リュシアン様がカップを落として口を押さえた。

 音を立ててカップはテーブルから床に落ち、紅茶が絨毯を黒く染めていく。リュシアン様は苦しそうに呻き声を上げた。

 令嬢たちは真っ青になり、甲高い声で悲鳴を上げた。

「大丈夫ですか、リュシアン様!」

「早く人を呼んできて!」

 リュシアン様を取り囲み、皆口々に叫ぶ。

「待て、騒ぐな。俺は大丈……」

 リュシアン様は立ち上がって外に出ようとする令嬢を止めようとするが、最後まで言い切らないままぐったり崩れ落ちてしまう。

 私はその光景を、ただ見つめていることしかできなかった。

 リュシアン様が苦しんでいる。何かしなくてはと思うのに、苦しげな彼の顔を見たら凍りついたように足が動かなくなった。

 そうこうしているうちに、王宮の使用人たちが駆け込んできてリュシアン様の介抱を始めた。

 少しするとお医者様もやって来る。部屋にいた令嬢たちは私を含め皆外に出され、お茶会は混乱の中お開きとなった。

 私は後ろ髪を引かれる思いで王宮を後にした。


 翌日になり、昨日リュシアン様が飲んだ紅茶には毒が混入されていたことがわかった。

 まず疑われたのは紅茶を持ってきたメイド。

 しかし、彼女は同じティーポットから皆にお茶を注いでおり、ほかの者は紅茶を飲んでも無事だった。そのため、疑われはしたものの犯人と断定されるには至らなかった。


 次に目を向けられたのは、あの日お茶会に集まっていたご令嬢たち。参加者は順番に王宮に呼ばれて話を聞かれることになった。

 私も当然王宮に呼ばれたが、それは取り調べなんて雰囲気ではなく、笑みを浮かべた役人によって和やかな雑談のように進められた。

 おそらく、貴族令嬢に疑いの目を向けることに遠慮があったのだろう。

 リュシアン様が心配ではあったが、私はその雑談のような取り調べを割と落ち着いた気持ちで受けることができた。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

要らないと思ったのに人に取られると欲しくなるのはわからなくもないけれど。

しゃーりん
恋愛
フェルナンドは侯爵家の三男で騎士をしている。 同僚のアルベールが親に見合いしろと強要されたと愚痴を言い、その相手が先日、婚約が破棄になった令嬢だということを知った。 その令嬢、ミュリエルは学園での成績も首席で才媛と言われ、一部では名高い令嬢であった。 アルベールはミュリエルの顔を知らないらしく、婚約破棄されるくらいだから頭の固い不細工な女だと思い込んでいたが、ミュリエルは美人である。 ならば、アルベールが見合いをする前に、自分と見合いができないかとフェルナンドは考えた。 フェルナンドは騎士を辞めて実家の領地で働くために、妻を必要としていたからである。 フェルナンドとミュリエルの結婚を知ったアルベールは、ミュリエルを見て『返せ』と言い出す、というお話です。

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない

咲桜りおな
恋愛
 愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。 自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。 どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。 それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。 嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。 悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!  そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。

処理中です...