Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第二章 《第一部》ヒーラー 王国篇

第15話 「胸に秘めた想い(物理)」

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ワイバーンの討伐を終え、ミスタリス王国へと戻った俺たちは、またあの無駄に広い部屋で一息ついていた。

“また”と言っても、まだ二回目だけど。

天井がやたらと高く、壁には豪華な装飾が施されている。王族の権威を示すための部屋なのかもしれないが、俺たちにはただ広すぎて落ち着かない場所だった。

「……疲れたぁ」

俺はソファに身を沈めながら、ぐったりとした声を漏らす。こうして気を抜くのはいいもんだなぁ。

「アスフィも疲れるんだね」

俺達はソファに座ってそんな会話をしていた。俺の『ヒール』はケガだけでなく気持ちや疲れなんかも癒せる。それはレイラの吐き気で実証済みだ。俺が今『ヒール』で回復できる実証済みのものは、

・『ケガ』
・『精神的なものの疲れ(気持ち)』
・『疲れ(スタミナ)』
・『眠気』
・『魔力』
・『エルザの左腕』

こんな所だろう。最後のは『ハイヒール』ではあるが、あまり変わらない。
眠気に関しては、エルザパパとの初対面の時にこっそり自身に使ってみた。半信半疑ではあったがしっかりと効果があった。
あの時、レイラに眠気があり俺になかったのはその為だ。そして、魔力だ。本来魔法とは魔力を消費することになる。
それはどの魔法使いも例外ではない。しかし、俺の場合は魔力さえも『ヒール』で回復できる。
魔力を消費し『ヒール』を発動。消費した魔力以上に魔力を回復する。
プラマイゼロどころか、むしろプラスになる。

この通り俺は大抵のものは回復できることが分かった。
母の『呪い』を除いて……。そして俺はこの回復の多用について悩んでいた。
このままだと俺はやろうと思えば寝ずに活動する事もできる。そうなってしまえば人間ではなくなる気がした。

【よく言うね。人間じゃないじゃないか】

(またか。誰だお前は)

……当然返事は無い。

「……はぁ……僕もう寝るよ」

俺はソファから立ち上がり、重い体を引きずるように寝室へ向かおうとした。討伐の疲れもあるし、正直、風呂に入る気力すら残っていない。

「アスフィ、お風呂入らないの?」

レイラの声が背後から聞こえたが、俺は軽く手を振って応える。

「ああ、もう疲れ……待って。レイラこそ入らないの?」

ふと気になって聞き返すと、レイラは欠伸を噛み殺しながら答えた。

「レイラも疲れた……もう寝るね」

その言葉に、俺は一瞬固まった。

色々悩んでいて、すっかり忘れていた。俺が早く帰ろうとしていた理由を。

「……アスフィ?なんで?」

レイラが怪訝そうに首を傾げる。俺は少し焦りながら、なんとか言葉を繋げた。

「い、いやだって女の子だし。今回はレイラも結構頑張ったでしょ?汚れたまま寝ると衛生的にも悪いからさ!」

強引な理屈だったが、レイラは少し考えた後、素直に頷いた。

「……アスフィがそういうなら分かった。入る」

ホッと胸を撫で下ろす。

「うん。行ってらっしゃい」

俺は少し安堵しながらレイラを見送った。

……危ない、完全に忘れてた。

俺が早く帰ろうとした理由。それは――

……そうだ。今日こそ俺はレイラの胸を見るんだ。

今までの戦いの疲れも、迷いも、すべて吹き飛んだ。

俺はこのために、いや、この瞬間のために頑張ってきたと言っても過言ではない。ワイバーン討伐?魔力回復?そんなものは些細なことだ。今、この部屋で最も重要なのは――レイラが風呂に入るという事実。

