Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第五章 《第一部》ヒーラー 追憶篇

第62話「幸せな日々、再来」

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ここは……どこだ。

「……なぁフィーよ!聞いているのか?」

フィー……誰だそれは。俺の名前はアスフィーだ。  
知らない奴が話しかけてきている。俺を誰かと間違えているんじゃないか?

「ん~…………」

「お、起きたかフィー」

「あれ……俺眠っていたのか」

「ああ、我が花に水をやっている間にお前はそこでずっと眠っていたぞ」

「ああ……すまないなマキナ……俺も手伝うよ」

マキナ……マキナって誰だ?  
目の前の少女は、まるでずっと一緒にいたかのような親しげな態度を取っている。  
でも、彼女の名前や顔に覚えは無い。どこかで会ったことがあるのか――そんな気さえしてしまう不思議な感覚だ。

「それじゃあここからここまでフィーよ、お前がやってくれ」

「おいおい!長すぎるだろ!」

「文句を言うな、フィーならできる!がんばれ」

小さな両手でグッとガッツポーズを取る少女。  
まるで応援されているような仕草に、何も言い返せなくなる。

「はぁ……仕方ない、やるか」

「その意気だぞ、フィーよ」

花に水をやるなんて、こんな作業に一体何の意味があるんだ?  
どうせいつか枯れてしまうのに――そう思いながら、ジョウロを振り回して適当に水を掛けた。

「フィー!真面目にやれー!」

「へいへい」

怒られてしまった。  
俺にこんな面倒なことをやらせるからだよ……。

「……なぁ、お前の名前ってマキナだよな」

「何を言っている、我がマキナだ。大丈夫か?フィー」

「そ、そうだよな、悪い」

「おかしなフィーだな」

マキナと名乗る少女は首をかしげながら再び花に水をやり始めた。  
彼女の動作には慣れた様子があり、そしてどこか優しさが漂っている。

そうだよな……もう随分長く一緒にいるんだもんな。  
俺がマキナを忘れるはずがない。  
マキナがもし忘れたとしても、俺が必ず覚えてやる。そう決めたんだ――二人で。

「ここは終わったぞ」

「わかった。助かったぞフィー。では昼食にしよう」

やっと昼食か……腹が減って死にそうだ。  
花に水をやるだけでも、思ったより体力を使うんだな。

俺たちは小さな木造の家に戻る。  
緑に囲まれた穏やかな村。俺とマキナの二人だけが暮らす場所。  
自給自足で過ごすこの日々は、静かで満ち足りていた。

「何が食べたいフィーよ?」

マキナがエプロン姿でキッチンに立ちながら問いかける。  
白いエプロンが小柄な彼女の身体にぴったりと合っていて、妙に家庭的な雰囲気を感じさせる。  
その姿を見た俺は、つい悪ふざけをしたくなった。

