形だけの女王ですが英雄が王配となって溺愛してきます!〜虐げられ姫の幸せな婚姻〜

蓮恭

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4. 新女王の誕生

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 アリシアが十二歳になったと同時に、突然国王が崩御した。
 毎日のように酒を浴びるように飲んでいた国王はいつの間にやら喉が爛れ、食道が狭くなっていたらしい。その最期はあまりにも呆気なく、晩餐の席で食べ物を喉に詰まらせ、そのまま息が出来ずに苦しみながら倒れた。

 そんな最期を国民達に馬鹿正直に告げる訳にもいかず、表向きは病死という事にされている。

 城を囲む大勢の国民は、地面が揺れるほどの歓声と拍手を送る。
 戴冠式を終え、王宮のバルコニーから国民に向けて姿を現した大司教と新女王、そして王室の面々を心の底から讃えているのだ。
 絶世の美女と呼ばれた母親似で、誰もがハッと息を呑むほど美しい女王の晴れ姿を、国民はその目に焼き付けようとしていた。

「民よ、聞け! 月の女神様の尊い意思により、ここにラヴァル王国の新たな統治者、アリシア・ル・ ラヴァル女王陛下が誕生した。我々教会は陛下に対し、女神様と同様に尊敬し、崇める事を宣言する!」

 大司教はアリシアが女王となった事を多くの国民の前で宣言した。民達にとってみれば、滅多に目にする事が出来ない大司教の姿を直接目にするだけでも光栄な事である。
 
 極度の緊張の中、空気がビリビリと震えるほどの歓声を浴びたアリシアは、宰相から言われていた通りに微笑を浮かべ、国民達に手を振る。ゆっくりと、上品に。
 宰相からは、月の女神を意識しろと言われた。国民にアリシアを月の女神の化身だと思わせろと。

「お美しいアリシア女王陛下万歳!」
「月の女神様! 女王陛下万歳!」
「女神様、この国をこれからもお守りください!」

 集まった人々から投げかけられる言葉に、アリシアはそっと宰相の方を見た。
 司教達に混じって脇に控えている宰相は、相変わらず厳しい顔でアリシアを睨みつけている。すぐに目を逸らし、また民の方へと視線を戻す。

 ラヴァル王国は男女問わず長子が王位を継承する事になっている為、アリシアが新たに君主となったのだ。
 しかし万が一アリシアの子が産まれる前にその身に何か起これば、その座は王弟であるロランへと移る。

 この日もロランは特に普段と変わりなく王室の一員として愛想笑いを浮かべて国民に手を振りつつも、退屈な行事が終わるのを今か今かと心待ちにしていた。
 そんなロランの隣では、前国王の妃であり王太后となったカーラが遠く離れた国民からは見えない事をいい事に、鋭い殺意のこもった視線を大司教の隣に並ぶアリシアに向けている。

「全く、王冠も王笏も、あの子には全然似合っていないわね。もっと早く陛下が何とかしてくれていれば、全ては可愛いロランの物だったのに」
「母上、少しは笑顔を見せた方がいいですよ。今日は司教達の目もあるんですから」
「……ふん。君主以外には従わない教会なんて、忌々しいったらありゃしない。私やロランを平民と同じに扱うだなんて、馬鹿げてるわ」

 月の女神を信仰するのがラヴァル王国の国教、そして教会は月の女神が自ら選ぶという君主以外には従わない。月の女神と君主以外は、平民も貴族も全て平等な存在だというのがその教えでもあった。

 つまり、いくらカーラが王太后であろうともロランが王弟であろうとも、平民と同じように考えているという事だ。
 君主となったアリシアには分かりやすい程平伏すくせに、自分達には対等な態度を見せる司教達にカーラは我慢がならない様子である。

「ほら、見てごらんなさい。アレクサンドルの奴、宰相とまた何か企んでいるに違いないわ。昔から私を嫌っているからって、何も宰相側につかなくてもいいのに。嫌な男」

 カーラが顎をツンと突き出し、ロランに示した先には前国王の弟で公爵、そして国を守護を担う王国軍元帥アレクサンドル・ ル ・デュラス がいた。
 軍服姿のアレクサンドルは宰相の隣に立ち、考えの読めない無表情で何やら言葉を交わしているようだ。

「宰相はともかく、叔父上は立派な方だよ。母上は何も知らないだけだ」

 いつもは母親に反抗する事もないロランだったが、叔父であるアレクサンドルの事となると訳が違う。ロランはアレクサンドルに憧れ、王弟でありながらも中佐として、軍人の一人として国を守る為に剣を振るっていた。
 
 カーラはロランが軍人になる事が大いに気に入らなかったが、頑なに自分の意思を曲げようとしないロランに根負けして、それに関しては目を瞑っている。
 国を守ろうと自ら剣を振るう王族の存在に、国民の支持が非常に厚かったからだ。いつかロランが国王になる為に、国民の支持は厚い方が都合がいい。そう考えていた。

「僕の前で叔父上の事を悪く言うのはやめてくれ」
「あ、ちょっと、ロラン!」

 冷たい声色でそう告げたロランは、慌てるカーラを置いてその場を去ってしまう。
 そのうちロランは大司教の隣で国民に手を振るアリシアの近くに寄り、アリシアがロランの存在に気付いてどこかホッとしたように笑うと、いつものようにニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 遠く離れた国民からは、年の違わない姉弟が仲睦まじく見つめ合っているように見えただろう。

「ジャラジャラ重たそうだけど、なかなか似合ってるじゃないか。ほら、もっと気楽に笑えよ」
「ロラン……」

 アリシアの華奢な体には随分と重そうに思える君主の王冠には、煌びやかな宝石が所狭しと飾られていた。戴冠式のこの日、アリシアが身に付けていた腕輪や指輪、王笏は、全て君主が持つ権力の象徴だ。

「いつかその全部を僕が身に付ける事になるかもな。それまではお前に預けておくよ」

 年老いた大司教はロランの女王に対する不敬な言葉に何か言いかけたが、アリシアがいつもと同じ態度のロランに安心したように非常に自然な美しい笑みを浮かべたので、グッと言葉を飲み込んだ。

 アリシアは唯一親しみの持てる弟から勇気をもらった。その後は視界の端に見える宰相から向けられるナイフのような鋭い視線も、アレクサンドルの何を考えているのか分からない無機質な視線もすっかり気にならなくなり、お披露目を無事終える事ができたのだった。


 
 

 
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