形だけの女王ですが英雄が王配となって溺愛してきます!〜虐げられ姫の幸せな婚姻〜

蓮恭

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28. カーラの罪と罰

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 ロランの独白後、すぐにカーラが連れて来られた。

 貴族達は好奇の目で彼女を刺し、彼女を嫌う宰相派の貴族は嘲笑すら浮かべている。
 
 アリシアは女王として静かに立っていた。
 隣にはテオバルトが無言で控え、二人の両脇には罪人を裁く際に必ず同席する事になっている、司教達が計十人並んでいる。
 彼らも今宵急遽招集されたにも関わらず、皆女王アリシアに敬意を払い、これから起こる裁きを粛々と進める覚悟を決めていた。

 そして広間の端には衛兵によって跪かされたカーラが、かつては美しい薔薇のように誇り高かったはずの顔を引きつらせていた。

「私はこの国の女王です。国と、そしてそこに生きる人々を守る責任があります。たとえあなたが今王太后と呼ばれる立場にあっても、裁きを放棄する事はできません。ですから……あなたの罪には、然るべき罰を与えねばなりません」

 アリシアの声音は穏やかでありながら、広間全体を震わせる力を帯びていた。
 司教達が揃って目を伏せ、頭を下げる。

 裁きの始まりだった。

「あなたは王家を裏切り、私を攫い、王子ロランを己の野望の為に操ろうとしました。その行いは、ただの私怨では済まされません。王家に対する反逆であり、同時に――国教である月の女神への背信でもあります」

 カーラの真っ赤な髪は逆立ち、宝石のようだと謳われた緑色の瞳は爛々と光っていた。

「女神は『真実、秩序、慈愛』を尊びます。あなたの行動は、それら全てを踏みにじるものでした。民に仕える者として、そして個人として、あなたは自らその恩寵を放棄したのです」
「生意気な事を。元は平民の娘のくせに、よくも私を……っ!」

 カーラはありったけの悪意をアリシアに向ける。これまでであればアリシアもその悪意に負けてしまったかも知れない。
 そもそもカーラに対抗しようなどと思わなかっただろう。

「本来であれば……あなたの罪は死をもって償うべき行いです」
「何ですって⁉︎ そんな事、許されないわよ! 私はこの国の王太后なんだから!」

 カーラの顔に焦りと恐怖が滲む。罪が露呈するはずがないとタカを括っていたのか、それともアリシアがカーラを断罪すると思いもしなかったのか。
 どちらにせよ、カーラは目の前に迫る死の恐怖を振り払うかのようにアリシアに噛みついた。
 
「私はあなたの命を奪いません。それは女神の望まれる道ではありませんから」

 アリシアのその言葉に、先ほどまで顔を紅潮させ目を充血させていたカーラの顔が微かに緩む。

 広間の空気が重く沈む中、アリシアはカーラに対する断罪を続けていた。その言葉一つ一つが、彼女の女王としての威厳をさらに高める。
 そのうち周囲の貴族達の眼差しには、変化が見られた。アリシアを真の女王として敬い、称賛の意が込められていたのである。
 
 その姿に、広間の片隅に立つ宰相の内心は、冷徹に燃え上がる炎のように揺れていた。
 
 ははは……とカーラが乾いた笑いを浮かべる。

「そ、そうよ。女神は慈悲深い方。かつては王族と血族であったのだし、王太后である私に厳しい罰を与えられるわけがないわ」

 だが、アリシアは続けた。

「本日をもって、あなたの地位を剥奪します。さらに、月の女神の恩寵よりも断絶する事とします」
「……な……っ⁉︎」
「そして、今後は教会への出入りを一切禁じます。大司教はおろか、司教との謁見も禁じます。あなたはもう、満月の夜に祈る事も、加護を受ける事も叶いません」

 カーラの顔が絶望に染まる。彼女は熱心な信者だった。その彼女にとって、アリシアが下した罰はあまりにも残酷なものだった。
 思わず救いを求めて司教達を見るカーラにも、彼らは一切表情を変えない。
 
 アリシアはさらに言葉を続けた。

「死後、あなたは王家の聖墓ではなく、名もなき場所に葬られることとなるでしょう。あなたの魂は女神に導かれることなく、ただ、静かに眠ることになります。それが、月の女神に背いた者の末路です」
「そんな……っ!」

 突如として立ちあがろうとするカーラを、衛兵が肩を乱暴に押さえ、再び跪かせた。
 あれほど誇り高かった女が、少女のように取り乱したのだ。

「いや……私は王太后よ! この国の……国母になる存在……それが……地位を剥奪ですって? 許されないわ、そんな戯言……無効よ!」

 彼女はものすごい力で衛兵の制止を潜り抜け、這うようにしてアリシアの足元へすがりつこうとしたが、テオバルトが静かに立ちはだかった。

「下がれよ。これが、あんたの積み上げたもんの代償だ」

 冷たく、鋭い声色。それでもテオバルトの顔に浮かぶ表情は、単なる哀れみでしかないのだとカーラには分かった。
 これまで見下してきた平民出身の王配。その相手に、怒りをぶつける対象ですらないと言われている気がして余計に惨めな気持ちになったのか、ぎゅっと拳を握って震わせる。
 
「いやよ! 女神に見捨てられるなんて……! 私が……っ、王太后でなくなるなんて!」

 カーラは泣き叫んだ。嗚咽と共に崩れ落ちるその姿は、もはや王太后としての矜持もなかった。

「違う……違うのよ……私はただ……あの女に勝ちたかった……! あの女……マリアに、あの清らかぶった王妃に……! 私は……ロランを王にして、勝ちたかったの……!」
「それが、あなたのすべてだったのですね」

 取り乱すカーラに、アリシアは静かに言った。怒りも、哀れみもなかった。ただ、その声には確かな決意のみが宿っていた。

「ですがロランはもう、あなたの夢のために生きたりはしません。彼は自分の足で、自分の信じる道を歩くのです」

 ロランが顔を上げた。アリシアと目が合い、ほんの少しだけ、唇が震えた。
 何かを言おうとして、けれどどうしても、言えなかったように。

「私は、あなたにとって王に相応しくなかったのでしょう。けれど私は、これからも私の治めるこの国が、誰のものでもなく、皆のものであるようにと願っていきます。それが私の女王としてのやり方ですから」

 カーラは崩れるように座り込み、ロランの方へと視線を向ける。助けて、と訴えるように。
 ロランはただ目を閉じ、じっとその光景を見ている。拳は震えていたが、顔には静かな決意があった。

 結局誰も助けてくれないと分かると、カーラはその場に崩れ落ち、派手な嗚咽だけが大広間に響いていた。

 窓から射し込む月の光が、静かにその場を照らしている。月の女神を模った、壁の装飾を縁取るように。
 
 今宵の女王の裁きは見事としか言いようがなかった。この場に居合わせた貴族や官僚達の多くが、それぞれの胸に強く感じている。
 その証拠に、彼らが女王を見つめる眼差しには、これまでとは違った光が灯っていた。

 この国に、今新たな時代が訪れたのだと、思わずにはいられなかったのである。

 しかし長らくカーラの政敵だった宰相や、宰相に近しい取り巻きの貴族達は、複雑な思いでその様子を眺めている。

「宰相殿、今後どうされるのですか。あのように、女王陛下は宰相殿の手を離れ、すっかり他の貴族を取り込んでしまっておりますぞ」

 その中でも中心的な立ち位置にある鋭い眼差しを持つ老齢の伯爵が、宰相の耳元に囁いた。
 宰相自身もアリシアが女王として力を得ていく事を決して喜んではいない。だからこそ、この伯爵の言葉に苛立ちを覚えずにはいられなかった。
 重々承知しているのだ、そんな事は。

「古いしきたりを持ち出して貴族を招集するなど、祖先の真似事か。小癪な。だが、王配を迎えた女王が勢い付く事は計算ずく」
「ほう、そうですか」

 いかにも狡猾そうな老伯爵は目を細め、宰相を見た。
 
「それでもいずれあの女王を引き摺り下ろし、この王国を手に入れるのは私だ。そなたは私の言う事を聞いておれば良い。そうすれば、いずれそなたを宰相に迎えてやろうぞ」

 悪意に満ちた意味深な笑みを女王に向けた二人と宰相派の貴族達は、女王への期待が満ちる会場で更なる結束を誓うのだった。
 
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