形だけの女王ですが英雄が王配となって溺愛してきます!〜虐げられ姫の幸せな婚姻〜

蓮恭

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15. 熱い吐息と傷の痛み(テオバルトside)※微

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 二人が初めて同じ寝床で過ごした深夜。大きな天蓋つきの寝台の中、アリシアはまだ微睡んでいた。
 頬に紅を残したまま、安心しきった顔で。テオバルトの逞しい胸に小さく寄り添っている。

「……寝顔まで無防備すぎるだろ」

 低く、くぐもった声が漏れる。テオバルトの腕の中で小さな体が熱を持ち、吐息一つでさえ理性を揺さぶってくる。

 まだ終わっていない、そう身体が叫んでいた。
 好きな女を腕の中に抱いておきながら、限界にまで持ち上げられた昂りをどこにもぶつけられず、ただ柔らかな肌のぬくもりに触れる事しか許されない。

(地獄か、ここは。いや、堪えろ……)

 もう幾度目になるだろうか。自身にそう言い聞かせながらも、テオバルトの瞳はぎらりと光を帯びていた。
 黒曜石のような輝きを放つ瞳に映るのは、無防備に肌を晒して眠るアリシアのうなじ、鎖骨、指先。
 触れたくて触れたくて仕方がない。

 テオバルトはひどく喉が渇いていた。それは欲望の渇きだ。戦場で剣を振るう前の高揚にも似た、本能に根ざした衝動のようなもの。
 
「だが……嫌われたら、元も子もねぇ」

 軽く舌打ちして、アリシアを起こさぬようそっと起き上がったテオバルトは、寝台の端に座った。
 そのままぐっと眉根を寄せ、熱を持つ額に手を当てる。

 戦で名を馳せた男、テオバルト。 強く、速く、鋭く。敵を斬る刃のごとく、彼の生は直線的だった。 
 
 誰よりも欲望に忠実だったし、女を抱くことに躊躇いなどなかった。それはあくまで『戦の余熱』を冷ますための行為でしかなかったからだ。
 娼館の薄暗い部屋に身を沈めれば、熱は沈静化し、戦の後の昂りも抑えられた。女達はむしろ喜んでテオバルトを迎え入れた。  
 元帥アレクサンドルのお気に入り――テオバルトの腕の中にいれば、自分が特別になった気がすると、誰もがそう言った。  

 それが当たり前だった。今夜までは。

 淡い蝋燭の光に照らされた寝台の中で、アリシアはテオバルトに身を委ね、静かに眠っていた。  
 まだほんの少しだけ幼さの残る横顔、金の睫毛の揺れ、柔らかく伸びる指先。  
 その全てが、すぐに壊れてしまいそうで、愛おしい。

 初めて唇を重ねた時、その熱に自身の心臓が跳ねた。アリシアが小さく喘ぎ、テオバルトの名を呼ぶ度、自分が思っていた以上の衝動が胸を突き上げてきた。

 抱きたくて仕方がないのに、愛しすぎて……壊してしまいそうで怖くて抱けない矛盾。  
 テオバルトは『守ってやりたい』と初めて本気で思った女に出会ってしまったのだと痛感していた。

 堪えがたい。それでも触れられない。

 近くで静かな寝息を立てるアリシアの胸元に視線を落とす。掛布の隙間から覗く白い肌に、思わず舌が唇をなぞった。

「……ったく、ここまで理性を試してくるか」

 自嘲気味に笑いながらも、テオバルトの声はどこか甘く、幸せそうだった。
 頼んでもいないのにいくらでも湧き上がってくるこの欲望を、ひたすら我慢して抑え付ける術は、誰も教えてくれなかった。

 テオバルトはそっとアリシアの髪に指を滑らせ、額に口付けを落とす。

「……次は覚悟しておけよ」

 その声は、囁きというにはあまりに熱を孕んでいた。

 少しして、寝室から繋がる浴室で……苦しげな表情のテオバルトの口から漏れた吐息は、熱く燃えるようだった。

「く……ッ」

 眠れない夜……少しでも気を紛らわせたかった。コトが終わった後になって、チクリとした痛みが指先に走る。
 ふと、視線を落とす。ついさっきまで傷がある事すら忘れていた。

「いてぇな」
 
 この指先の傷を使って寝台に残された赤い染みは、アリシアには決して知られることのない、テオバルトのささやかな、そして深い愛の証だった。

 
 
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