すれ違いがちなヒカルくんは愛され過ぎてる

蓮恭

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9. なんだ、既に知っていたの回

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 だけど、ダイへの通話は繋がらなかった。スマホに表示された文面によると、誰かと通話してるみたいだ。

 しかも随分と長い時間通話しているみたいで、何度も同じ文面が表示されるスマホを眺めた。
 意気揚々と盛り上がっていた気持ちが、プシューっと空気の抜けた風船みたいに萎んでいく。

「なんだよぉー……」

 ゴロンとリビングのソファーに横になった拍子に、転んだ時に打撲したのか両膝がズキンと痛んだ。
 もう一度だけ通話ボタンを押してみた。だけどやっぱり通話中だと表示される。

(ダイは友達が多いから仕方ないか)

 諦めて今日の出来事を思い起こしてみる。そうっと目を閉じて賢太郎の表情や言葉を思い出す。それだけで胸がキュウっと締め付けられた。

 俺のことを気遣う表情も、優しく包み込むような仕草も、どう考えても口説いているとしか思えない言葉だって。

「胸が痛い、これが愛ってやつ……?」

 誰も答えない事は分かっていても、思わず口をついて出た言葉に勝手に赤面した。
 なんだ、愛って! と、自分にツッコむ。まともに相思相愛の恋愛すらしてこなかったくせに急に現れた賢太郎カイルという存在にはしゃいでいるのが自分でも分かったから。

「ああー! もうっ!」

 手近なところにあるクッションを手に取って、顔をそこにボフンと埋めた。
 姉ちゃんにはよく「アンタは思い込み激しいからね、勘違いじゃないの?」って言われる俺だけど、こればっかりは勘違いしようがない程の感情だ。

(完全に賢太郎カイルの事を好き……、いやもしかしたら既に愛してるってやつ……)

「……うわぁーッ!」

 誰も聞いてないし見てないことをいい事に、俺はクッションに顔を埋めて何度も叫んだ。そうしていつの間にか、クッションを顔に乗せたままで寝てしまったようだ。

 ピロンっという聞き慣れた通知音で目が覚めた。部屋は真っ暗で、まだ母さんが帰っていないらしいことは分かる。ゴソゴソ探ってスマホの画面を覗いたら、一時間ほどが経っている。見れば、ダイから何件もDMが届いていた。

「さっき賢太郎から全部聞いた」
「記憶、戻って良かったな」
「実はずっと前に賢太郎から相談されてた」
「黙っててごめん」
「またいつでも話聞くよ」

 寝起きのボーッとする頭で何度も読み返した。
 
「なんだ、ダイは知ってたんだ」

 親友のダイと賢太郎の間で、既に話がついていた事に対してはホッとした気持ちしかなかった。ダイが謝る理由なんてこれっぽっちも無いのに、相変わらず根は真面目で優しい奴だ。
 
(賢太郎と長く通話してたんなら、別に俺から話すこともないか)

「賢太郎から聞いたならいいよ。また明日な」

 そう返信して、フッと思わず顔が綻んだところで玄関から母さんが帰宅する気配がした。帰るなりパチンと壁のスイッチを押したんだろう。急にパッと部屋が明るくなる。

「ただいまー……。何してんの? こんな真っ暗なとこで」

 電気も点けず、リビングのソファーでぼんやりと光るスマホ片手にニヤつく息子。それにギョッとした表情の母さんは、大きな買い物袋を二つも手にしていた。

「おかえりー。部活で疲れて寝てた」
「そうなの? 風邪ひくよ」

 姉ちゃんにも俺にも似ていない顔立ちの母さんは、一見神経質そうな一重の瞳をチラリとこちらに向けてから、ガサガサと音をさせてキッチンの方へと移動する。

「ねぇ、今日はオムライスでいい?」
「あ、いいねー! オムライス嬉しい!」
「今日は部活初日だったんでしょ? どうだったの?」

 心配性の母さんには今日部活で倒れた事は話さない方がいいと、俺の中の何かが知らせる。別に大した怪我もないし、話す必要はないだろう。

「んー、楽しかったよ! 案外大変だったけど、部員の友達も出来たし、顧問も良い感じ」
「……ねえ、やっぱり山登りするの?」

 山登りをする部活なんてとんでもない、と最初に反対していた母さん。入部を決めた時には姉ちゃんが何とか説得してくれたけど、やっぱりまだちゃんと納得はしていないみたいだ。

「うん、まあまだ先だけどねー。最初は多分走ったり筋トレしたりかな」
「そうなの。でも気をつけてね、山登りで怪我とかしないように」
「分かってるよー」

 まだオムライスが出来るまでには時間がありそうだ。俺は先に風呂に入る事にする。そこら中打撲や擦り傷のある身体に、シャワーの刺激は辛かった。
 
 結局風呂の中でも考えるのは、今日のことばかりだった。これから学校で賢太郎とどう接していけばいいのか。そもそもこの世界で俺達は男同士なのに、賢太郎はどう考えているのか。そうやって悶々と頭を悩ませていたが、結局答えなんか出なかった。

「なるようにしか、ならないよなー」

 賢太郎の方が早く記憶が戻っていたという事は、もっと前から悩んでいたに違いない。そう考えると、記憶を無くして呑気に毎日を過ごしてきた事を後ろめたく思った。

「よし、賢太郎と話してみよう」
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