Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第二章 《第一部》ヒーラー 王国篇

第20話 「レイラ・セレスティア 1」

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レイラ・セレスティア――それが、彼女の名前。
自然豊かな小さな村で生まれ育った。
しかし、彼女にとって家は安らげる場所ではなかった。
 父はほとんど家にいなかった。

そして、母は……父が不在の夜になると、見知らぬ男たちを家に招き入れ、甘い声を漏らしていた。
 レイラは、そんな夜が大嫌いだった。
耳を塞いでも、布団を被っても、母の嬌声は壁越しに響いてくる。

時には、隣の部屋から軋む音さえ聞こえた。
 息を殺して朝を待つ夜が、どれほど続いただろうか。
 だから、彼女はいつも外にいた。
家の外で、木の棒を振り回して遊ぶ。
それが、レイラにとって唯一の安らぎだった。

  ◆◆◆

  ある日、レイラは村の外れで、一人の男が剣を振るう姿を見た。
ヒューマンの戦士――見たことのない、力強い剣捌き。
 剣を振るうたびに、風が切られ、草が揺れる。
それはまるで、見えない衝撃波のようだった。

 その剣士が、後にレイラの「師匠」となる男、ガーフィ・シーネットだった。
 そして、数日後――
今度はその男と、小さなヒューマンの男の子が剣を交えていた。

 小柄な身体で懸命に剣を振るう少年。
その姿を見たとき、レイラの心がざわめいた。
 (レイラも、剣術を学びたい――)
 そう思った瞬間、気づけば家へと走っていた。

  ◆◆◆

  「お母さん、レイラ、剣術を学びたい」

 昼間、母にそう切り出した。
夜は男を連れ込んでいるから、話しかけられるのは昼しかない。
 母は驚くこともなく、すんなりと了承した。

 「ふぅん? いいんじゃない?」

 それだけ。
あっさりと、あまりにあっさりと許可された。
 レイラは戸惑いつつも、心の中でそっと呟いた。
 (……ありがとう、お母さん)
 レイラにとって、母を「好き」と思うことは少なかった。
けれど、この時ばかりは、感謝の気持ちが湧いた。

  ◆◆◆

  母との約束通り、レイラはその戦士のもとへ連れて行かれた。

 「……さて、ええっと、君は?」

 目の前には、逞しい体躯の戦士。

 「……レイラ……です。十一歳になります」

「レイラか。うん、いい名前だ」

 師匠は、優しく微笑んだ。

 「剣術を学びたいんだって?」

「……はい、レイラは剣術を学びたいです」

 「もちろん大歓迎だ」

師匠は力強く頷く。

 「ただ、俺の剣術修行は厳しいぞ? 俺の息子でさえ、ヒィヒィ言いながら何とかついてきてるくらいだ。君はそれでもやりたいのか?」

 「……大丈夫です」

 レイラは迷わず答えた。

 「レイラは、強くなりたい」

 それは、心からの願いだった。
だが、"強くなって家族を支えたい" というのは嘘。
 本当は、家を出たいだけだった。

  ◆◆◆

その日、レイラは初めて「アスフィ・シーネット」と出会った。

 「可愛い耳だね」

 そう言って、男の子がひょこっと師匠の背中から顔を出した。
 それが、後に彼女の「大切な人」となるヒューマンだった。

  ◆◆◆

  剣術の修行は、噂に違わず厳しいものだった。
腕は痺れ、足は棒になり、指の皮が剥ける日もあった。
 それでも、レイラは楽しかった。
 初めて自分の「居場所」を見つけたような気がした。
  そして、アスフィとも仲良くなった。
 最初はただの修行仲間。
けれど、日々を重ねるうちに、アスフィのことを特別に感じるようになっていた。

  ◆◆◆

  ある日のこと。
師匠が、突然言い出した。

 「よし、お前ら! 汗びっしょりだな! 風呂入ってこい!」

 レイラは、息を呑んだ。

 「……アスフィと、二人で……?」

 顔が一気に熱くなる。
 アスフィは、明らかに嬉しそうだった。
 "レイラと一緒に入りたくて仕方がない" という顔をしていた。
 困惑していると、突然――

 「コラ! ふたりで入っていいなんて、私言った?」

 師匠の妻、アリアが部屋に入ってきた。

 「あの人の仕業ね……後でお仕置きしておくわ」

 レイラは、心の底から安堵した。

 (助かった……)

  ◆◆◆

  また、ある日の修行中――

 「僕は、剣術の才能がありません」

 アスフィが、ぽつりと呟いた。

 「二人のスピードについて行けません……」

 レイラの胸に、何かが込み上げた。

 (何を言ってるの?)

 気づけば、声が出ていた。

 「甘えるな!」

 アスフィの目が、大きく見開かれる。

 「才能がなくても、頑張る気持ちが大事なんだ!! ……です」

 (……しまった)

 言った直後に、後悔した。
 怒られる。追い出される。
そう思った。
 けれど――

 「……そっか、レイラは強いね」

 アスフィは、なぜか笑った。

  ◆◆◆

  それから二年後――
 突然、アスフィの家に怒鳴り声が響いた。
 あの平和な家からは、想像できないほどの声だった。
 レイラは直感した。

 (アスフィの身に、何かあった……!)

 気づけば、ドアを破壊していた。
 そして――

 「なら、レイラが行きます」

 そう言っていた。
 その日、レイラは家を捨てた。
 アスフィと共に、旅に出るために。
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