レイラが浴室へと向かうのを見送りながら、俺は内心ガッツポーズを決めた。

「……ふふ、ついにこの時が」

思わずニヤつくのを抑えながら、俺はそっと部屋を出る。

問題はどうやって見るかだ。

正攻法は無理だ。さすがに堂々と「一緒に入ろう」と言えるほどの勇気はないし、万が一、変態扱いされてしまったら今後の関係に致命的なダメージを与えかねない。

となると、策が必要だ。俺は慎重に作戦を練る。

目標:レイラの胸を見る
手段:未定

ここまで計画したはいいものの、実行に移すにはまだ決定打がない。だが、こういう時こそ冷静な判断が求められる。

ごめんよ、レイラ。

俺は決して邪な気持ちだけで動いているわけじゃない。いや、邪な気持ちが全くないと言えば嘘になるが、それ以上に、これは俺への正当な報酬だ。

扉の前で待機し、シャワーの音が聞こえたらすぐ帰ってくる。

至ってシンプルな作戦だが、成功率は高いはずだ。無駄なリスクを冒す必要はない。俺は慎重に、そして確実に成果を得る道を選ぶ。

俺はここ最近、本当に頑張ったと思う。ワイバーン討伐、旅の疲れ、精神的ストレス……全部ひっくるめて、俺は文句なしに努力した。その努力が報われる瞬間が、今、目の前にある。

俺にはご褒美が必要だと思う。


そうして部屋を出ようと、部屋の扉を開けた瞬間――

「やあ!アスフィ……来ちゃった」

最悪のタイミングで、空気の読めないお嬢様が来客に来た。

まるで俺の邪念を察知したかのような絶妙なタイミングに、俺は一瞬で冷や汗をかいた。いや、本当に何でここに来るんだよ……。

「どちら様ですか?……そういうの要らないので。では」

俺は即座に扉を閉めようとした。今はそれどころじゃないんだ。俺にはミッションがあるんだからな!

……だが、その試みはあっさりと阻まれた。

お嬢様はガシッと扉を掴み、そのままびくともしない。

流石、S級馬鹿力お嬢様。 俺の力ごときでは、この扉を閉めることなど到底できない。

「おいおい!つれないではないか!私たちの仲だろう?それに大歓迎と言っていたではないか!!」

「してない!」

俺は即座に否定する。だが、お嬢様はにっこりと満面の笑みを浮かべたまま、全く動じる気配がない。

「そんな冷たいことを言うな!私はわざわざ会いに来たのだぞ!」

「だから帰れって!」

今はそれどころじゃないんだよ!!シャワーの音が聞こえている今、この時間は俺にとって何よりも貴重な時間なんだ!

いや確かに大歓迎だったけど今じゃないの!今先約が入ってるからその次に……ってこんな事をしてる場合じゃない。どうにかこのお嬢様を追い出さなければ、レイラをゆっくり堪能出来ない!

「今ちょっとレイラの具合が悪くてね。また今度お願いするよ」

俺はできるだけ自然な笑顔を作りながら、そう言った。

頼む……納得して帰ってくれ……!

お嬢様は一瞬考え込んだ後、「うむ、なんだそうだったのか……それは残念だ……」と呟いた。

よし、このまま帰ってくれ――

「……ん?」

だが、お嬢様は急に耳をすませるような仕草をした。

「シャワーの音がするが、具合が悪いのにレイラは風呂に入っているのか?」

くそっ、余計なところに気づきやがった!!

「え?あ、ああそう!シャワー浴びたら元気出るかも……ってね」

苦し紛れに答えたが、お嬢様の鋭い目が俺を見つめる。

「ふむ……シャワーを浴びれるくらいなら大丈夫だな!」

嫌な予感がする。

「お邪魔する!!」

「ちょっ……!?いや、それは!!」

俺が慌てて止めようとするも、S級馬鹿力お嬢様はあっさりと俺を押しのけ、部屋の中へとずかずかと入っていった。

終わった……俺のミッションが……!!

