4 / 15
2.前世の夢
②
しおりを挟む
その日から、私はエルランド様と常識的な距離を保って接するように気を付け始めた。
廊下で見かけても飛びつかない。何かと口実を作って家にお呼びしない。エルランド様が他の女子生徒としゃべっていても威嚇するようにじろじろ見ない。あ、最後のは前世の記憶を思い出すまでもなくアウトなやつだったわ……。
とにかく私はエルランド様を不快にしないように気を付けていた。
記憶によれば、ヒロインのクリスティーナが転校してくるのはもうすぐだ。それまでに、何とか……邪魔に思われないくらいには印象を改善しておかないと……。
そうじゃないと、エルランド様に婚約破棄されてしまう。
ダンスパーティーの夜、エルランド様がクリスティーナの肩を抱いて私に婚約破棄を言い渡すところを思い浮かべたら、目に涙が滲んできた。
急に態度を変えた私を不審に思ったのだろう。ある日の放課後、エルランド様は私を空き教室に呼び出した。
「フェリシア、最近様子が変じゃないか?もしかして僕が何か気に障ることをしてしまったのかな」
優しいエルランド様は申し訳なさそうな顔でそう尋ねてくれる。私は笑顔を作って首を横に振った。
「いえ、エルランド様は何も悪くありませんわ」
エルランド様は私の答えに眉をひそめる。ああ、困惑した顔のエルランド様も素敵だわ。いや、そうじゃない。そんなことを考えてる場合じゃない。
「じゃあ最近どうして素っ気ないんだ?」
エルランド様は難しい顔のまま尋ねる。私は今までが異常だったのだ、反省して行動を改めたのだというようなことを答えた。
納得してもらえるかと思ったのに、エルランド様の表情は不審そうなままだ。少し間を置いて彼は言った。
「反省なんかすることないよ。今まで通りでいいんだ」
エルランドは真っ直ぐにこちらを見ている。浅はかな態度ばかり取っていた私に、なんて寛大なお方なのだろう。
ついその優しさに甘えたくなる。しかし、それでは駄目だ。今はまだ許してもらえるかもしれないが、クリスティーナが現れたらあっという間に私なんか見放されてしまう。
ああ、想像するだけで胸が痛い……。
「フェリシア?」
エルランド様の訝しむような声が聞こえてくる。
そうだ。これから捨てられるくらいならいっそ……。
「エルランド様。……どうか私との婚約を破棄していただけませんか」
私は思い切ってそう告げた。
言葉にしたそばから胸が痛い。婚約破棄なんて本当はしたくない。でも、処刑の時を待つようにエルランド様から婚約破棄を言い渡されるのをじりじり待つよりずっとましだ。
それにこちらから婚約破棄しても構わないという意思を伝えておけば、エルランド様からうっとうしがられる未来を避けられるかもしれない。
エルランド様は目を見開いてこちらを見ている。相当驚いているようだ。
それはそうだろう。今までべたべた執着して来た私が、急に諦めても良いと言い出したのだから。戸惑うのも無理はない。
慈悲深いエルランド様は、僕が何かしたのだろうか、したなら謝るから考え直して欲しいなんて言ってくれた。礼儀として言っているのだとしてもつい嬉しくなってしまう。
けれど駄目なのだ。私は悪役令嬢なのだから。
私はエルランド様に真実を伝えることにした。向こうの世界のことを知らないエルランド様にはいまいち話を理解できないようだったけれど、私の立場と、じきに自分が「クリスティーナ」という少女に恋をすることくらいは伝わったと思う。
前世の記憶が戻ったからと言ってフェリシア・レーンバリとして生きた記憶がなくなったわけではない。初めて会った時のエルランド様の笑顔を今でも鮮明に思い出せる。でも、ちゃんと言わないといけない。
「それでは、今までありがとうございました!」
私はそれだけ言うと、エルランド様に背を向けて全速力で駆け出した。
彼のことは諦めよう。クリスティーナが現れて、本格的に邪見にされるようになる前に身を引くんだ……。
廊下で見かけても飛びつかない。何かと口実を作って家にお呼びしない。エルランド様が他の女子生徒としゃべっていても威嚇するようにじろじろ見ない。あ、最後のは前世の記憶を思い出すまでもなくアウトなやつだったわ……。
とにかく私はエルランド様を不快にしないように気を付けていた。
記憶によれば、ヒロインのクリスティーナが転校してくるのはもうすぐだ。それまでに、何とか……邪魔に思われないくらいには印象を改善しておかないと……。
そうじゃないと、エルランド様に婚約破棄されてしまう。
ダンスパーティーの夜、エルランド様がクリスティーナの肩を抱いて私に婚約破棄を言い渡すところを思い浮かべたら、目に涙が滲んできた。
急に態度を変えた私を不審に思ったのだろう。ある日の放課後、エルランド様は私を空き教室に呼び出した。
「フェリシア、最近様子が変じゃないか?もしかして僕が何か気に障ることをしてしまったのかな」
優しいエルランド様は申し訳なさそうな顔でそう尋ねてくれる。私は笑顔を作って首を横に振った。
「いえ、エルランド様は何も悪くありませんわ」
エルランド様は私の答えに眉をひそめる。ああ、困惑した顔のエルランド様も素敵だわ。いや、そうじゃない。そんなことを考えてる場合じゃない。
「じゃあ最近どうして素っ気ないんだ?」
エルランド様は難しい顔のまま尋ねる。私は今までが異常だったのだ、反省して行動を改めたのだというようなことを答えた。
納得してもらえるかと思ったのに、エルランド様の表情は不審そうなままだ。少し間を置いて彼は言った。
「反省なんかすることないよ。今まで通りでいいんだ」
エルランドは真っ直ぐにこちらを見ている。浅はかな態度ばかり取っていた私に、なんて寛大なお方なのだろう。
ついその優しさに甘えたくなる。しかし、それでは駄目だ。今はまだ許してもらえるかもしれないが、クリスティーナが現れたらあっという間に私なんか見放されてしまう。
ああ、想像するだけで胸が痛い……。
「フェリシア?」
