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2.前世の夢
①
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◇◆◇
「エルランド様を戸惑わせてしまったわ……」
王立学校へ向かう馬車の中、私は小さく呟いた。なんとも胸が重い。罪悪感と寂しさで押しつぶされそうだ。
私に前世の記憶が蘇ったのは、つい三週間前のことだ。
その日、私は部屋でエルランド様に渡すクッキーのラッピングをしていた。使用人に無理を言いキッチン借りて作ったそのクッキーは、メイドが作ってくれるものより大分歪だったけれど、それでも何度も練習してできたものだった。
(でも、エルランド様ならきっと喜んでくれるわ)
エルランド様はきっとあの美しい顔に控えめな笑顔を滲ませて、ありがとうと言ってくれるだろう。エルランド様はわかりにくいけれど、私のすることなら絶対に喜んでくれるから。
クッキーを渡した時のエルランド様の表情を想像してにやついていたら、突然頭痛が走った。痛い。電流が走ったかのような鋭い痛み。
一瞬の鋭い痛みが過ぎ去った後も、鈍い頭痛が続いた。
視界が揺れる。痛みと眩暈で気持ち悪い。私は床にしゃがみ込む。そのまま意識を失ってしまった。
夢を見た。
不思議な夢だった。夢の中の世界は騒々しくて、人がたくさんいて、道を怪し気な塊がびゅんびゅん走っている。
恐ろしい光景なのに夢の中の私は平然と歩いている。
家に着いたようだ。いや、家なのか?随分小さい。
夢の中の私は小さな家のさらに狭い部屋に入ると、ベッドの上にあった小さな平たい箱を手に取った。驚いたことに私の指が箱を押すと、箱に人の姿が映る。
映っていたのはなぜかエルランド様だった。
……──目を覚ました時には全て理解していた。今みたのはただの夢ではなく、私が前世で日本の女子高生だったときの記憶だと。
そしてここは私が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界で、私はヒロインではなくライバルの悪役令嬢、フェリシア・レーンバリだということを。
そのゲームのヒロインはクリスティーナという美少女だった。クリスティーナは男爵家の令嬢で、身分こそそれほど高くないが、その明るさと前向きさで周囲の男子生徒を虜にしていく。
攻略キャラは三人の王子と宰相の息子、騎士、侯爵家のご令息、だった気がする。はっきり言えないのはエルランド様以外の攻略キャラについてはよく覚えていないからだ。
前世から私はエルランド様に夢中で、彼のルートばかり進めていたから。
「……ああ、私は今世でエルランド様の婚約者になれたのね……。それなのに、クリスティーナが来たら捨てられる運命だなんて……」
床にへたり込んだままさめざめ泣いた。
運命とはなんて残酷なものなんだろう。私はエルランド様のヒロインではない。彼の恋路を邪魔する意地悪な悪役令嬢でしかないのだ。
全てを理解すると、急に今までの自分の行動が恥ずかしくなってきた。
私は人目もはばからず何度エルランド様にじゃれついてきたことだろう。大体、第三王子というお忙しい身分なのをわかっていながら、週に何度も家に呼ぶとは何事なのか。自分の考えの浅さに泣きたくなる。
思えばどうして今までの私はエルランド様の好意を疑わずにいられたのか。勝手に優しいエルランド様は私が頑張ってやったことなら何でも喜んでくれる、なんて決めつけて。傲慢にも程がある。
私は今までのエルランド様の表情を思い出した。
彼は決して私を拒絶するような態度を取らなかったけれど、それは婚約者に対する礼儀を守っていただけなのかもしれない。あの柔らかな笑顔は、本当はうっとうしいと思っているのを悟らせないようにするために作ったものだったのかも。
ああ、一人で舞い上がって私は何をしているのか。
私は机の上に置きっぱなしになっていたクッキーを手に取った。大きさのバラバラな不格好なクッキー。こんなものを王子様に食べてもらおうとしていたなんて。
私は恥ずかしさに唇を噛みしめながらクッキーをごみ箱に放り込んだ。
これからはエルランド様への態度を改めなければならない。
「エルランド様を戸惑わせてしまったわ……」
王立学校へ向かう馬車の中、私は小さく呟いた。なんとも胸が重い。罪悪感と寂しさで押しつぶされそうだ。
私に前世の記憶が蘇ったのは、つい三週間前のことだ。
その日、私は部屋でエルランド様に渡すクッキーのラッピングをしていた。使用人に無理を言いキッチン借りて作ったそのクッキーは、メイドが作ってくれるものより大分歪だったけれど、それでも何度も練習してできたものだった。
(でも、エルランド様ならきっと喜んでくれるわ)
エルランド様はきっとあの美しい顔に控えめな笑顔を滲ませて、ありがとうと言ってくれるだろう。エルランド様はわかりにくいけれど、私のすることなら絶対に喜んでくれるから。
クッキーを渡した時のエルランド様の表情を想像してにやついていたら、突然頭痛が走った。痛い。電流が走ったかのような鋭い痛み。
一瞬の鋭い痛みが過ぎ去った後も、鈍い頭痛が続いた。
視界が揺れる。痛みと眩暈で気持ち悪い。私は床にしゃがみ込む。そのまま意識を失ってしまった。
夢を見た。
不思議な夢だった。夢の中の世界は騒々しくて、人がたくさんいて、道を怪し気な塊がびゅんびゅん走っている。
恐ろしい光景なのに夢の中の私は平然と歩いている。
家に着いたようだ。いや、家なのか?随分小さい。
夢の中の私は小さな家のさらに狭い部屋に入ると、ベッドの上にあった小さな平たい箱を手に取った。驚いたことに私の指が箱を押すと、箱に人の姿が映る。
映っていたのはなぜかエルランド様だった。
……──目を覚ました時には全て理解していた。今みたのはただの夢ではなく、私が前世で日本の女子高生だったときの記憶だと。
そしてここは私が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界で、私はヒロインではなくライバルの悪役令嬢、フェリシア・レーンバリだということを。
そのゲームのヒロインはクリスティーナという美少女だった。クリスティーナは男爵家の令嬢で、身分こそそれほど高くないが、その明るさと前向きさで周囲の男子生徒を虜にしていく。
攻略キャラは三人の王子と宰相の息子、騎士、侯爵家のご令息、だった気がする。はっきり言えないのはエルランド様以外の攻略キャラについてはよく覚えていないからだ。
前世から私はエルランド様に夢中で、彼のルートばかり進めていたから。
「……ああ、私は今世でエルランド様の婚約者になれたのね……。それなのに、クリスティーナが来たら捨てられる運命だなんて……」
床にへたり込んだままさめざめ泣いた。
運命とはなんて残酷なものなんだろう。私はエルランド様のヒロインではない。彼の恋路を邪魔する意地悪な悪役令嬢でしかないのだ。
全てを理解すると、急に今までの自分の行動が恥ずかしくなってきた。
私は人目もはばからず何度エルランド様にじゃれついてきたことだろう。大体、第三王子というお忙しい身分なのをわかっていながら、週に何度も家に呼ぶとは何事なのか。自分の考えの浅さに泣きたくなる。
思えばどうして今までの私はエルランド様の好意を疑わずにいられたのか。勝手に優しいエルランド様は私が頑張ってやったことなら何でも喜んでくれる、なんて決めつけて。傲慢にも程がある。
私は今までのエルランド様の表情を思い出した。
彼は決して私を拒絶するような態度を取らなかったけれど、それは婚約者に対する礼儀を守っていただけなのかもしれない。あの柔らかな笑顔は、本当はうっとうしいと思っているのを悟らせないようにするために作ったものだったのかも。
ああ、一人で舞い上がって私は何をしているのか。
私は机の上に置きっぱなしになっていたクッキーを手に取った。大きさのバラバラな不格好なクッキー。こんなものを王子様に食べてもらおうとしていたなんて。
私は恥ずかしさに唇を噛みしめながらクッキーをごみ箱に放り込んだ。
これからはエルランド様への態度を改めなければならない。
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