Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

文字の大きさ
6 / 97
第一章 《第一部》ヒーラー 少年篇

第5話 「神の囁きと解けぬ呪い」

しおりを挟む
母はベッドで眠っていた。何も知らないかのように、ただ静かに眠っている。
突然の出来事に、父の動揺は隠しきれない。そんな父を見て、俺は息を呑んだ。
前日までは、いつも通りの母がそこにいたのに。

「眠り病?」

「ああ、呪いの一種だ」

父はそう言って、硬い表情で俺に告げる。

呪い――? でも、なんで母がそんなものにかかるんだ?
俺の頭の中では、疑問が渦巻いていた。

父は現役の冒険者だが、母は俺が生まれてからずっと家にいて、冒険家業を引退していた。
家事や育児をして、俺の成長を支える為だ。

だから、母が呪いにかかるような理由なんて、これまでなかったはずだ。

「アスフィ……お前が産まれる前のことだ」

父の声が、どこか遠くから響くように感じる。

「え?」

「……俺たちがまだ現役でパーティを組んでいた時、
ある魔術師に出会ったんだ。その魔術師は、どういうわけか俺たちをダンジョンに閉じ込めようとして、入口を塞いだんだ!」

父はその時の出来事を思い出すのか、顔を顰めて怒りを露わにする。
その表情は、見る者を圧倒するほどに激しい。俺は思わずその目を見れず、足元を見つめた。
父さんがガチで怒ると、こんなにも怖いなんて……。

「怒鳴り声をあげてすまない……」

「い、いえ、大丈夫……です」

俺は、震えながらも何とか返事をする。それでも、心の中では父の怒りが恐ろしい。
でも、父はすぐに気を取り直して話を続けた。

「……俺たちはなんとかダンジョンを脱出することに成功したが、その出口に立っていたのはその魔術師だった。
そして、その時、アリア――母さんは呪いをかけられた」

「その呪いって……?」

「……眠り病だ。原因はわからない。ただ、眠りから覚めない者にはそう呼ばれている。この呪いにかかった者は、二度と目覚めることはない……くそっ!」

父は机を叩き、強い怒りを表に出す。その音が、部屋に響き渡る。
俺はその音に驚き、背筋が凍るような感覚に襲われる。

「で、でも!なんで今なの!?昔の出来事でしょ?」

俺の声には、焦りと不安が混じっていた。

「呪いはすぐに発動するわけじゃない。いつ起きるか分からないんだ」

父は冷静に答えるが、その目には苦しさがにじんでいた。

母は、自分の呪いがいつ発動するのか分からなかったのだろう。いや、母さんなら俺たちに心配をかけまいと、何も言わずに耐えていたに違いない。自分が眠りから覚めないなんて考えたくもないだろう。それでも、母はきっと気丈に振る舞って、俺たちを守ろうとしたんだ。

そんな風に考えると俺は父に聞かずには居られなかった――

「治せないの!?父さん!!」

「……治せない」

父の言葉は、どこか冷たく、無力感がこもっていた。

「今でもこの呪いは各地で起きている。眠りから覚めない者が」

「そんな……」

どうして治せないなんてことがあるんだ。母は優秀なヒーラーだと、何度も父から聞かされてきた。
それでも治せなかったのか、そんな疑問が湧いてしまった。

「……だったら僕が治すよ」

父は驚きの表情で俺を見つめた。

「……なに?」

「僕は母さんと約束したんだ。みんなを笑顔にできる最強のヒーラーになるって」

「馬鹿なことを言うんじゃない!!今は遊びじゃないんだぞ!ふざけるなっ!!」

父の声が怒りに震え、俺を責める。

「と、父さんは母さんが目覚めなくてもいいの!?」 

「そんなわけが無いだろぉ!!俺が……俺がどれだけアリアを愛していたか……」

その言葉には、涙と怒りが込められていた。俺はその姿を見て、心が痛む。
父がどれだけ母を愛しているか、俺だって知っている。でも、言葉にすることで、さらにその思いが深く刺さるような気がした。

