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もしかして
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廊下を曲がった先にあった、人気のない階段。そこを二人がのぼっていた。
正確には、アンナさんに、腕をつかまれたパトリックが、ひっぱられるように、階段をのぼらされているという感じだ。
もう、首から上ぐらいしかパトリックが見えないくらい、黒い煙でおおわれている。
そして、近寄ろうにも、私の足元まで黒い煙が流れてきていて、前に進めない。
どうしよう…。
でも、あんな状態のパトリックをこのままいかせるわけにはいかない!
「パトリック!」
私は大声で叫んだ。
二人が同時に振り返る。
そして、私と目があったパトリックが驚いた顔をして、悲壮な叫び声をあげた。
「ライラ…! 違うんだ、これはっ!」
傍から見ると、二人は腕をくんで階段をのぼっている、仲の良いカップルに見える。
が、そんなことはどうでもいいし、それどころじゃない。
それよりも、パトリックの顔色がひどすぎる。
とりあえず、アンナさんと引き離して、黒い煙を少しでもすい取らないと!
と、思ったら、アンナさんが、パトリックにべったりともたれかかった。
そして、私の方をにらみながら、
「ねえ、パトリック。私たちって、愛し合ってるわよね? 婚約破棄するんでしょ?」
と、言った。
「そんなわけないだろ! 俺は、ライラと結婚する!」
パトリックが、泣きそうな顔で叫ぶ。
アンナさんの黒い煙が、パトリックに更に絡みつく。
パトリックが苦しそうに顔をしかめた。
早く、なんとかしないと!
私の足元まで流れてきている黒い煙。見える私にとったら、黒い煙に突入していくのは、ヘドロの中へ突進していくようなものだ。
が、覚悟を決め、ひたすら、足元の煙を手のひらで浄化しながら、階段の方へ近づいていく。
苦しそうなパトリックに、アンナさんがねっとりと話しかけた。
「なんで、そんな嘘を言うの? 田舎くさい婚約者は嫌だって言ってたじゃない。私の方が、ずっときれいで、愛してるって言ってたじゃない。ね、そうでしょ。ほら、私の目を見て、答えて。パトリック」
そう言うと、パトリックの顔に自分の顔を近づけた。
「…そうだった。田舎くさいライラより、アンナのほうがきれいだ。アンナを愛してる…」
パトリックは、感情のこもってない声で言った。
…もしかして、これって、完全に操られてるよね?
なんとか、私は階段のすぐ下までたどり着いた。でも、二人との間には距離がある。
これほど遠隔ではやったことはないけれど、一番煙が濃いパトリックの首のあたりにむかって、手のひらをかざした。集中して、すい取るように動かす。
せめて、そこだけでも煙を薄くできたら、パトリックが、もっと楽になりそうだから…。
あまりに沢山の黒い煙だから、あっという間に、私の手のひらから、ぼとぼとと花の種がこぼれおちはじめた。
どれも、アンナさんの髪の色と同じオレンジ色に、黒い線がうごめいている不気味な種だ。
その時、正気に戻った顔でパトリックが私を見た。
「ライラっ! ごめん! …俺は、…ライラが好きだ!」
そう叫んだ瞬間、アンナさんが、パトリックの顔を両手でぐっとひきよせて、唇を重ねた。
思わず、私は固まってしまった。
唇を離したアンナさんは、そんな私を見て、妖し気に微笑んだ。
「フフ…、傷ついたかしら? どう、わかった? あなたなんて、ちっとも愛されてないのよ。私とパトリックは、こうして愛し合ってきたの。家柄だけで婚約者におさまったあなたなんて、邪魔なの! パトリックと結婚するのは私なのよ!」
アンナさんの金切り声に我に返った。
はっきり言って、私は、婚約者の浮気場面を見せられて傷ついて固まったんじゃない。
ただただ、アンナさんのだす邪気に驚いただけ。
唇を重ねた時、黒い煙がパトリックの体内にも注入されたように私には見えたから。
もしかして、パトリック自身から黒い煙がでるようになったのは、アンナさんから黒い煙を注入されていたためかも…。
今や、パトリックの感情の感じられない顔は、操り人形のようだ。
そんなパトリックをうっとりと見つめるアンナさんに、心底ぞっとした。
正確には、アンナさんに、腕をつかまれたパトリックが、ひっぱられるように、階段をのぼらされているという感じだ。
もう、首から上ぐらいしかパトリックが見えないくらい、黒い煙でおおわれている。
そして、近寄ろうにも、私の足元まで黒い煙が流れてきていて、前に進めない。
どうしよう…。
でも、あんな状態のパトリックをこのままいかせるわけにはいかない!
