すれ違いがちなヒカルくんは愛され過ぎてる

蓮恭

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2. シュッとした切長の目の男の回

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「そうなんですよー、Mサイズが欲しくてー……」

 頬を綻ばせて振り返れば、どうしてか少し驚いたような顔で声の主を見る姉ちゃんの横に、見た感じは俺と同い年くらいに見える無愛想な短髪の男が立っている。

 黒のテーラードジャケットにTシャツ、チノパンというアウトドアとは一見不似合いな格好は、それでもその男の静かな雰囲気には似合っていた。

 真っ直ぐ俺の方へと視線を向けているその目は、ぱっちりとした二重の俺とは正反対のシュッとした切長の形だ。
 俺を鋭く射抜く切長の瞳から、何故かいつまで経っても目が離せない。

(あれ……? どこかで会ったことがあったっけ?)

――「嘘つき! 約束したのに!」
「……ごめん」

 その時、ツキンッと胸が痛んだ。

(この記憶の中の会話は、誰と誰の声だった?)

「はい」

 知らぬ間にボーッとしていたんだろう。促すように男がたった一言の声を発したことで、ハッとしていつの間にか伏せていた目を上げる。
 
 自分から話し掛けてきたくせにニコリともしていない男のその手には、ハンガーに掛かったカーキ色のマウンテンパーカーが握られていた。
 そして俺の方へとスッと腕を伸ばして真っ直ぐに差し出す。

(しかしこの男、店員……では無さそうだけどな)
 
 この店の店員は私服に揃いの名札を首からぶら下げているのに、目の前の男はそれを吊るしていない。だからきっと客の一人だろうとは思うけど。

「良かったら、これ。俺、別に黒でもいいかなって思ってたから」
「え……」
「はい、探してたんだろ?」

 そう言って手渡されたマウンテンパーカーの襟元を確認すると、まさに探し求めていたフェルネのカーキ色、サイズもMサイズで。
 
「本当に⁉︎    え、でも……いいの⁉︎    いや、いいんですか⁉︎」
「ああ。俺、黒にするから」

 俺にとっては求め続けた最高のプレゼントを躊躇ちゅうちょなく譲ると、売り場から色違いの黒をさっさと探し出し、それを手に取った男は颯爽さっそうと去って行く。

「ラッキー……」

 思わぬ幸運に小さくそう呟いて、黒のジャケットを着た長身の背中が去って行くのを、知らず知らずのうちに長い時間見つめ続けていた。

(こんな幸運、ある?)

 男の着ているジャケットも黒だし、「黒でもいい」と言うのは本心だったのかも知れない。
 男が俺の探している物に気付いたのは、はじめての店にはしゃいだ心と求める物が無かったショックのせいで、いつもより声が大きかったせいだろうか。
 そう考えると、今更だが自分の言動が少し恥ずかしくなった。

 それにしても見ず知らずの相手にあんな気遣いが出来るなんて、この歳になっても落ち着きが無いと言われる俺は是非見習いたい。

「なかなか出来ないよなぁ」
「何が?」
「だってさっきの人、知らない人間に対してイケメン行動過ぎない? 絶対俺には出来ないよ」

 こちらをいぶかしげに見る姉ちゃんは、明らかに早く帰りたそうにしている。
 それもそうだ、このマウンテンパーカーを探して既に三店舗もアウトドアショップを回ってきたんだから。
 アウトドアに興味の無い姉ちゃんが、ここまで付き合ってくれただけでも感謝しなきゃならない。

「……そうだろうね、アンタは鈍いから他人が探してても気付きもしないだろうから」
「やっぱりそうかな。まあいいや、遅くなってごめんな。とりあえず会計に行こう」

 幼い頃に両親が離婚してからというもの、母子家庭という決して贅沢の出来ない家庭環境だった。

 予想外に金のかかる部活だ。母さんから猛反対され、一度は諦めようとした俺の背中を「やりたいならやればいい」と後押ししてくれた姉ちゃん。

「姉ちゃん、思ったより高くてごめん。本当ありがとな!」
「うん、これから頑張ってね。高校入学おめでとう」

 よく似た顔で笑う八歳離れた姉ちゃんは、子どもの頃はガキ大将でいくら好き勝手な事をされたとはいえ、俺にとってはかけがえのない大切な家族だ。

 
 

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