父が怒りと涙を流しながらも、最後にこう言った。

「……アスフィ。怒ってすまない。こんなダメな父親を許してくれ」

「大丈夫だよ、父さん」

その言葉だけが、俺の心に温かさを残した。でも、すぐにその温もりも冷えていった。
母はまだ眠っている。目を覚まさない。生きているのに、目を覚まさない。
そんな不思議な感覚に、俺はただじっと立ち尽くしていた。

すると、騒ぎを聞きつけたのか、レイラがドアをぶち破って入ってきた――

「どうしたんですか!?大丈夫ですか!」

レイラは何も知らない。

「……レイラか。大丈夫だ、気にするな」

「そうだよ、いつもの喧嘩だから」

「……そうなんですか。すみません、ドアを壊してしまいました」

レイラは気まずそうに、壊れたドアを見て頭をかく。

「いや、また治せばいい。……そういえば剣術の特訓はまだだったな。いまからやるか」

「いまから、ですか?」

「ああ、二人まとめてかかってこい」

父はどうやら、怒りを発散させたかったらしい。
その気持ちを察して、俺はすぐに答えた。

「レイラ、やろう!今日こそ父さんをボコボコにするぞ!」

「……うん、そうだね」

結局、ボコボコにされたのは俺だけだった。

***

呪い。それは決して解呪することが出来ない魔法。

これもまた、才能の一つだ。

呪いの才能。なんて最悪な才能だ。

一体、これのどこが『祝福』だというんだろう。

俺は、才能で全ての常識が覆るこの世界が嫌いだ。

だが、ふと思った。

「……呪いの才能があるのなら、呪いを解く才能を持つ者もいるのでは?」

この世界なら、そんなこともあるんじゃないかと思ったんだ。

俺は、父にその思いを話した。

「……そうだな。可能性はある。だが、そんな才能を持つ者を、少なくとも俺は聞いたことがない」

父は、長年A級冒険者として活動している。その経験から、そんな才能を持つ者の話は聞いたことがないとそう言いたいのだろう。

「でも!可能性があるなら!探す価値はあるよ!」

俺は、どうしても諦めきれなかった。

「だが……」

父の言葉は重い。何かを諦めたような、そんな響きがあった。

やり切れないと思った。仕方ない、俺一人で行くしかない。

「父さんはここで母さんを見ていてあげて。きっと、父さんがそばに居るだけで、母さんは安心すると思うから!」

「アスフィお前、何をする気だ?」

父の顔が、驚きと不安で歪んだ。

「僕は旅に出る。年齢的に冒険者にはまだなれないけど、今の僕にだって人探しくらいなら出来るしさ!」

「ダメだ!危険すぎる!もし魔物にでも遭遇したらどうするつもりだ!ヒーラーであるお前一人では勝てないんだぞ!」

父の声は必死だった。だが、俺の心は決まっていた。ヒーラーであっても父から教わった剣がある。まだ素人に等しいものだ。
それでも、動かずには居られなかった。

「……なら、レイラが行きます」

――その時、家の外からレイラが現れた。

剣術の特訓が終わった後、すぐに帰ったと思っていたが、どうやらすべての話を聞いていたようだ。

「レイラ……聞いていたのか?」

「はい、すみません師匠。……レイラならアスフィを守れます」

レイラの言葉に、俺は驚いた。だが、彼女の決意が伝わってきた。レイラが居れば何とかなるかもしれない……!

「お前の実力なら可能だろうが……しかし――」

父も俺と同じ考えのようだ。だが、父として、師匠として俺達のことが心配なのだろう。そんな俺の父の考えを読み取ったのかレイラは――

「やれます。信じてください、師匠」

レイラの言葉には、迷いがなかった。俺を守るという、その覚悟を感じた。なら、俺も行動に移さないとな。

「父さん!頼むよ!」

ただのお願い……俺達にはもうこれしかなかった。

父が、俺とレイラの眼差しを交互に見ながら、しばらく沈黙した。

「…………分かった。ただし、危なくなったらすぐに帰ってきなさい。それが条件だ」

「ありがとうございます」

父さんがそう言った瞬間、俺の心に安堵の気持ちが広がった。

「ありがとう、父さん!」

こうして、俺とレイラは人探しの旅に出ることになった。

十二歳の俺と、十三歳のレイラの二人だけで。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

処理中です...