「おおー!これはなかなかにいい部屋を貰ったではないか!」

お嬢様――エルザは、興味深そうに部屋の中を見回しながら豪快に歩き回る。

「私もここに住もうか……」

やめろ、それだけはやめてくれ!!

だが、そんな俺の心の声を無視するように、エルザはふと足を止め、じっと浴室の方を見つめた。

「……うん?おいアスフィ――」

俺は既に嫌な予感しかしなかったが、一応返事をする。

「なんだい?」

エルザは俺を指差し、眉をひそめながら言った。

「レイラが丸見えだぞ」

「そうだね」

「丸見えなのに鼻歌を歌っているぞ」

「……そうだね」

「……これはパパに相談しないと。不埒だ」

待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
やめてくれ!部屋を変えるとか、そんなこと言わないよね!?

「ねぇエルザ?こんな言葉を知っているかい?」

俺はできる限り冷静に、落ち着いた口調で話しかける。

「なんだ?」

「それは言うだけ野暮ってもんだよ?」

エルザは目を細め、じっと俺を見つめる。

「……レイラは知っているのか?」

俺は自信満々に頷き、浴室を指差した。

「もちろん!だってほら!」

俺の指差す先――浴室の中では、無防備なレイラが鼻歌を歌いながら、まったく気にする様子もなくシャワーを浴びていた。

「レイラは僕たちに気づいていないだろう?あんなにもガラス張りなのに!」

俺は必死にエルザを説得しようとする。

「うーん、それは曇っているからではないのか?」

エルザは腕を組み、少し考え込んだ。だが、俺はすかさず言い返す。

「曇っていても見えるものだよ、普通は」

「たしかに」

エルザは納得したように頷く。よし、いい流れだ。

「つまり、レイラも承知の上なのさ!」

俺は断言するように言い切った。

「……そう、なのか。私が変なのか?」

エルザは少し困惑した表情を浮かべる。

「そうだよ!世間をもっと知ろう?ね?エルザ」

俺は必死だった。部屋を変えるなんて言われたら、たまったもんじゃない。
そんなことになったら、俺はもうレイラの裸体を見ることができなくなる。

実はこのシャワー室、内側からは見えなくなっている。

外側からはめちゃくちゃ見えるのに、内側からはまったく外が見えない。

逆マジックミラー仕様なのだ。何故こんな部屋があるのかはともかく、

つまり、今のレイラは俺たちがここにいることに気づいていない。

そんな奇跡のような状況を、エルザの軽率な一言でぶち壊されるわけにはいかない!!

俺は満面の笑みを浮かべながら、内心で祈るような気持ちで彼女を見つめた。

「……しかしレイラは私より年下なのに、かなり大きいな」

エルザはガラス張りの向こうのレイラをまじまじと見つめながら、感慨深げに呟いた。

「でしょ!?凄いよね~ほんと、びっくりだようん」

俺も同意しながら、内心ではエルザが共感してくれたことに少し喜んでいた。

もちろん、エルザだって悪くはない。いや、むしろ十分に素晴らしい。だが――レイラの胸は、それ以上だ。

規格外。

この世には、圧倒的な存在というものがある。レイラのそれは、まさにその領域に達している。

エルザは、じっとシャワー室の方を見つめながら、少し首を傾げた。

「だが、ここまで近づいていても気づかないものなのか」

「……そうだね。レイラはお風呂に入ってる時、集中するタイプだからね」

俺は適当なことを言いながら、内心で冷や汗をかく。エルザが余計なことをしないよう、慎重に誘導しなければならない。

だが――

「でも、こんなに手を振っても気づかないものなのか……どれ、一度声でも掛けて――」

――ヤバい!!!!

「――エルザ!それは良くない!!」

俺は即座にエルザの肩を掴み、全力で引き止めた。

「シャワー中に声をかけると、レイラ物凄くキレるんだよ!!」

エルザの表情がピクリと強張る。

「そ、そうなのか……せっかく友になれたのに、嫌われたくはないな……うむ、やめておこう」

セーフ!!!

