39 / 66
39. 相川悠也というイケメンの回
しおりを挟むそれからの生活はなかなか楽しい日々が続いていた。学校が終わると賢太郎の家でトレーニングして、休みの日にはまた伊今山にも登ったし、少し遠出をして賢太郎に海釣りも教えてもらった。
母さんとも前より遠慮なく接するようになったというか、母さん自身が明るくなった気がする。俺も前よりもっと家事を手伝ったり、真面目な母さんに言われる前に勉強もしっかりやった。お陰で夏休み前の懇談会では「特に言うことありません。これからも頑張って」と先生からお墨付きをもらって、夏休みは割と自由に過ごせそうだ。
「ヒカル! 夏休み、賢太郎とどっか行くのか?」
夏休みに入る直前の学校最終日、ダイが帰り支度をする俺の席へ近寄って何やら楽しそうに聞いてくる。いつもダイと一緒にいる友達グループは、夏休みという事ではしゃいでいる様子でさっさと廊下へ出て行った。これから皆でどこか出掛けるんだろう。
「うん、キャンプに行く事になってる」
「へぇー、キャンプ。泊まりで?」
ニヤニヤと嬉しそうな顔をして意味ありげに問うダイ。どうせ鈍臭い俺にキャンプなんか出来っこ無いと思ってるに違いない。
「まずはデイキャンプ、それが上手くいったら一泊でするつもりだけど」
「おっ! どうだったかまた話聞かせてくれよー! 賢太郎の方から俺に色々聞いてきた癖に、結果はケチケチして話してくれないんだよなぁ。一緒にネットで調べたりしてやったのに」
(ダイもキャンプとか好きだったのか。意外だな。まぁでも、確かに仲の良い仲間内でよくバーベキューとかしてそうだな)
「おう! まかせろ! 上手くいったらすぐDMするよ!」
そう答えるとダイは何故かブッ! と吹き出して、「いや、無理にすぐはしなくていいぞ。落ち着いてからで」と言った。
(コイツ、完全に鈍臭い俺がキャンプなんか出来ないと思ってる……)
「俺だって、ちゃんと出来るんだからな」
「いやいや、初めての時は無理はすんなよー。ヒカルは変なところが真面目だからなぁ」
そう言いつつさも可笑しそうに笑うダイを少し拗ねたように睨みつけた。
「何だよ、それ。ほら、廊下から呼ばれてるぞ」
「あ、マジだ。じゃヒカル、またな!」
「うん、またな!」
ダイは何でも許したくなるようなあの人懐っこい笑顔で俺の背中をバンバンと叩いてから、廊下で待ついつものグループに混ざっていった。
アイツは教科書とかをほとんど置いて帰ってるけど、俺は夏休み中もしっかり勉強したかったから、たくさんの教材をリュックに詰めるのに時間がかかった。重たいリュックとトートバッグを持って廊下に出ると、賢太郎が一人の男友達と少し離れた場所で話す姿が見えた。
(なんか賢太郎の顔、めちゃくちゃ険しくないか?)
そう思いながら、つい柱の影に隠れるようにして様子を伺ってしまう。それくらい、二人は真剣な顔で何かを話していた。
(あいつ、確か山岳部にいたイケメンだ)
賢太郎と話しているのはたった二日間所属した山岳部の部員だった。確か相川だったか、一年で一、二を争うイケメンだって有名な奴だから覚えてる。確かに少し長めの黒髪にぱっちりとした目、男らしくシュッと鼻が高くて、唇もやけにセクシーに見える。おまけに体格は制服を着てても分かるほど筋肉質でどう見てもイケメンだ。
「おい! 賢太郎! 待てよ!」
「だから山岳部には戻らないから。じゃあな」
「何でだよ! おい!」
イケメンの制止を振り切って賢太郎は玄関の方へと向かって行く。廊下に残された相川は悔しそうな表情で拳を握っていた。
(賢太郎は優秀だから、山岳部に残って欲しかったのか?)
俺と違ってスポーツ万能な賢太郎が山岳部を突然辞めた事に納得がいかないのかも知れない。山岳部は団体競技でもあるから、そういう貴重な人材が欠けるのは困るんだろう。俺のせいで賢太郎が退部した事に今更ながら罪悪感を感じた。
ぼーっとそんな風に考えごとをしていたら、いつの間にか目の前に相川が立っていた。近くで見ると本当に整った顔立ちで、その相川の唐突な行動に驚いていると冷めた声音で話しかけられる。
「宗岡、お前が賢太郎に山岳部辞めろって言ったのか? 自分がひ弱でついていけなくて辞めたからって、それに賢太郎を巻き込むなよ」
「え……、いや……」
まともに喋った事もなくて男でも見惚れるようなイケメンからの突然の問いに思わず口籠る。少し首を傾げた相川は急にグッと距離を詰めて近付いた。
「お前は賢太郎の足枷にしかならない。補欠のくせに、本当に目障りだな」
高い身長を駆使して上から見下ろしながら、近い距離で俺にだけ聞こえるくらいの声で告げる。その声音は分かりやすい程の怒気を孕んでいて、完全に警告だった。
「へ……」
補欠っていうのは、山岳部での俺の実力を指してるんだろうけど。こんなにあからさまな敵意を向けられた事は無かったから、咄嗟に何も言い返せない。そんな俺を見て心底呆れた様な表情になった相川は、軽くため息を吐いてから踵を返す。
「イケメン……、怖い」
相川の去って行く後ろ姿を見つめながら、思わずポツリと本音を零す。暫く呆然としていたけれど、玄関で賢太郎を待たせているのを思い出して急いで柱の影から飛び出した。
0
あなたにおすすめの小説
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
双葉の恋 -crossroads of fate-
真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。
いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。
しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。
営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。
僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。
誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。
それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった──
※これは、フィクションです。
想像で描かれたものであり、現実とは異なります。
**
旧概要
バイト先の喫茶店にいつも来る
スーツ姿の気になる彼。
僕をこの道に引き込んでおきながら
結婚してしまった元彼。
その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。
僕たちの行く末は、なんと、お題次第!?
(お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を)
*ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成)
もしご興味がありましたら、見てやって下さい。
あるアプリでお題小説チャレンジをしています
毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります
その中で生まれたお話
何だか勿体ないので上げる事にしました
見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません…
毎日更新出来るように頑張ります!
注:タイトルにあるのがお題です
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
坂木兄弟が家にやってきました。
風見鶏ーKazamidoriー
BL
父子家庭のマイホームに暮らす|鷹野《たかの》|楓《かえで》は家事をこなす高校生。ある日、父の再婚話が持ちあがり相手の家族とひとつ屋根のしたで生活することに、再婚相手には年の近い息子たちがいた。
ふてぶてしい兄弟に楓は手を焼きながら、しだいに惹かれていく。
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる