Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第五章 《第一部》ヒーラー 追憶篇

第61話「Odin」

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腹を満たした俺たちは宿を探していた。

「もう満員です、すみません」

「すみません、いっぱいなんです」

「ごめんねぇ、うちもう満員なのよ~」

***

俺たちは立ち尽くす……。どこに行っても返ってくるのは「満員です」の一言ばかりだった。  
夜の冷たい空気が肌に刺さるようで、俺たちの疲れをさらに増幅させていく。

「……困った。なぁどうする?」

俺が問いかけると、エルザは短く答えた。

「うむ……」

言葉に詰まったその様子に、普段の元気な彼女の影は感じられない。  
そしてさっきから隣で口数の少ないルクスが小さく呟いた。

「……私が居るからでしょうか」

その言葉に、俺は思わず顔を向けた。  
彼女が自分を責めるような表情を浮かべているのが分かった。

ルクスは自分の『白い悪魔』という異名のせいだと思っているらしい。  
確かに、『水の都フィルマリア』の時も、門番に対してその異名を名乗ったことで恐れられていた。今回も冒険者協会の場所を聞くため、仕方なくその異名を口にしていたのだろう。だが、『白い悪魔』なんて畏怖の象徴を名乗りたいわけがない。

俺が何か言葉を返そうとしたその時だった。

「――違うよ!この街はね、本当にいっぱいなんだよ!」

元気いっぱいの声が飛び込んできた。  
その声の主は、一人の少女だった。

「誰……?」

俺が尋ねると、彼女はにっこりと笑って言った。

「初めまして!私の名前はディン!よろしくね!」

緑髪に緑の瞳を持つ少女。明るく屈託のない笑顔が印象的だった。

「……あ、ああ俺の名前はアスフィだ」

戸惑いつつも名乗ると、エルザとルクスも続いた。

「私の名前はエルザ・スタイリッシュだ!」

「私はルクス……です」

相変わらずエルザはフルネームだな……と内心苦笑しつつ、俺たちはディンに自己紹介を返した。

「アスフィと~エルザと~ルクス!分かったよ覚えた!よろしくね!」

ディンは満面の笑みでそう言うと、興味津々な様子でこちらを見つめる。  
緑髪に緑目、薄手の服装――どこか自然に馴染むような彼女の雰囲気に、俺は少しだけ安心感を覚えた。

「良かったら君たちうちに来る?泊まる場所無いんだよね!私のうちでよければ泊めてあげるよ!」

「いいのですか?」

ルクスが慎重に尋ねる。

「うむ、ではすまないが頼む」

エルザは即答で乗り気だ。  俺もディンの好意を無下にするわけにはいかないと思い、言葉を続けた。

「ディンと言ったな。君がいいなら悪いがお願いできるか?俺達もどうしようかと考えていたところだったんだ」

「うん!ぜんっぜん大丈夫だよ!気にしないで!じゃあいこっか!案内するね!」

ディンはそう言うと軽い足取りで先へ進んでいく。  
こうして、俺たちはディンの案内で彼女の家へ向かうことになった。

なんかこんなこと、『水の都フィルマリア』でもあった気がするな。  
俺たちは夜の『アスガルド帝国』を歩く。夜だというのに街は賑やかで、至るところから話し声や笑い声が聞こえてくる。眠らない街ってやつか?そんな印象を受けた。

「なぁ、ディンの家って結構遠いのか?」

俺が歩き疲れた声で尋ねると、ディンは振り返りながら答えた。

「うーん、そうだね!ここからだと~ちょっと遠いかも!」

「そ、そうか……」

俺たちはディンの言葉を信じて歩き続けるしかなかった。

――その後もしばらく歩く。

「な、なぁ……まだか?」

「うん、もうちょっとだよ!」

「そ、そうか……」

ディンの「もうちょっと」という言葉が段々と信用できなくなりつつあった。  
疲労感が足に蓄積していくのを感じながら、それでも足を止めることはできなかった。

そして――

「さぁ!」

ディンが勢いよく振り返った。

「お、やっとか」

思わず安堵の声が漏れる。だが、ディンの次の言葉がその期待を裏切った。

「うん!あとはここを登るだけだよ!」

「……」

俺たちは全員無言になった。  
目の前に現れたのは巨大な神木だった。その幹は信じられないほど太く、高さは空に届くようだった。枝の間に家が見えるのがかろうじて確認できるが、そこまでたどり着くには一体どうすればいいんだ?

