Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第四章 《第一部》ヒーラー 模索篇

第48話『アイリス』

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アイリスが案内してくれたホーム。  
それは一国の王が住むとは思えないほど、質素な建物だった。  

「えっこれがアイリスの城……か?」  

思わず口に出してしまった俺の言葉に、アイリスは少し微笑んだ。  

「城だなんてそんな……ここはわたくしのホームです」  

「アスフィよ、私も最初見た時は驚いたのだ。それ故に見つけるのに少し時間がかかってな」  

確かに、この建物が城だとは思えない。エルザが探すのに苦労した理由も納得だ。  
ルクスとエルザは、俺が兵士と雑談している間、この街を取り仕切っている者を探していたらしい。  

「さぁ、中へどうぞ」  

アイリスに促され、俺たちはホームへと足を踏み入れる。  
中は驚くほど簡素だった。使用人などおらず、生活感がそのまま漂っている。  
ミスタリスやフォレスティアの豪奢な城とは比べ物にならない。  

「なぁアイリス、メイドは居ないのか?」  

気になった俺は素直に尋ねた。  

「はい、そのような者はおりません。わたくしはそんな大層な身分ではありませんので」  

そんな……この『水の都フィルマリア』を任されているはずの人物が、こんな生活をしているなんて。  

「……アスフィさんはわたくしのことを少し誤解しているようですね」  

アイリスが静かに言った。  

「誤解? アイリスはこの街を仕切ってるんだろ?」  

「少しちがいますね。わたくしは仕切っているのではなく任されている身です」  

「それのどこが違うんだ?」  

「『主』か『主じゃないか』です」  

はっきりとした答えに、俺は一瞬言葉を失った。  
なるほど、彼女はこの街の王ではないのか……。  

「今、王はどこに?」  

「おりません」  

「なぜ?」  

「……言えません」  

核心に触れたのか、アイリスの表情が硬くなった。  
この『水の都フィルマリア』には何かがある。そう思わざるを得ない。  
表向きは美しい街。確かに楽園と呼ばれるにふさわしいが、その裏には……。  

「分かった。教えてくれてありがとう、アイリス」  

「いえ」  

話をこれ以上掘り下げても無駄だろうと判断した俺は、素直に礼を言った。  
テーブルの上にはアイリスが用意してくれたケーキとお茶が並んでいる。  

「美味かったぞ」  

「ご馳走様です」  

エルザもルクスも完食していた。どうやら、二人とも甘いものに目がないらしい。  
俺も一口……うん、これは確かに美味い。  

「お口にあったようでなによりです」  

穏やかなアイリスの言葉に、少し気が緩む。  
だが、気になる点はまだある。  

「なぁ、警戒レベルを上げているって兵士が言ってたけど、何があったんだ?」  

「……最近この街に賊が入りまして。それを皆さん警戒されているのかと思います」  

「……えらく他人事だな」  

「そうでしょうか?」  

「普通自分の街に賊が入ったとなれば、もっと緊張感があるものじゃないか?」  

「……そうですね。それはきっと、わたくしが『任されている身』、だからでしょうね」  

アイリスの言葉に曖昧なものを感じた。  
まるで、彼女自身が何かを隠しているような……。  

「……では、わたくしはこれで。少しやり残した仕事がありますので。皆さんはどうぞ、そのままお寛ぎ下さい」  

そう言い残し、アイリスは席を立った。  
俺たちは残されたテーブルで、少し作戦を練ることにした。  

「どう見る?」  

「そうですね……私は怪しいと思いました」  

「ルクスの言う通りだな、私も注意した方がいいと思う」  

エルザが真剣な表情で答えた。彼女の感覚は鋭い。  
この街にはまだ謎が多すぎる。  

「とりあえず、休みつつ情報を集めるしかないな」  

俺たちは静かに頷き合い、この街の異様な空気感に注意を払うことにした。



「まず、私達はこの街について何も知らない」  

「はい……そうですね」  

「確かに、この街は普通じゃない……」  

エルザが鋭い目つきで窓の外を眺めながら言った。  
その言葉には、彼女自身もこの街に抱いている違和感がにじみ出ていた。  

「取り繕っているようなそんな感覚だ。アイリスもそうだが、この国自体がそうだ。だが、違和感を感じるのにそれが何なのかは分からない」  

エルザが真剣な顔で続ける。  

「その通りだ、アスフィ。アイリスは言わば、この街の管理者だろう。『任されている身』、というのは分からないが、門の前に居た兵士も、アイリス〝様〟と言っていた。これらの発言、敬う態度を見るに、アイリスがこの国のトップである事は明らかだ。にも関わらず、このアイリスのホームに向かう道中、街の人間はアイリスについて誰も触れなかった。これは明らかにおかしい」  

