私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭

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6.魔女の影

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 四日目の朝。

 リュシアン様と話したことで大分元気になった私は、ドレスの洗濯に挑戦してみることにした。

 ベランジェの家にいるときはメイドがいつもきれいに洗ってくれていたので、やり方は全くわからない。

 けれど、書庫で見つけた本を参考に何とかやってみようと思う。

 
 一昨昨日までに着たドレスを持って洗濯部屋まで向かう。室内の台にドレスを置いてから本を開いて洗濯方法を調べた。

 なるほど。この大きなお鍋みたいなものに服とお水を入れて、石鹸を入れてからかき混ぜればいいのか。意外と簡単そうなので、ほっとした。

 鍋にドレスを入れ、そばにあったバケツに蛇口から水を汲んで、ドレスの上からかける。後は石鹸を……と辺りを見渡したところで、石鹸がないことに気づいた。

「どうしよう……」

 小さな棚があったので中を開けてみたが、中は全て空っぽだった。仕方がないので水だけで洗うことにする。大鍋に手を入れてじゃぶじゃぶ洗った。これで汚れが落ちているのだろうか。

 三枚のドレスをやっとのことで洗い終えると、ぎゅっと絞った。

 途中で布が避ける音が聞こえたような気がしたけれど、大丈夫なのだろうか。多分大丈夫だと自分に言い聞かせた。

 おっかなびっくりでドレスを抱え、洗濯室の奥の庭につながる扉を開ける。それから二本の木に綱を張って干した。

(これでいいのかしら……?)

 うまくいった自信は全くないのだけれど、何とか洗うことはできた。ちょっとした達成感を抱えて洗濯室に戻る。


 入った途端、ひんやりとした空気を感じた。嫌な予感がして前方を見ると、そこにはまたあの長い髪の女性がいた。

 女性はやはり表情のない顔で、じっとこちらを見ている。

「あ、あの……」

 口をぱくぱく動かしていたら、女性はまたふっと姿を消してしまった。体から力が抜けてしまい、床にへたり込む。

「あれはやっぱり魔女なのかしら……?」

 もし彼女が魔女、ベアトリスなのだとしたら、私の前に現れて一体何を伝えたいのだろう。

「今日はこのくらいのことで部屋に閉じこもったりしないわ……!」

 何しろ私は昨日リュシアン様と通信して、とても元気なのだ。それに、夜にはまたリュシアン様がお話ししてくれる。魔女らしき女性の姿を見たくらいで、怯えるものか。

 私は気合を入れて、洗濯室を後にした。


 洗濯室の次は一旦寝室に置いてあった食材を取りに戻り、厨房にやって来た。

 今日は料理にも挑戦してみよう。紙袋を開け、食材を全て外に出す。

 ここのところ毎日食べている黒パンのほかに、野菜と果物、小麦粉、油、保冷用の箱に入った卵がある。三日も経っているので野菜はしなびかけていた。

 早めに使っておいたほうがいいかもしれない。私は料理の本を開いて、紙袋に入っていた野菜が多く入っているレシピはないか探し始めた。

「あ、キッシュなんていいかも!」

 これなら野菜をたくさん入れられるし、混ぜて焼くだけみたいだから簡単そう。私はさっそくレシピを見ながら作ってみることにした。

 ……簡単そうだなんて考えたのが間違いだった。

 まず、野菜の皮むきからして全然簡単じゃない。

 前にお屋敷の厨房でキッチンメイドたちが皮むきをしているのを見たときは、するすると簡単そうに剥いていたのに、実際やってみると野菜が固くてなかなか刃が通らないし、通ったと思ったら厚く切り過ぎるしで、全然うまくいかなかった。

 途中で刃が指にあたりそうになり、何度もひやっとさせられた。

 それから温めるのがまた難関だった。かまどは横の小さなプレートに赤い魔石を置くと火魔法で温めてくれる造りになっている。

 なんだ、自分で火を起こさなくていいんだと油断して適当に温めたら、表面だけが焦げて中は生焼けになってしまった。

 出来上がったのは生地がべちゃべちゃで、野菜が中途半端に温まった、キッシュと言っていいのかわからない代物だった。

「た、食べられるわよ。ちょっと生焼けなくらい」

 自分にそう言い聞かせ、食堂までキッシュの入ったお皿を持って行く。布巾で簡単に拭いてからテーブルにお皿を載せ、食べてみることにした。スプーンを入れると、ぐにゃりと不安になる感触がする。

 それでも口に入れてみる。

「味……薄い……」

 焦げと生焼けの混じった味は覚悟していたが、口に入れた瞬間味のなさに驚いた。そこでやっと調味料を入れていなかったことに気づく。

 多分、レシピにはちゃんと書いてあったと思う。野菜を切るのと生地を混ぜて焼くので頭がいっぱいになっていて、調味料について見落としていた。

「うぅ……おいしくない……」

 それでも貴重な食料を無駄にするわけにはいかず、私はなんとか味のないどろどろのキッシュを食べきった。
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