すれ違いがちなヒカルくんは愛され過ぎてる

蓮恭

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60. 転がり落ちた先の回

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「はぁ……っ、はあ……。なぁ、どこまで行くんだよ?」
「もうバテたのか。やっぱりお前は山岳部を辞めて正解だったな」
「いや、おかしいだろ。なんで普通のスニーカーでこんな枯れ葉だらけの山道を歩くんだよ! 油断したら足が滑るんだからバテても仕方ないだろ」
「同じ道を歩いても、俺はバテてなんかない」

 冷めた声で俺に向かってそう言うと、さっさと道なき道を登って行く相川の背中を必死で追いかける。どうやら相川はこの山道を登る事に慣れているようだ。

「いや、なんかお前のスニーカー……、それトレラン用だろ」
「うるさい。元々ここに登りに来ようと思ってたら宗岡が賢太郎の家から出て来たんだよ」
「えー、それずるくないか」

 相川に連れられて来たのは賢太郎の家から徒歩とバスで一時間近く移動したところにある、俺には名前すらも分からない山の中だった。

「はぁ……っ。だから……っ、どこに行くんだって……」
「うるせぇな。誰にも邪魔されずお前と話せるとこだよ」

 どうやら俺と違って山岳部で頑張っている相川は、いつもこの山を登ってトレーニングをしているらしいと分かった。明らかに登山道では無い道をスイスイ登って行くからだ。

「もうさ、別にここでもいいだろ。誰もいないって……。だってもうこんな時間だし」

 まさか登山をするとは思いもよらず、相川のトレイルランニングシューズと違い普通のスニーカーで来た俺は、枯葉に足を取られて何度も転んだ。今も枯葉に足を取られて思わず膝をつくと、そばに戻ってきて立ち上がらせようというのか相川がスッと手を伸ばす。

「やっぱり情け無い奴だな。この程度で音を上げるようだから足枷だって言うん……ッ⁉︎」
「危な……っ!」

 不安定な足場で手を伸ばした相川が、枯葉に足を取られて身体を傾けた。咄嗟に立ち上がった俺は思わずその手を引っ張る。カッコよく助けられたら良かったのに、そこは鈍臭い俺のせいでそう上手くはいかず。

「うわ……ぁっ!」

 助けるどころか二人して斜面を転がり落ちて行く。枯葉の斜面にはところどころから木の切り株やら大きな石やらが飛び出していて、きっとそんなとこで身体中を打ち付けている。何かにぶつかったり身体で踏みつけたりしてとてつもなく痛い。

「い……ッたあ」

 やっと平らな地面にゴロリと放り出された時には、情け無いけどあまりの痛さに涙が滲んだ。

「おい! 宗岡、大丈夫か?」
「大丈夫じゃ、ない。相川は?」
「足首やられた」

 四つん這いで近付いてきた相川は、左足首を捻挫したと言う。だけど登山用リュックを背負ってウエアを着込んでいたからか、他はあまり痛まないと言った。元々登る予定だったと言うから、準備していたのが良かったんだろう。

「俺、薄着過ぎて身体中打ち付けたから動けない」

 対する俺は普段着で、リュックは無しの手ぶら。しかもトレーニングの後は暑いからと思って明らかに薄着をしていた。そこら中で打撲した身体は骨折などは無さそうだが、擦り傷があったりしてとてつもなく痛い。枯葉の地面に仰向けで寝転んだまま、少し動くのも億劫だった。

「悪かったな。ちょっと賢太郎の家から出てくるお前見たら頭に血が昇って……やり過ぎた」
「もういいけど。相川のスマホある? 俺、スマホどっか行っちゃって分かんないから鳴らして欲しいんだけど」
「……画面がバキバキに割れた」
「え……」

 相川のスマホは完全に電源が切れ、画面はバキバキになっていた。俺のスマホはどこに行ったか分からない。ここは山の中で、しかも相川によると正規の登山道では無いという。

「これ、どうなるんだろ」
「悪いな」

 二人してがっくりと項垂れていると、離れたところから聞き慣れた着信音が聞こえてきた。

「あ、俺のスマホ! 結構上の方にあるっぽいな」
「だけど俺も今は登るのは無理みたいだ」
「だよなぁ……」

 かなり長く鳴っていた着信音はそのうち切れた。そしてDMの着信音が続け様に三回。

「そうだ、あれ賢太郎かも。家に帰ったらDMするように言われてたから」
「へぇ……」
「じゃあもしかして、返事が無かったらGPSで探してくれるかも」

 俺と賢太郎は登山用のアプリでお互いの位置がGPSで分かるようにしていた。普段もどこでいるか分かるというちょっと束縛の激しいカップルみたいなその機能が、今まさに役立つかも知れない。

「お前さ、一体賢太郎の何?」

 寝転がる俺のすぐそばで座り込んだ相川がじっと見つめてくる。

(どうせ動けないんだし、この際ここで相川ととことん話してみよう。ちゃんと話せば、もしかしたら誤解や印象の違いもあるかも知れない)

 クラスメイトとの事を思い出しながら、俺は相川と腹を割って話す覚悟を決める。


 
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