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26. 許可を貰おうと思っただけなのに、の回
しおりを挟むそれから俺達はテスト期間以外の放課後には、賢太郎の家でストレッチと筋トレをしてからランニングをするという日々を過ごしている。
初日に胸の傷痕に口付けされてからというもの、密かに緊張をしながら過ごしていたけど、賢太郎が俺に必要以上に触れてくる事はなかった。
別に期待してるわけじゃないけど、恋人同士っていうよりは男友達って感じの関わり方しかなくて、少し心配になったりもする。
「何だか俺、最近走るの早くなった気がする」
「確かに。筋トレもだいぶついて来れるようになったしな」
「そろそろ登山してみたいな」
賢太郎が考えてくれた遠足部のトレーニングは運動音痴の俺を確かに成長させてくれたようで、そろそろ登山道がきちんと整備された低山を登ってみようかという話になった。
決行は明日、ちょうど学校が休みの土曜日という事で急遽決まった。その日のトレーニングを終えて賢太郎の家から帰宅するなり、母さんに何て報告しようかと考える。
以前に一人で登山をしてみたいと言った時には「登山なんてとんでもない」と大反対されたから、今回は許してもらえるように上手く伝えないと。
子どもみたいな事かも知れないけど、ちょっとしたご機嫌とりをすることにした。家事のほとんどを済ませて、夕食も家にある材料で出来るカレーを作って母さんの帰宅を待ってみることにする。
「ただいまー」
声の感じからして、仕事から帰った母親の機嫌は上々のようだ。いつもより明るめの声で返事をする。
「おかえりー。今日はカレーが出来てるよ」
「えっ? 本当? どうしたの?」
俺が夕食を作る事はあまりないものだから、嬉しそうだけどちょっと不審そうな顔をする母さんに、何食わぬ顔で「とにかくカレーを食べよう」と誘った。
「ねぇ、まさかテストの点がすごく悪かったとかじゃないでしょうね?」
「何言ってんだよ。期末テストはもう少し先だろ」
「じゃあ何? カレーなんか作ったりして。何か欲しい物でもあるの?」
慣れない事をしたせいで、余計に母さんを警戒させてしまう事になったみたいだ。俺は自分のバカさ加減に頭を抱える。だけど必ず明日の登山を許してもらわないといけないから、さっさと本題を切り出す事にした。
「あのさ、明日なんだけど。こないだ話してた元山岳部の友達と二人で伊今山に登って来ようと思って」
「登山⁉︎ どうして⁉︎」
「どうしてって……。友達とアウトドアをするって話してただろ。最近その友達と体力作りもしてきたし、そろそろ登山に挑戦してみるかぁってなっただけだよ」
案の定反対しそうな母さんの雰囲気に、努めて穏やかに返答する。ここは何としても説得して許してもらわないと。
「でも、登山だなんて……。よく分かんないけど、アウトドアなら河原でもどこでも出来るんじゃないの?」
「俺は山の雰囲気が好きだから。それに頼れる友達も一緒だしさ、大丈夫だって。せっかく姉ちゃんに貰った物も使いたいし。低い山で、登山道も整備されてるから初心者向けのとこなんだよ」
引くつもりが無いと通じたのか一度俺の目をじっと見つめた母さんは、大きく息を吐いてから後にしばらく黙したままでいた。
「母さん。俺はもう高校生だし、いつもなら自分で決めて行動しろって言うじゃないか。どうして登山だけはそう頑なに反対するんだよ?」
「……光が昔、近くにあった山で大怪我したことがあるからよ」
「それってこの胸の傷痕の?」
「そう。あの時光は山で滑落して石か何かで胸を打ち付けたみたいでね。それに頭も打ってしばらく意識が戻らなかったの。それで起きたと思ったら記憶だって無くなって……」
「……ッ!」
久しぶりに、ズキンッと鋭く抉るような痛みがこめかみを襲った。胸の傷痕もジクジク痛む。
これ以上話を聞いたらいけない、と警告をするように身体を襲う痛みは一体何の為に、何を守っているんだろう。
「光! 大丈夫⁉︎ どうしたの⁉︎」
「大丈夫……。どうしてかな? 時々何かの記憶を取り戻そうとするとめちゃくちゃ頭痛がするんだよ」
そう母さんに問うてみたけれど、ハッと息を呑んだ様子で俺の方を見たまま固まってしまった。きっと理由を知っているんだろう。
どうする? 痛みの原因を知りたいなら今だ。この痛みは記憶と連動して、何とか俺に思い出させないようにしている。痛みという鍵を掛けて、隠すようにされた記憶は一体どんな物なのか。
「母さん、何か知ってるのか?」
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