「これって……あれだよな。城の外からでも見えてたやつだよな。これが君の家なの?」

「神木だよ!私の家はこの上にあるんだぁ~!」

ディンの元気な声が響くが、俺たちは唖然とするしかなかった。

「……分かった。もうここまで来たら登るしかない」

腹を括った俺は神木を見上げた。  
その瞬間、ディンが指を指しながら言った。

「大丈夫!このエレベーターを使うんだよ!」

目の前には木製のエレベーターがあった。四角い箱。その四方の角にそれぞれ長いロープが取り付けられている。その長さは遥か遠くてゴールが見えない……

「皆、この上に立って!そして、このロープを引っ張るの!」

言われるがままに俺たちはエレベーターの上に乗り込むが――。  
この木製の仕掛けで、あんな高さまで本当に上がるのか?  
不安を抱えながらロープを引こうとすると――

「んーー!!!……はぁ、ダメだ。エルザ、お前の出番だ。ここに来てようやく馬鹿力お嬢様の出番だぞ」

俺がロープを諦めてそう言うと、エルザが胸を張りながら答えた。

「うむ!任せろ!私が馬鹿力お嬢様だ!!!……って誰が馬鹿力お嬢様だ!!」

「いいから、エルザお願いします」

「もっちろん私も引くよ!」

ディンがそう言ってロープを握る。  
俺たちが止めようとする間もなく、ディンは一緒にロープを引き始めた。

すると――

「おおおー!どんどん上がっていくぞー!」

エレベーターは滑らかに上昇し始めた。  
俺が驚いている中、ルクスが苦笑いしながら言う。

「流石エルザですね」

「……その……二人に褒めて貰えるのは大変嬉しいのだが……あの……実は私は殆ど力を入れていないのだ」

なに?  俺とルクスは一瞬言葉を失う。そして視線は自然とディンに向けられた。

「んーしょ!んーしょ!」

ディンは軽々とロープを引いていた。  
もしかして、この細腕で全部引っ張ってるのか……!?  

「こんなの楽勝だよー!みんなは休んでてね!」

ディンの言葉に、俺たちは驚愕しつつも納得するしかなかった。  
考えてみれば、この神木の上に住むためには、この作業を日常的に行っているのだろう。それならこの力にも頷ける。

「……まぁ、せっかくだし休むか」

俺はそう呟きながら腰を下ろした。  
エルザだけは「負けてられない!」と一緒にロープを引いていたが、結局ほとんどディンに任せる形になっていた。

***

「――ついたよー!」

やっとのことで到着した。  
エレベーターから降りて見下ろすと、地上が恐ろしいほど遠い。俺は思わず足がすくむ。

「た、高っ!」

「ア、アスフィ……私腰が……」

「うむ、気持ちは分かる」

俺とルクスはあまりの高さに抱き合うように震える。  
一方、エルザはどこ吹く風といった様子で、平然としていた。

「さぁこっちだよ!ついて来てね!」

ディンの明るい声に促され、俺たちは彼女の家へと向かった。

「ようこそー!私の家へ!」

ディンが扉を開けると、そこには広すぎず狭すぎず、ちょうどいいサイズ感の家があった。  
中に入ると、ログハウスのような木の温もりに包まれた空間が広がっている。

「思ってたより広いなぁ」

俺は素直な感想を口にする。

「そうですね」

ルクスも同意しながら部屋を見渡した。

「……うむ、まあまあだな」

エルザが呟く。そりゃミスタリスのお嬢様からすれば、この程度では驚かないだろうよ。

「さぁみんな!自分の家だと思ってくつろいでよ!」

ディンは椅子に腰掛けながら、屈託のない笑顔を見せる。その姿に、俺たちは少しだけ肩の力を抜いた。

「まずはご飯かな……?睡眠かな?それとも~……わ・た・し……かな?」

ディンの冗談交じりの問いかけに、俺は即答した。

「――じゃあで」

その言葉に、ディンは笑顔を崩さずこう言った。

「うん!いいよ!」

え?いいのか?まったく動揺の色を見せない彼女に、俺は思わず息を飲む。  
だが、その空気を壊すようにルクスが声を上げた。

「ダメです!アスフィには私が居るので!」

「うむ!そうだぞ!私もいる!」

二人が声を揃えて否定する。その勢いにディンは首を傾げながら笑った。

「うーん、困ったね!じゃあ四人でやろっか!」

な、なななななにぃぃぃぃぃぃ!!?そんな手段があったのか!?  
俺は考えもしなかった。  予想外の提案に、頭が真っ白になる。

「俺は四人一緒でもいいぞ」

「……私はやっぱり二人っきりがいいです……」

「うむ……」

ルクスとエルザが戸惑いながらも真剣に悩む中、ディンは一切迷わず提案を押し通す。

「いいじゃん!四人でさ!皆でやろうよ!」

彼女の言葉は、あまりにも本気だった。  
そして……  

覚悟を決めたのか、ルクスとエルザが服を脱ぎ始めた。

「さ、さぁ!ディンも早く脱いで下さい!」

「そうだぞ!早く脱げ!」

ルクスとエルザが勢いよく服を脱ぎ、下着だけの状態でディンにそう呼びかける。  
その光景に、俺は言葉を失いながらも心の中で密かに歓喜していた。

――だが、そんな空気を壊すようにディンが首を傾げて言った。

「……えっと……君たちなんで服脱いでるの?」

「「…………へ?」」

ルクスとエルザは固まり、手にしていた下着を慌てて戻し始める。  
あと少しで全て見えたのに……。期待して損した。  

……あれ?何で俺は今期待していたんだ……?

「何勘違いしてるか分からないけど、ゲームだよゲーム!」

ディンのあまりにあっけらかんとした言葉に、俺はため息をつきながら肩を落とした。

「なんだゲームかよ……くそっ……」

ルクスとエルザは顔を真っ赤にしながら急いで服を着直す。  
からかおうかとも思ったが、今回はディンの言い方が紛らわしかったのが原因だ。ここは何も言わないでおいてやろう。

「じゃあね、今からやるゲームはね、私が主役だよ!」

ディンが主役のゲーム?  
まさか、また王様ゲームみたいなものかと思ったが、彼女の言葉はそれを否定した。

「ルールは簡単!私が何者かを当てるゲームだよ!」

ディンは楽しそうに説明を始める。  
ルクスとエルザも、さっきの出来事を忘れたいのか前のめりになってゲームに乗り気になっている。  

「さぁさぁ!順番にこっそり私に教えてね!間違えたらこわ~い罰ゲームだよ!」

罰ゲームという単語が引っかかった俺は思わず手を上げ質問する。

「ちょっといいか?」

「うん、アスフィだったね!どうぞ!」

「罰ゲームって具体的には何だよ?」

「罰ゲームの内容については今は教えられないよ!では先ずアスフィからね!」

ディンがにっこりと笑いながら促してくる。
内心、俺からかよと思ったが仕方ないので考える。
  
彼女の正体……か。こんな場所に住んでいることを考えれば、普通の市民ではないのは確かだ。きっと、この国の王か何かだろう。

俺はディンの耳元に近づき、小声で答えを告げた。

「ディン、お前はこの国の王だ」

「ぶっぶーーー!アスフィ不正解!罰ゲーム確定ね!」

くそっ……王じゃないのか……!?  
その後、ルクスとエルザも順に挑戦していったが――。

……
…………
………………

「――ということで正解はエルザだけだね!おめでとー!」

ディンの声に、エルザは額を拭いながらホッとした様子を見せる。

「これには私も迷った…………」

エルザの表情には、ギリギリ正解にたどり着いた安堵の色が浮かんでいた。

一方、俺とルクスは罰ゲーム確定という結果に不満を漏らす。

「くっそ」

「なんだか悔しいです」

罰ゲームとは一体何なのか……不安と警戒を胸に、俺とルクスはディンを見つめた。

「では、不正解の君たちには――」

ディンは立ち上がり、俺とルクスにゆっくりと近づく。その瞳は、さっきまでの陽気さを一切感じさせないものに変わっていた。その目はつい最近見た眼だった――

『死の体験をしてもらうよ』

その瞬間、俺とルクスの腹には緑色の槍が突き刺さった。  
予備動作すらなかった。刺さったというより、どちらかと言うと”気付けば刺さっていた”に近い。

しかし痛みはあるが、不思議と血は流れていない。  
俺が状況を理解しようとする中、エルザが腰の剣に手をかけた――だが、その動きは止められた。

『ダメだよエルザ!正解したんだから!不正解のこの子達を見届けてあげないと!』

ディンの声が静かに響く。  その言葉には何か得体の知れない力が込められていた。

「く……っそ……ルクス……」

俺はルクスに目を向けるが、彼女は既に意識を失っていた。  
次第に俺の視界も薄れていく。

ディンの声が遠くで聞こえる。

『だい……ぶ……だよ………君達……なら………乗り………る』

俺は深い闇の中へと落ちていった。
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