(完結) わたし

水無月あん

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わたし

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不安は的中し、たぬきと別れる日がやってきた。

「これから、あんたがどこに行くのか、私にはわからない。でも、あんたがどこにいたって、あんたの頭の上には、天がひろがっているんだよ。天は気まぐれだが、あんたの姿がどう変わろうが、どこへ行こうが、天はあんたと一緒だ。だから、天にむかって願ってみたらどうだい」

「なにを……?」

「もちろん、あんたが望むことを願うんだ」

「わたしに、できるでしょうか……?」

「ちょっと、あんた! やる前から、不安になってどうする?! 強く願えば、絶対叶うから。あきらめるんじゃないよ!」



◇ ◇ ◇



その後、わたしは木箱に入れられて、また、何も見えなくなった。

そして、木箱からだされた時、見たこともない部屋にいた。
まわりの人間の言葉を注意深く聞いていると、どうやら、「博物館」という建物につれてこられたらしい。

そこには、色々な仏像がいた。透明の箱にはいっているものもいる。
話しかけてみた。しかし、声は聞こえない。

たぬきの言っていたことを思い出す。
つまり、居場所が違う存在か、あるいは、宿っていたものが消えてしまって、からっぽの仏像なのか……。
わたしには、わからない。

だれとも話さない、静かすぎる日々。

わたしは、外側にひっぱられて、これ以上ぼんやりしないよう、ひたすら、たぬきの話を思い出していた。

そんなある日、一人の老人がわたしの前で立ち止まった。
わたしをじっと見つめた後、手をあわせた。

そして、ぼそぼそと何かを話しはじめた。
耳をすましてみる。

「私のひいばあさんは、若い頃、庄屋さんの屋敷に奉公しておりました。その頃、恐ろしいはやり病がひろまって、屋敷にいた人たちの多くは助からなかったそうです。しかし、ひいばあさんは助かった。ひいばあさんは、そのお屋敷で、毎日、地蔵菩薩様のおられる部屋を掃除していたため、助けてもらったのだと感謝しておりました。この話を、私は幼い頃に、ひいばあさんから聞いたのですが、すっかり忘れておったのです。が、地蔵菩薩様のお顔を見たとたん、思いだしました」

知っている……。

とっさにそう思った。
わたしの中に沈んでいた何かが、浮かんでくるよう。

わたしは、一言も聞き洩らさないよう、老人の話に耳をすます。

「だから、お礼を言わせてください。私のひいばあさんを助けてくださって、ありがとうございました。おかげで、今、私はここにおります。苦難も多かったですが、今、振り返れば、おもしろい人生でした。生まれてこられて、本当に良かった……。そう言えば、ひいばあさんを助けてくださった地蔵菩薩様は、もともと、山のほこらにいたところを屋敷に連れてこられたそうです。こんなことを思うのはおかしなことかもしれませんが、地蔵菩薩様も、とても古いお姿のようにお見受けします。人間の勝手な都合で、色々なところをまわり、ここにたどり着いたことでしょう。どうぞ、これからは、地蔵菩薩様の望まれることが叶いますように……」

そう言うと、老人はわたしに向かって、ゆっくりと手をあわせたあと、去っていった。

わたしの望むこと……。

急に山が目の前にひろがった。
雨にぬれた冷たさや、草の匂いを思い出した。

たぬきの言ったとおり、わたしは山に住んでいたんだろう。
一体、わたしはなんだったんだろう?

知りたい! でも、どうやって……?

そう思った瞬間、たぬきの明るい声が頭の中に響いた。

(強く願えば、絶対叶うから。あきらめるんじゃないよ!)

とたんに、気持ちがふわりと軽くなる。

そうだ、天に願ってみよう。
たぬきの言うとおり、あきらめずに、強く強く。

わたしが本当のわたしを知ることができるようにと……。



(了)




読みづらいところも多かったことと思いますが、読んでくださった方、本当にありがとうございました!

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