エルランド様の訝しむような声が聞こえてくる。
そうだ。これから捨てられるくらいならいっそ……。
「エルランド様。……どうか私との婚約を破棄していただけませんか」
私は思い切ってそう告げた。
言葉にしたそばから胸が痛い。婚約破棄なんて本当はしたくない。でも、処刑の時を待つようにエルランド様から婚約破棄を言い渡されるのをじりじり待つよりずっとましだ。
それにこちらから婚約破棄しても構わないという意思を伝えておけば、エルランド様からうっとうしがられる未来を避けられるかもしれない。
エルランド様は目を見開いてこちらを見ている。相当驚いているようだ。
それはそうだろう。今までべたべた執着して来た私が、急に諦めても良いと言い出したのだから。戸惑うのも無理はない。
慈悲深いエルランド様は、僕が何かしたのだろうか、したなら謝るから考え直して欲しいなんて言ってくれた。礼儀として言っているのだとしてもつい嬉しくなってしまう。
けれど駄目なのだ。私は悪役令嬢なのだから。
私はエルランド様に真実を伝えることにした。向こうの世界のことを知らないエルランド様にはいまいち話を理解できないようだったけれど、私の立場と、じきに自分が「クリスティーナ」という少女に恋をすることくらいは伝わったと思う。
前世の記憶が戻ったからと言ってフェリシア・レーンバリとして生きた記憶がなくなったわけではない。初めて会った時のエルランド様の笑顔を今でも鮮明に思い出せる。でも、ちゃんと言わないといけない。
「それでは、今までありがとうございました!」
私はそれだけ言うと、エルランド様に背を向けて全速力で駆け出した。
彼のことは諦めよう。クリスティーナが現れて、本格的に邪見にされるようになる前に身を引くんだ……。
222
あなたにおすすめの小説
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました
音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。
____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。
だから私は決めている。
この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。
彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。
……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。
【改稿版】婚約破棄は私から
どくりんご
恋愛
ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。
乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!
婚約破棄は私から!
※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。
◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位
◆3/20 HOT6位
短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)
悪役令嬢の私が転校生をイジメたといわれて断罪されそうです
白雨あめ
恋愛
「君との婚約を破棄する! この学園から去れ!」
国の第一王子であるシルヴァの婚約者である伯爵令嬢アリン。彼女は転校生をイジメたという理由から、突然王子に婚約破棄を告げられてしまう。
目の前が真っ暗になり、立ち尽くす彼女の傍に歩み寄ってきたのは王子の側近、公爵令息クリスだった。
※2話完結。
【完結】断罪された悪役令嬢は、二度目は復讐に生きる
くろねこ
恋愛
公爵令嬢リリアーネ・アルフェルトは、
聖女と王国第一王子に嵌められ、
悪女として公開断罪され、処刑された。
弁明は許されず、真実を知る者は沈黙し、
彼女は石を投げられ、罵られ、
罪人として命を奪われた――はずだった。
しかし、彼女は教会の地下で目を覚ます。
死を代償に得たのは.........
赦しは選ばない。
和解もしない。
名乗るつもりもない。
彼女が選んだのは、
自分を裁いた者たちを、
同じ法と断罪で裁き返すこと。
最初に落ちるのは、
彼女を裏切った小さな歯車。
次に崩れるのは、
聖女の“奇跡”と信仰。
やがて王子は、
自ら築いた裁判台へと引きずり出される。
かつて正義を振りかざした者たちは、
自分が断罪される未来を想像すらしていなかった。
悪女は表舞台に立たない。
だがその裏側で、
嘘は暴かれ、
罪は積み上がり、
裁きは逃げ場なく迫っていく。
これは、
一度死んだ悪女が、
“ざまぁ”のために暴れる物語ではない。
――逃げ場のない断罪を、
一人ずつ成立させていく物語だ。
手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです
珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。
でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。
加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。
婚約破棄の、その後は
冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。
身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが…
全九話。
「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる