11 / 78
3.監視係さん
②
しおりを挟む
「え、ええと、ジスレーヌ・ベランジェです。よろしくお願いします」
「ジスレーヌ様、いいところのお嬢さんなんですよね。それがこんな場所に入れられることになって大変でしたね。もし困ったことがあれば何でも言ってください。俺も一人で監視係を務めるのは初めてなんですけど、できるだけのことはしますから!」
ロイクさんはそう言って胸を叩いた。
「それはありがとうございます。あ、玄関先ですみません。中には入られますか?」
監視ということは、屋敷の内部まで確認するのかと思い尋ねてみる。
「いえ、監視係は屋敷の門までしか入れない決まりなんです。ここには障壁魔法がかかっているので、決められた者しか入れません。監視係が屋敷に入る時は、他の監視係を一人以上連れてきて、二人分の鍵を使わないと屋敷に入れない仕組みになっているんです」
ロイクさんはそう言うと、ポケットから銀色の鍵を取り出して見せてくれた。
「そういうものなんですか。監視係って何人もいるんですね」
「はい。近くの町にここを管理するための事務所があって、十人くらいが勤めています。俺は勤続四年目にして、今回初めて一人で担当することを任されました!」
ロイクさんはどこか誇らし気に言う。説明を聞いていると、呪いの屋敷の監視係なんていうものものしい役割なのに、なんだか普通のお仕事みたいでおかしくなってしまった。
「私が記念すべき一人目の罪人なんですね」
「はい、罪人……っていうとちょっとあれですけど、ジスレーヌ様が最初のお客さんですね」
ロイクさんはそう言って笑った。あんまり曇りのない笑顔なので、昨日からずっと感じていた緊張感が解れていくような気がした。
「今日はひとまず挨拶だけしに来ました。次は七日後に来ます。もし七日経つ前でも、玄関横にプレートがあるでしょう? それにこの魔石をはめ込めばうちの事務所に繋がるので、何かあったら連絡してください」
ロイクさんはそう言って緑色の魔石を渡してくれた。明かりをつけるときに使ったのと色違いの石だ。私はそれを大事に懐にしまった。
「それでは、また七日後に」
「あの、ロイクさん!」
お辞儀をして去って行きそうなロイクさんを慌てて引き止める。ロイクさんは振り向いて「なんですか?」と尋ねる。
「ちょっと屋敷でおかしなことがあったんです。その……」
昨日屋敷で起こったことを思い出す。ひとりでに閉まるドア。突然棚から落ちた日記。頬を撫でた風。なにより一番は……。
「昨日、お屋敷の部屋を回っていたら、二階の奥から二番目の部屋で手紙を見つけたんです。そこには『お前たちを許さない』って……血のような赤黒い字で書かれていました」
思い切って昨日のことを伝える。いくつかあった違和感のうち、これが一番はっきりしているものだ。
ロイクさんは私の言葉に目を見開く。
「そんな手紙があったんですか? 部屋のどこに?」
「机の上に置いてありました」
「おかしいな……。屋敷に人を入れる前には、管理人数人で入って中を確認するんですよ。もちろん、その時には手紙なんて置いてありませんでした」
「そ、そうなんですか?」
「はい。ここは人が侵入してこないように厳重に障壁魔法がかかっているから、外から人が入って来るなんてできないはずなんですが……」
ロイクさんは顎に手を当て、難しい顔をする。そして真面目な顔をして言った。
「その手紙を持ってきてもらうことはできますか。事務所で報告しておきます」
「えっ……」
「? 難しいですか?」
「いえ、ちょっとあまり近づきたくなくて……」
私がそう言うと、ロイクさんは気の毒そうな顔になった。
「わかりました。それなら大丈夫です。確かにそんな手紙に近寄りたくありませんよね。そんなことがあったなら一旦お屋敷から出してあげたいんですが、俺にはそんな権限はなくて……」
「いえ、大丈夫です。実害はないですから」
「すみません。難しいと思いますけれど、一応考慮してもらえないか確認しておきます」
ロイクさんはそう言ってくれたが、手紙が置かれていたくらいで一旦出してもらうのは無理だろうと思った。
多分、そういう不可解なことが起きるのを承知で閉じ込めているのだろうから。そうじゃなければ、呪われているという屋敷に幽閉したりしない。
「心細くなったら、いつでも連絡してくださいね」
ロイクさんは励ますようにそう言うと、軽く手を振って去って行った。
再び静寂が訪れた屋敷で、少しだけ名残惜しい思いをしながら扉を閉める。
「ジスレーヌ様、いいところのお嬢さんなんですよね。それがこんな場所に入れられることになって大変でしたね。もし困ったことがあれば何でも言ってください。俺も一人で監視係を務めるのは初めてなんですけど、できるだけのことはしますから!」
ロイクさんはそう言って胸を叩いた。
「それはありがとうございます。あ、玄関先ですみません。中には入られますか?」
監視ということは、屋敷の内部まで確認するのかと思い尋ねてみる。
「いえ、監視係は屋敷の門までしか入れない決まりなんです。ここには障壁魔法がかかっているので、決められた者しか入れません。監視係が屋敷に入る時は、他の監視係を一人以上連れてきて、二人分の鍵を使わないと屋敷に入れない仕組みになっているんです」
ロイクさんはそう言うと、ポケットから銀色の鍵を取り出して見せてくれた。
「そういうものなんですか。監視係って何人もいるんですね」