流石エルザだ……こういう時はすごく頼もしい。  
俺が思っていた違和感の一つだ。  

ミスタリスではエルザが街に出た時、その姿は目立ち、瞬く間に人々に声をかけられた。フォレスティアも同様だ。  
王子キャルロットの声に、獣人達は歓声を上げた。  

王は目立つ。当たり前のことだ。  
だが、アイリスが歩いている時、誰も見向きもしなかった。  
そんな事があるはずがない。……仮にもこの国の王ならば。  

「くっそ、謎だらけだ!」  

思わず俺が叫ぶ。  

「落ち着いて下さいアスフィ」  

ルクスが冷静な声で言った。  

「……うむ」  

「……エルザ、どうしました? 」  

「何か分かったのか? なんでも言ってくれ!」  

今はエルザのカンが頼みの綱だ……!  

「……いや、ほんの一瞬だが殺気を感じたのだ」  

殺気を? 俺は全く何も感じなかったぞ。  
ルクスも同様のようだ。  

「アイリスか?」  

「いや、アイリスじゃない。むしろ彼女からは、何も感じなかった……怖いくらいな。まるで人をヒトとして見ていないような……どこか俯瞰ふかんしているような目だった」  

なんだそれは。意味が分からん。  

「じゃあ誰だよ」  

「それは……ん!? 誰だ!!?」  

「え、どうしましたエルザ」  

エルザが剣を抜いた。まさかアイリスの家に敵襲か?  

「……だれも居ないぞ」  

「…………私の勘違いか?」  

「……いえ、私も僅かに魔力を感じました。魔力を感知出来るという事は、少なくとも魔法を使える者が近くに居ます」  

俺だけ何も感じなかった……。  
さすがはS級の二人だ。この上なく頼もしい。  
やっぱりエルザを仲間に迎えて良かった。  

――パリィンッ  

突然ガラスが割れた。  
そしてガラスを割った者が入ってきた。  

「お前らは! 『ゼウスを信仰する者(ユピテル)』!?」  

黒のフードを被った者がガラスを割り入ってきた。相変わらず、顔はフードを被っていてよく見えない。  

「貴様らの事は聞いている。ガードを倒したようだな」  

ガード……? もしかしてあのリーダー格の男のことか?  

「……それがどうした」  

「まぁそんなことはいい。今日は忠告をしに来たのだ。あまり俺達とこの街を探るな。もしまだ続ける様なら、次は容赦はしない。それだけだ」  

「おい! 待て!」  

フードを被った男は姿を消した――  

「マジックアイテム……か」  

「恐らく転移のマジックアイテムですね」  

「あいつらがパパを……」  

転移のマジックアイテムか……そんなものまであるのか。  
にしても何だ? それを言いに来ただけか? これじゃまるで、襲撃というより、忠告じゃないか。  

「……とりあえずアイリスに知らせるぞ」  

俺たちはアイリスに襲撃にあったことを伝えるべく、  
アイリスを探した。


しかし彼女は夜になっても見つからなかった。  

街の住民達にアイリスの行方について聞いて回ったが、誰も彼女について知る者はいない。  

『アイリス? 誰だそれは』  

皆が同じ言葉を口にする。  
それがこの街の住人達から放たれる言葉だとは信じられなかった。  

「だれもアイリスのことを知らない……」  

ルクスが眉間にシワを寄せながら呟く。  

「おかしいですね……この国を管理しているアイリスを知らないなんて」  

「ああ……いや、待て。一人知っている者がいる!」  

俺の脳裏にある人物が浮かび上がった。  
彼女を知る者を、俺たちは知っている。  
誰よりも先に一番初めに出会っていた人物……門番の兵士だ。  

俺たちは急いでアイリスのホームを出て、門へと向かった。  

だが、門は固く閉ざされていた。  

「なあ! ここの門番知らないか?」  

「ん? あんた誰だ?」  

別の兵士が俺たちに問いかける。  

「俺達は……あいや! そんなこと今はいい! 昼に門の前で立っていた兵士だよ!」  

「あーあいつか。アイツならもう帰ったと思うぞ。俺が来た時には門の外にアイツ立ってなかったからな。だからこうして門を閉じてるんだよ」  

くっそ! 見張りの時間が終わったってことか!  

「そう焦るな、アスフィ。明日がある」  

「そうですよ」  

エルザとルクスがそう言って俺の肩を叩いてくる。  

「……ああ、そうだよな」  

焦る気持ちを抑え込むように息を吐いた。  
だが、この街の謎が深まるばかりで、嫌な予感は消えない。  

次の日から、その兵士は姿を消した。  

何かを知る人物がまた一つ、この街から消えていくように感じた――。
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