9 / 66
9. なんだ、既に知っていたの回
しおりを挟むだけど、ダイへの通話は繋がらなかった。スマホに表示された文面によると、誰かと通話してるみたいだ。
しかも随分と長い時間通話しているみたいで、何度も同じ文面が表示されるスマホを眺めた。
意気揚々と盛り上がっていた気持ちが、プシューっと空気の抜けた風船みたいに萎んでいく。
「なんだよぉー……」
ゴロンとリビングのソファーに横になった拍子に、転んだ時に打撲したのか両膝がズキンと痛んだ。
もう一度だけ通話ボタンを押してみた。だけどやっぱり通話中だと表示される。
(ダイは友達が多いから仕方ないか)
諦めて今日の出来事を思い起こしてみる。そうっと目を閉じて賢太郎の表情や言葉を思い出す。それだけで胸がキュウっと締め付けられた。
俺のことを気遣う表情も、優しく包み込むような仕草も、どう考えても口説いているとしか思えない言葉だって。
「胸が痛い、これが愛ってやつ……?」
誰も答えない事は分かっていても、思わず口をついて出た言葉に勝手に赤面した。
なんだ、愛って! と、自分にツッコむ。まともに相思相愛の恋愛すらしてこなかったくせに急に現れた賢太郎という存在にはしゃいでいるのが自分でも分かったから。
「ああー! もうっ!」
手近なところにあるクッションを手に取って、顔をそこにボフンと埋めた。
姉ちゃんにはよく「アンタは思い込み激しいからね、勘違いじゃないの?」って言われる俺だけど、こればっかりは勘違いしようがない程の感情だ。
(完全に賢太郎の事を好き……、いやもしかしたら既に愛してるってやつ……)
「……うわぁーッ!」
誰も聞いてないし見てないことをいい事に、俺はクッションに顔を埋めて何度も叫んだ。そうしていつの間にか、クッションを顔に乗せたままで寝てしまったようだ。
ピロンっという聞き慣れた通知音で目が覚めた。部屋は真っ暗で、まだ母さんが帰っていないらしいことは分かる。ゴソゴソ探ってスマホの画面を覗いたら、一時間ほどが経っている。見れば、ダイから何件もDMが届いていた。
「さっき賢太郎から全部聞いた」
「記憶、戻って良かったな」
「実はずっと前に賢太郎から相談されてた」
「黙っててごめん」
「またいつでも話聞くよ」
寝起きのボーッとする頭で何度も読み返した。
「なんだ、ダイは知ってたんだ」
親友のダイと賢太郎の間で、既に話がついていた事に対してはホッとした気持ちしかなかった。ダイが謝る理由なんてこれっぽっちも無いのに、相変わらず根は真面目で優しい奴だ。
(賢太郎と長く通話してたんなら、別に俺から話すこともないか)
「賢太郎から聞いたならいいよ。また明日な」
そう返信して、フッと思わず顔が綻んだところで玄関から母さんが帰宅する気配がした。帰るなりパチンと壁のスイッチを押したんだろう。急にパッと部屋が明るくなる。
「ただいまー……。何してんの? こんな真っ暗なとこで」
電気も点けず、リビングのソファーでぼんやりと光るスマホ片手にニヤつく息子。それにギョッとした表情の母さんは、大きな買い物袋を二つも手にしていた。
「おかえりー。部活で疲れて寝てた」
「そうなの? 風邪ひくよ」
姉ちゃんにも俺にも似ていない顔立ちの母さんは、一見神経質そうな一重の瞳をチラリとこちらに向けてから、ガサガサと音をさせてキッチンの方へと移動する。
「ねぇ、今日はオムライスでいい?」
「あ、いいねー! オムライス嬉しい!」
「今日は部活初日だったんでしょ? どうだったの?」
心配性の母さんには今日部活で倒れた事は話さない方がいいと、俺の中の何かが知らせる。別に大した怪我もないし、話す必要はないだろう。
「んー、楽しかったよ! 案外大変だったけど、部員の友達も出来たし、顧問も良い感じ」
「……ねえ、やっぱり山登りするの?」
山登りをする部活なんてとんでもない、と最初に反対していた母さん。入部を決めた時には姉ちゃんが何とか説得してくれたけど、やっぱりまだちゃんと納得はしていないみたいだ。
「うん、まあまだ先だけどねー。最初は多分走ったり筋トレしたりかな」
「そうなの。でも気をつけてね、山登りで怪我とかしないように」
「分かってるよー」
まだオムライスが出来るまでには時間がありそうだ。俺は先に風呂に入る事にする。そこら中打撲や擦り傷のある身体に、シャワーの刺激は辛かった。
結局風呂の中でも考えるのは、今日のことばかりだった。これから学校で賢太郎とどう接していけばいいのか。そもそもこの世界で俺達は男同士なのに、賢太郎はどう考えているのか。そうやって悶々と頭を悩ませていたが、結局答えなんか出なかった。
「なるようにしか、ならないよなー」
賢太郎の方が早く記憶が戻っていたという事は、もっと前から悩んでいたに違いない。そう考えると、記憶を無くして呑気に毎日を過ごしてきた事を後ろめたく思った。
「よし、賢太郎と話してみよう」
1
あなたにおすすめの小説
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
双葉の恋 -crossroads of fate-
真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。
いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。
しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。
営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。
僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。
誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。
それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった──
※これは、フィクションです。
想像で描かれたものであり、現実とは異なります。
**
旧概要
バイト先の喫茶店にいつも来る
スーツ姿の気になる彼。
僕をこの道に引き込んでおきながら
結婚してしまった元彼。
その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。
僕たちの行く末は、なんと、お題次第!?
(お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を)
*ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成)
もしご興味がありましたら、見てやって下さい。
あるアプリでお題小説チャレンジをしています
毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります
その中で生まれたお話
何だか勿体ないので上げる事にしました
見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません…
毎日更新出来るように頑張ります!
注:タイトルにあるのがお題です
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
坂木兄弟が家にやってきました。
風見鶏ーKazamidoriー
BL
父子家庭のマイホームに暮らす|鷹野《たかの》|楓《かえで》は家事をこなす高校生。ある日、父の再婚話が持ちあがり相手の家族とひとつ屋根のしたで生活することに、再婚相手には年の近い息子たちがいた。
ふてぶてしい兄弟に楓は手を焼きながら、しだいに惹かれていく。
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる