Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

文字の大きさ
44 / 97
第三章 《第一部》ヒーラー 愛の逃避行篇

第42話「覚醒――憎しみに染まる心」

しおりを挟む
レイラが死んだという報せ。そしてエルザが救援を求めている――。

俺は頭が真っ白になっていた。信じられない。どうしてこんなことになったんだ。俺たちがミスタリスを離れて、まだたったの二週間だぞ……。

震える手で握り締めた手紙には、見覚えのある名前が記されていた。
『ゼウスを信仰する者(ユピテル)』――あの時キャルロットが口にした名前。

「……ルクス、俺は戻る」

「アスフィ、今から行っても――」

「そんなことはどうでもいいっ!!!!」

俺のどこにもぶつけようのない怒号が王室に響いた。ルクスが萎縮し、後ずさる。

「ごめん……なさい……」

「……落ち着きたまえ、アスフィ殿。ルクス殿に当たっても仕方なかろう」

落ち着け、だと?これが落ち着いていられるか?
俺が、俺がそばにいたなら――レイラは、あいつは……。

俺のせいだ……全部俺のせいだ。
喧嘩別れしたまま、俺はあいつを一人にしてしまった。

「アスフィ殿、では、僕が連れていこうじゃないか」

「……なに?」

「僕なら君を一日でミスタリスへ連れていくことができる」

目の前で自信満々に宣言するのはキャルロットだった。

「王子キャルロット、それは無茶です!私たちはミスタリスを離れ、一週間歩き続けたんですよ!?それを一日で戻るなんて――」

ルクスの声を、キャルロットは指を振りながら遮る。

「それは君たちだからだ、ルクス殿。僕を誰だと思っている?僕はこの国フォレスティアの王、キャルロット・アルトリウスだ。この森に一番詳しいのは僕であり、この大陸で一番速く移動できるのも僕。つまり――僕だからできる『技』だよ」

その言葉には、不思議と重みがあった。

「……本当にいけるのか?」

「もちろんだ。だが、今すぐ出発する必要がある。覚悟はいいかい?」

「……ああ、もちろんだ。早く行こう」

キャルロットは頷くと、すぐに準備に向かった。

***

合流地点である石門に向かう道中、ルクスが俺の手をそっと握った。

「……アスフィ、大丈夫ですか?」

「……分かってる。大丈夫だ…………今はな」

震える俺の手を、ルクスがさらに強く握る。その温もりが、かえって俺の胸に深い罪悪感を突き刺した。

全て俺のせいだ。レイラを殺した『ゼウスを信仰する者(ユピテル)』とかいう連中を……俺は絶対に許しはしない。
生きて帰られると思うなよ。

【それがお前のしたいことか】

ああ、そうだ。お前は黙ってろ。

***

合流地点には既にキャルロットが待っていた。横には見たこともない巨大な虎がいる。

「これは?」

「この子たちは『虎車』と言ってね。君たちヒューマンで言う馬車のようなものだ。馬車よりも力強く、速いんだ」

キャルロットが自慢げに虎の頭を撫でる。その様子に、街の獣人たちがざわついていた。

「キャルロット様!どうしてここに――!」

そんな民たちの声を背に、キャルロットは満面の笑みで振り返る。

「やぁ、君たち!僕は少しここを離れる!だが心配はいらない!すぐに帰ってくる。その間、フォレスティアは君たちに任せるよ」

民衆の不安を一瞬で振り払うキャルロットの声。その背中を見て、俺はこの王がただ者じゃないことを改めて実感した。

***

虎車が森を駆け抜ける。魔獣が現れても、キャルロットの斬撃が一瞬でそれらを斬り伏せる。
その技術と速度には、ルクスも俺も息を飲んだ。

「……厄介なものが出たね」

突如、虎車が足を止める。キャルロットの視線の先には、銀色の体毛を持つ巨大な熊――『銀色の熊(シルバーベア)』が立ち塞がっていた。

「物理攻撃が効かない魔獣……厄介だね」

キャルロットがため息を漏らす。

「心配要らない。俺がやる」

俺は前に出た。手をかざし、冷たい声で呟く。

「『死を呼ぶ回復魔法(デスヒール)』」

呪文が響いた瞬間、シルバーベアは崩れるように地面へ沈んだ。

「……流石だね、アスフィ殿」

キャルロットは感心したように笑みを浮かべる。だがその視線は何かを訴えているようだった。

……
…………
………………

夜になる頃、俺たちはついにミスタリスの門前に到着した。
だが、そこに広がっていたのは――地獄そのものだった。

「……最悪な状況ですね」

「……レイラ……くそっ」

ミスタリス王国は炎に包まれていた。住民たちは皆、無惨な姿で転がっている。

「殺してやる……殺してやる……!」

震える声が、自分のものだとは思えなかった。
胸を締めつけるような怒りと悲しみが、喉の奥から噴き出していく。
それは、俺自身の心を焼き尽くすような叫びだった。

………………。

ただ走るしかなかった。
息が苦しい。足が痛む。視界が滲む。だが、それでも止まれない。

血痕の先に、俺が追い求めている答えがある――そんな確信だけが、俺を突き動かしていた。

そして、俺は見つけてしまった。

レイラの姿を。

血に濡れたベッドの上で、まるで眠っているかのように横たわる彼女を目にした瞬間、心の奥底で何かが崩れた音がした。

「あ……ああ……あああああああああああああああああああああああああああ!」

気づけば、俺は膝を突き、崩れ落ちていた。
その場で叫び続けることしかできなかった。

「アスフィいけません!まだ壊れては!」

ルクスの声が遠くで響く。
抱きしめられているのは分かる。だが、その温もりも言葉も、今の俺には届かない。

「絶対に許さない……必ず殺してやる」

震える声で呟いたその言葉には、怒りと憎しみしかなかった。
その瞬間、俺の内側から何かが溢れ出した。

黒い瘴気――いや、俺自身の中に潜む闇。
それが具現化するように、体の周囲を漂い始めた。

髪が白く染まり、視界は赤黒く濁る。
まるで体そのものが、別の存在に変わっていくようだった。

「アスフィ……それは……?」

ルクスの声が震えている。
振り返った俺を見た彼女の目には、恐怖と驚きが混ざり合っていた。

「……ああ、俺だよルクス」

冷たい声が、自分の口から紡がれる。
どこか遠くで響いているようなその声は、俺自身のものとは思えなかった。

「ちょっと待っててくれ。すぐ片付けてくる」

ルクスの手を優しく解き、立ち上がる。
彼女の手の温もりが、一瞬だけ俺を引き止めようとする。
だが、もう引き返すことなどできなかった。

怒りと憎しみ――その炎が、俺の全てを支配している。

「――許さん」

その言葉は、誰に向けたものでもなく、自分自身への呪いのようだった。
俺の中の何かが、完全に壊れていくのを感じる。だが、それでいい。今はこの怒りだけが、俺を前に進ませてくれる。

すぐに終わらせる。
俺自身の手で、この地獄を――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

処理中です...