俺は心の中でガッツポーズを決めた。危なかった……本当に危なかった……。

もしエルザが声をかけていたら、レイラは確実に気づき、俺たちはこの部屋から追放されるどころか、もっと酷い目に遭っていたかもしれない。

だが、俺はまだ生きている。この奇跡の時間を、まだ楽しめる……!

「……で、何しに来たのさエルザ」

「何って遊びに来たのだ。アスフィが来てもいいと言ったのだろう?」

一国の王がなにしてるんだよ。メイドさんたちセキュリティ甘すぎだ!
もしくはエルザパパが甘やかして黙認しているのか……。いや誘ったの俺だけど今じゃないんだよなぁ。

「今日は帰ってくれない?」

「えー!せっかく来たのにそれはないだろう!」

「一応僕より歳上だよね?一応!年下のお願いは聞くもんだよ?エルザ」

「一応とは何だ!むしろ年上の言うことは聞いて欲しいものだな!」

たしかにエルザは身長も胸も大きい。故に見た目で言えば大人と言うのはわかる。
実際俺達も十五とは思っていなかったしな。もう少し上だと思っていた。
だけど、精神年齢がそれに伴っていないんだよなぁ。

「……アスフィ、君がそう言うなら私は切り札をだす」

「な、なんだよ切り札って」

「アスフィ・シーネットよ!我、女王エルザ・スタイリッシュが命ず!……私と遊べ!」

うわ汚ねぇー!!ただ遊ぶだけで王の権力使ってきやがったこの女王!
私情でそんなん使うとか卑怯だろ!

「おい!それは汚いぞ!」

「なんとでも言うがいい!さぁ早く私と遊ぼう!」

「……なら僕も切り札を出す」

「なんだ?言ってみろ」

「エルザのパパを呼ぶ」

「構わない。パパにはちゃんと友達と遊んでくると伝えてある」

やっぱりあの父親黙認どころか容認していたのかよ!
娘にとことん甘いなあの父親!!

「……はぁ、もう分かったよ。僕の負けでいいよ」

俺は深いため息をつきながら、ついに降参を宣言した。エルザは勝ち誇ったように笑い、満足げに頷く。

「よし!ならゲームをしよう。最近庶民の間で流行っているというゲームだ。一度やってみたくてな」

「なんて言うゲームなの?」

俺は警戒しながら尋ねる。それにエルザは胸を張って堂々と宣言した。

「王様ゲームというやつだ!」

――終わってる。

「一人でやってろっ!!」

俺は即座に拒否し、エルザを部屋から追い出そうとした。

だが――

この後、レイラがシャワーから出てきて、俺たちは正座をさせられた。レイラの視線が突き刺さる。冷えた髪をタオルで拭きながら、無言の圧力をかけてくる。俺もエルザも、何も言い訳できずに正座をしながら、ただひたすらお説教を食らう羽目になった。

そして――

案の定、しばらく口を聞いてもらえなかった。

***

「……ねぇレイラ……ごめんって」

俺は申し訳なさそうにレイラへと声をかけた。だが、レイラは腕を組んでそっぽを向いたまま、返事をしてくれない。

その横で、エルザは豪快に笑いながら俺の肩を叩く。

「ハッハッハ!アスフィも馬鹿なヤツだ!不埒なことを考えるから悪い!」

こいつ……他人事みたいに言いやがって……!!

「エルザのせいだよ!このバカ女王!」

俺は即座に反論するが、エルザは目を丸くし、驚いたように俺を見た。

「な!?不敬ぞ!」

「うるさい!そもそもお前が部屋に押し入ってこなければ、こんなことには――」

「………二人とも黙って」

レイラの冷たい一言が、俺たちの言い争いをピタリと止めた。
俺もエルザも、直感的に "これはやばい" と思い、即座に頭を下げる。

「「ごめんなさい」」

完敗だった。
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