「パトリック!」
私は大声で叫んだ。
二人が同時に振り返る。
そして、私と目があったパトリックが驚いた顔をして、悲壮な叫び声をあげた。
「ライラ…! 違うんだ、これはっ!」
傍から見ると、二人は腕をくんで階段をのぼっている、仲の良いカップルに見える。
が、そんなことはどうでもいいし、それどころじゃない。
それよりも、パトリックの顔色がひどすぎる。
とりあえず、アンナさんと引き離して、黒い煙を少しでもすい取らないと!
と、思ったら、アンナさんが、パトリックにべったりともたれかかった。
そして、私の方をにらみながら、
「ねえ、パトリック。私たちって、愛し合ってるわよね? 婚約破棄するんでしょ?」
と、言った。
「そんなわけないだろ! 俺は、ライラと結婚する!」
パトリックが、泣きそうな顔で叫ぶ。
アンナさんの黒い煙が、パトリックに更に絡みつく。
パトリックが苦しそうに顔をしかめた。
早く、なんとかしないと!
私の足元まで流れてきている黒い煙。見える私にとったら、黒い煙に突入していくのは、ヘドロの中へ突進していくようなものだ。
が、覚悟を決め、ひたすら、足元の煙を手のひらで浄化しながら、階段の方へ近づいていく。
苦しそうなパトリックに、アンナさんがねっとりと話しかけた。
「なんで、そんな嘘を言うの? 田舎くさい婚約者は嫌だって言ってたじゃない。私の方が、ずっときれいで、愛してるって言ってたじゃない。ね、そうでしょ。ほら、私の目を見て、答えて。パトリック」
そう言うと、パトリックの顔に自分の顔を近づけた。
「…そうだった。田舎くさいライラより、アンナのほうがきれいだ。アンナを愛してる…」
パトリックは、感情のこもってない声で言った。
…もしかして、これって、完全に操られてるよね?
なんとか、私は階段のすぐ下までたどり着いた。でも、二人との間には距離がある。
これほど遠隔ではやったことはないけれど、一番煙が濃いパトリックの首のあたりにむかって、手のひらをかざした。集中して、すい取るように動かす。
せめて、そこだけでも煙を薄くできたら、パトリックが、もっと楽になりそうだから…。
あまりに沢山の黒い煙だから、あっという間に、私の手のひらから、ぼとぼとと花の種がこぼれおちはじめた。
どれも、アンナさんの髪の色と同じオレンジ色に、黒い線がうごめいている不気味な種だ。
その時、正気に戻った顔でパトリックが私を見た。
「ライラっ! ごめん! …俺は、…ライラが好きだ!」
そう叫んだ瞬間、アンナさんが、パトリックの顔を両手でぐっとひきよせて、唇を重ねた。
思わず、私は固まってしまった。
唇を離したアンナさんは、そんな私を見て、妖し気に微笑んだ。
「フフ…、傷ついたかしら? どう、わかった? あなたなんて、ちっとも愛されてないのよ。私とパトリックは、こうして愛し合ってきたの。家柄だけで婚約者におさまったあなたなんて、邪魔なの! パトリックと結婚するのは私なのよ!」
アンナさんの金切り声に我に返った。
はっきり言って、私は、婚約者の浮気場面を見せられて傷ついて固まったんじゃない。
ただただ、アンナさんのだす邪気に驚いただけ。
唇を重ねた時、黒い煙がパトリックの体内にも注入されたように私には見えたから。
もしかして、パトリック自身から黒い煙がでるようになったのは、アンナさんから黒い煙を注入されていたためかも…。
今や、パトリックの感情の感じられない顔は、操り人形のようだ。
そんなパトリックをうっとりと見つめるアンナさんに、心底ぞっとした。
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