「はい。近くの町にここを管理するための事務所があって、十人くらいが勤めています。俺は勤続四年目にして、今回初めて一人で担当することを任されました!」
ロイクさんはどこか誇らし気に言う。説明を聞いていると、呪いの屋敷の監視係なんていうものものしい役割なのに、なんだか普通のお仕事みたいでおかしくなってしまった。
「私が記念すべき一人目の罪人なんですね」
「はい、罪人……っていうとちょっとあれですけど、ジスレーヌ様が最初のお客さんですね」
ロイクさんはそう言って笑った。あんまり曇りのない笑顔なので、昨日からずっと感じていた緊張感が解れていくような気がした。
「今日はひとまず挨拶だけしに来ました。次は七日後に来ます。もし七日経つ前でも、玄関横にプレートがあるでしょう? それにこの魔石をはめ込めばうちの事務所に繋がるので、何かあったら連絡してください」
ロイクさんはそう言って緑色の魔石を渡してくれた。明かりをつけるときに使ったのと色違いの石だ。私はそれを大事に懐にしまった。
「それでは、また七日後に」
「あの、ロイクさん!」
お辞儀をして去って行きそうなロイクさんを慌てて引き止める。ロイクさんは振り向いて「なんですか?」と尋ねる。
「ちょっと屋敷でおかしなことがあったんです。その……」
昨日屋敷で起こったことを思い出す。ひとりでに閉まるドア。突然棚から落ちた日記。頬を撫でた風。なにより一番は……。
「昨日、お屋敷の部屋を回っていたら、二階の奥から二番目の部屋で手紙を見つけたんです。そこには『お前たちを許さない』って……血のような赤黒い字で書かれていました」
思い切って昨日のことを伝える。いくつかあった違和感のうち、これが一番はっきりしているものだ。
ロイクさんは私の言葉に目を見開く。
「そんな手紙があったんですか? 部屋のどこに?」
「机の上に置いてありました」
「おかしいな……。屋敷に人を入れる前には、管理人数人で入って中を確認するんですよ。もちろん、その時には手紙なんて置いてありませんでした」
「そ、そうなんですか?」
「はい。ここは人が侵入してこないように厳重に障壁魔法がかかっているから、外から人が入って来るなんてできないはずなんですが……」
ロイクさんは顎に手を当て、難しい顔をする。そして真面目な顔をして言った。
「その手紙を持ってきてもらうことはできますか。事務所で報告しておきます」
「えっ……」
「? 難しいですか?」
「いえ、ちょっとあまり近づきたくなくて……」
私がそう言うと、ロイクさんは気の毒そうな顔になった。
「わかりました。それなら大丈夫です。確かにそんな手紙に近寄りたくありませんよね。そんなことがあったなら一旦お屋敷から出してあげたいんですが、俺にはそんな権限はなくて……」
「いえ、大丈夫です。実害はないですから」
「すみません。難しいと思いますけれど、一応考慮してもらえないか確認しておきます」
ロイクさんはそう言ってくれたが、手紙が置かれていたくらいで一旦出してもらうのは無理だろうと思った。
多分、そういう不可解なことが起きるのを承知で閉じ込めているのだろうから。そうじゃなければ、呪われているという屋敷に幽閉したりしない。
「心細くなったら、いつでも連絡してくださいね」
ロイクさんは励ますようにそう言うと、軽く手を振って去って行った。
再び静寂が訪れた屋敷で、少しだけ名残惜しい思いをしながら扉を閉める。
189
あなたにおすすめの小説
要らないと思ったのに人に取られると欲しくなるのはわからなくもないけれど。
しゃーりん
恋愛
フェルナンドは侯爵家の三男で騎士をしている。
同僚のアルベールが親に見合いしろと強要されたと愚痴を言い、その相手が先日、婚約が破棄になった令嬢だということを知った。
その令嬢、ミュリエルは学園での成績も首席で才媛と言われ、一部では名高い令嬢であった。
アルベールはミュリエルの顔を知らないらしく、婚約破棄されるくらいだから頭の固い不細工な女だと思い込んでいたが、ミュリエルは美人である。
ならば、アルベールが見合いをする前に、自分と見合いができないかとフェルナンドは考えた。
フェルナンドは騎士を辞めて実家の領地で働くために、妻を必要としていたからである。
フェルナンドとミュリエルの結婚を知ったアルベールは、ミュリエルを見て『返せ』と言い出す、というお話です。
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない
咲桜りおな
恋愛
愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。
自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。
どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。
それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。
嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。
悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!
そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる