Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第二章 《第一部》ヒーラー 王国篇

第11話 「エルザ・スタイリッシュ」

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ミスタリス王国の女王、エルザ・スタイリッシュ。

彼女は確かにそう言った。

その瞬間、俺の思考は完全に停止した。

……いや、待て。

目の前のエルザがこの国の王?

今まで普通に話していた相手が、王国の頂点に立つ人物だった? それだけでも驚愕なのに、俺がエルザにタメ口で話していたとき、メイドたちが異常なまでに俺を睨んでいた理由……ようやく理解できた。

「こいつ、女王に馴れ馴れしくしやがって……」

あの目は、間違いなくそう言っていた。

……ヤバい。

死ぬ。これは本当に死ぬやつだ。

「あの、エルザ、これは一体どういう――」

背後から突き刺さる圧倒的な殺気。

一瞬で全身の毛が逆立つ。呼吸すら浅くなるほどの冷たい感覚が背中を這いずり回る。

こ、怖い……。言葉を間違えたら、本当に命を落とすかもしれない。

「よい、お前ら。私は気にしてなどいない」

「はい、かしこまりました」

「……エルザ女王よ、それで例の母の呪いの件なんですが……」

「よいよい! いつもの友達の話し方でよい!」

「そうですか? ならエルザ――」

「ひっ」

まただ。

また殺気だ。

皮膚がヒリつくような鋭いプレッシャーが、王室に充満する。

もう無理だ。早く帰りたい。

レイラも、さっきからずっと無言のまま、体をガクガクと震わせている。

「……はぁ、お前ら下がれ。お前らがいると話が進まん」

「しかし――」

「んん~?」

「……はい、かしこまりました。では、失礼いたします」

「うむ」

エルザが冷たい眼光を向けると、メイドたちは何も言わずに王室を出ていった。

扉が静かに閉まり、ようやく空気が少しだけ軽くなった気がした。

「いやぁ、すまない! これでやっと気軽に話せるな! ハッハッハ!」

……全然気軽になんて話せるわけがない。

王室という密室に閉じ込められた状況は変わらないし、あんたがこの国の王という事実も何一つ変わっていないんだから。

「……それでエルザ殿下、母親の呪いの件ですが――」

「んん~? なんだって? よく聞こえないぞ?」

「いやだから殿下、呪いの件ですが――」

「んーーーーー?」

「あああああもうだから! 呪いの件だってば!」

「ハッハッハ! すまない、それでいい! 堅苦しいのは無しだ!」

この王、本当にめんどくさい……!

だが、それよりも気になるのは、本当にタメ口で話していいのかということだ。

俺はふと、母さんが昔話してくれた父さんの首が飛びかけた話を思い出した。

***

『父さんは昔ね、首が飛びかけたのよ~?』

『どうして?』

『ある国の王様にタメ口聞いちゃってね、ほらあの人あんな性格でしょ? 筋肉しか頭にないような人だから王と気づかなくて、それで首が飛びかけたのよ~ あはははは』

『父さんはそれでどうなったの?』

『ある騎士がフォローしてくれてね、王様もそこまで気にしていなかったから何事もなく済んだわ』

『父さんすごいね!』

『でしょ~? 騎士さんがいなければ父さんいないから、アスフィちゃんもいなかったのよ~? 騎士さんに感謝しないとね』

『騎士さん! ありがとー!! えへへ』

***

……今になって思うと、めちゃくちゃ怖い話だったんじゃないか?

母さんは笑いながら話していたけど、父さんは文字通り首が飛ぶ寸前だったわけで……。

騎士がいなかったら、俺は存在しなかった――。

この国では、王に対する無礼はそれほどの重みがあるということだ。

それでも、母さんは楽しそうに語っていた。そんな母さんが、俺は大好きだった。

だからこそ、俺は必ず母さんの目を覚まさせる。

「王……いや、……エルザの耳にはこの街の全ての情報が入ってくるんだろ?」

「ああ! もちろん! ……プライベートは入ってこないぞ!?」

「もう分かってるってば。なら教えてよ、この街に『解呪』できる才能を持つ人がいるかどうか」

「……残念だが、この街には居ない。すまない」

「やっぱりそうなんだ。なら、なんでここに連れてきたの? 出会ったときその場で教えてくれてもよかったのに……」

そうだ。別にわざわざ王室まで来る必要はないはず。それなのに、ここまで案内された理由――。

「……王として僕たちに用があるんだね?」

「……流石アスフィ鋭いな。だがその通りだ。あの時の私の身分は、あくまで騎士団副団長としてのエルザだ」

エルザは、俺たちを王室へと導いた。それが、彼女の計画だった。そして、その真の目的は――。

「私は君たちと出会う前に、凄まじく身の毛がよだつ大きな力を感じた。その方向は、君たちがいた場所だ。恐らくレイラが言っていた“怖カッコイイ”というヒーローだと思うのだが、私はそいつの正体が知りたい」

レイラは黙っていた。一言も発さず、ただじっと下を向いていた。

「でも、レイラの話ではそいつはもうどっか行ったって……」

「だから私はそいつを探したい。そのためには、目撃者であるレイラ、君が必要なのだ」

レイラは、何も言わない。

「……君は、なにも答えてくれそうにはないみたいだな」

「レイラだって、あの時怖い思いをしたんだ! 覚えてなくて当然だよエルザ」

「果たして、本当にそうだろうか」

エルザは、正直者で空気が読めない女だ。しかし、それと同時に、鋭い勘を持つ女でもあった。彼女の洞察力は、時に容赦がない。

レイラは、そんなエルザに対して小さく震えながら、それでも声を振り絞った。

「……レ、レイラは」

俺たちは、レイラが「覚えてない」と答えるのだと思っていた。しかし、違った。

「……覚えてます。レイラは、あの時確かに見ました」

「ほう? 今になって発言する気になったのか……して、どんな奴だ」

「……闇魔法を使っていました。確か、服装は黒の上下です」

「なるほど……ふむ、そうきたか……分かった」

「レイラ、覚えていたんだね」

「……うん」

レイラは、どこか気まずそうな表情でそう答えた。対してエルザは、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。

「分かった、ありがとうレイラよ」

「いえ」

「私は……ゴホンッ、エルザ女王としてお前たちに命ずる」

エルザは、大きな王の椅子からゆっくりと立ち上がり、真紅のマントを翻す。途端に空気が張り詰めた。

今までの軽い雰囲気は完全に消え去り、王としての威厳が場を支配する。

これは、命令――。

俺は、嫌な予感がした。

「我は、お前たちを騎士団に入隊させる!」

「「え?」」

俺とレイラは、同時に声を上げた。

……そして、嫌な予感は的中した。

***

俺たちは騎士団に入隊することになった。

――半ば強制的に。

「ねぇアスフィ……どう? 似合う?」

「うん! すごく可愛いよ! 流石レイラだね!」

騎士団の装いを纏うレイラ。

今までの黒いシンプルな服装も似合っていたが、目の前の彼女はまた違った雰囲気を纏っていた。白を基調とした、どこか気品を感じさせるデザイン。それでいて動きやすさも考慮された実用的な服装だ。

騎士団といえば、エルザのような重厚な鎧を想像していたが……どうやら俺たちの装備は少し違うらしい。

「アスフィもカッコイイね」

「そうかな? あんまり実感がないよ……ははは」

俺は鏡越しに、自分の姿を確認する。

田舎育ちの俺が、こんな立派な服を着ることになるなんて。

今までの俺の服装は、茶色を基調にしたシンプルなものだった。母さん曰く、「髪色に合わせた」とのこと。だからか、俺は自分の髪と服の組み合わせが嫌いではなかった。

それに、何より動きやすかった。

膝丈のショートパンツ。多少汚れても気にならない生地。戦闘には向いていなかったかもしれないが、それでも俺にはしっくりきていた。

……それに比べて、この服はどうだ?

黒を基調とした、まるでスーツのような装い。丈の長い上着が妙に窮屈に感じるし、動きに制限がかかる気がしてならない。

「なんか動きにくいよ、これ……」

「ハッハッハ! 似合っているぞ! アスフィ!」

エルザが大袈裟に笑いながらそう言う。

似合っているなら、それでいいのかもしれない。……案外、俺は単純なのかもしれないな。

レイラの装いは白。俺は黒。二人とも対照的な色を纏っているのが少し面白い。

「……ほんとに似合ってる?」

自分でもまだ違和感が拭えないまま、俺は呟いた。

――そんな俺に、問答無用で現実が突きつけられる。

「今回依頼のあったクエストは、魔獣討伐だ」

「魔獣? 大丈夫なのそれ」

「アスフィはレイラが守るから安心して」

「問題ない! 私がいる! 私はこう見えてもこの国で一番強い! だから君たち二人を守るのも私の義務だ!」

……いや、本当に大丈夫なのか?

エルザの言葉には妙な説得力があるが、その自信がどこから来るのか、俺にはまるで分からない。

本当に強いのか? それとも、ただの自信過剰なのか?

「それで、どんな魔獣なの?」

「ワイバーンだな。どうやらそいつらが村を襲っているとのことだ。推奨ランクはA級。この国の冒険者は最高でB級だから、騎士団団長か、副団長である私しか行けないのだ!」

「……なら団長が行けばよくないそれ?」

俺の率直な疑問に、エルザの表情が一瞬だけ固まる。

「……団長は忙しい。よって! 私が行く! そして君たちも付いてくる! 以上!!」

それ以上の議論は許さない――そんな態度だった。

俺たちは、ただ黙って受け入れるしかなかった。本当に大丈夫なのか?

不安しかない。これが初めてのクエスト……それもA級という高難易度の依頼だ。俺たちは本当に戦えるのか?

正直、俺にはまだ実感が湧いていなかった。

……だが、嫌な胸騒ぎだけは確かにあった。
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