「う~ん、そうだなぁ……マキナが作るもんならなんでも」

「なんでもというのが一番難しいんだ」

「じゃあマキナを貰っちゃおっかなぁ~」

そう言いながら、俺は後ろからマキナを抱きしめた。  
彼女の小さな肩越しに香る髪の匂いが、なぜか懐かしさを呼び起こす。

「や、やめろ……まだ昼だぞ」

「別にいいだろ、昼でも夜でもイチャイチャするのはよ」

「そういうのは……夜に取って……おけ」

「……それもそうだな!お楽しみに……ってやつだ!」

照れた様子でそっぽを向くマキナ。  
彼女はいつだって素直じゃない。でも、そんなところがたまらなく愛おしい。  

――しばらくして、マキナが料理をテーブルに運び始めた。

「――出来たぞ」

「おおーーーー!」

テーブルの上に並べられたのは、生姜焼きだった。  
懐かしい匂いが漂い、俺の記憶が刺激される。

「あれ、これって……」

「……どうだ?」

「うん!もちろん美味い!!マキナはやっぱいい女だ!」

「そ、そうか。なら良かった」

こんな平穏な日常がずっと続けばいいのにな。  
目の前で照れるマキナの顔を見ながら、俺は心の中で静かにそう思った。

「……こんな日々がずっと続けばいいのになぁ」

俺の何気ない呟きに、マキナがふと顔を上げた。

「なにを言うんだフィー。毎日続くぞ」

「ああ……そうだな!この後、夜にはお楽しみが残ってる!」

俺はマキナの目を見つめながら笑みを浮かべる。  
その言葉に、マキナは頬を染めて視線を逸らした。だが、嫌がっている様子はない。

「ベッドの上じゃマキナも乗り気だもんな!」

「フィーやめろ!!……今は……やめろ……早く食べてしまえ」

「悪い悪い、うんうん美味い!」

この静かな村での生活。  
大切な人と過ごす平穏な時間――これ以上の幸せなんて、きっとない。  
でも、なぜだろう。胸の奥でわずかに何かが引っかかる。

目の前にある光景がまるで蜃気楼のように思えて、現実感が揺らいでいく――。

「……ん……ん……」

「…………………なぁマキナ……」

「……な、なんだ?」

「これって現実なのかな」

唐突な俺の問いかけに、マキナは戸惑いを隠せなかった。

「……なぜそれを今言うのだ……その……今じゃ……ないだろう」

彼女の困惑した表情を見て、俺は何も言えなくなった。  
でも、どうしても確かめずにはいられなかった。

「……悪い、ちょっとシャワー浴びてくる」

「…………え?もう終わりか?……我はまだ……」

「そんな名残惜しそうな顔するな。また明日がある。だろ?」

「そ、そうか……それもそうだな」

マキナに背を向けながら、俺は立ち上がった。  
足元はどこか重く、心はまるで霧の中にいるようだった。

シャワーを浴びながら、自分自身に問いかける。

「……こんなに幸せでいいのだろうか……」

いい土地にいい家、そして何よりいい女――。  
それらが揃ったこの生活は、まさに理想そのものだ。  
なのに、俺はなぜか涙を流している。

「………だと言うのに俺は……なぜ泣いているんだ……」

湯気に混じる涙の理由を考えながら、俺はシャワーを止めた。  
マキナが待つ部屋へと戻ると、彼女はベッドの上で横になり、俺を見上げていた。

「…………どうしたのだフィー」

「いや……マキナはいい女だなと思ってたところだ」

「そ、そうか……なら……するか?」

「………ああ」

俺は小さく頷き、彼女の横に腰を下ろした。

***

翌朝。  
俺たちは再び花に水をやりに出かけた。  

「そこは違う!やらなくていいぞ!」

「あ、そうなのか悪い」

また怒られてしまった。  
何回目だよ……こんな簡単な作業でも、俺にはうまくいかないことがあるらしい。

「よし、フィーよ。今日は収穫をするぞ」

「芋か……?」

「ああ、収穫の時期だ。フィーは好きだろう、芋」

「……ああ……最高だね」

俺たちは畑に向かい、黙々と芋を掘り始めた。  
次々と出てくる大きな芋。その姿を見て、俺は思わず声を上げた。

「おおー!見てくれエルザ!こんな――」

言いかけて、ハッと口をつぐむ。  
目の前のマキナが、不思議そうな表情で首をかしげていた。

「うん?エルザとは誰だ」

「………いや、悪い……寝ぼけてるな俺」

「……仕方ない。芋は我に任せろ。フィーは顔でも洗ってこい」

「……ああ、そうする……悪いなマキナ」

「謝ることじゃない。我とフィーはいつまでも一緒だ。こんな事で落ち込んでいて、この先どうする」

「確かにな。ありがとう……だったな」

俺はマキナの言葉に小さく笑い、家へ向かった。  
顔を洗って、さっきの失言を頭の中から振り払おうと思った。

――だが、家の扉を開けた瞬間。  
突如として、激しい頭痛が俺を襲った。

「うっ………なんだ……」

頭を抱え、膝をつく。  
その時、不意に聞こえてきた声が頭の中に響いた。

(おい!目を覚ませ!)

誰だ……?  
この声は一体――。

(俺だ!よく聞けアスフィー、それはお前じゃない!)

何を言っている……?俺は俺だ。  
マキナとこの村で暮らしている、ただの男だ。

(違う!マキナは俺の女だ!)

……何を……言ってるんだ……?  
マキナは俺の――。

(思い出せアスフィ!お前は試されてる!)

試されてる……?誰にだよ。

創造神オーディン・・・・・・・・にだ!)

オーディン……?  
創造神オーディン……それが何だって言うんだよ……。

(お前が今見ている世界もオーディンの仕業だ!)

何を言っている……?この村も、この生活も、全部俺とマキナで作り上げたものだ!  
マキナとの平穏な日々を壊すな――!

マキナは俺の女だ!そもそもお前は誰だ……俺とマキナに何をしようとしている!

怒りに満ちた俺の問いかけに、声は静かに応えた。

(…………何もしない……何も……出来ないさ)

何も出来ない……?  
この声は一体何を――。

(いいか……お前の大事なレイラや母さん……そしてエルザ、ルクスを失いたくないのなら俺の言うことを聞け)

……レイラ……?母さん……?  
エルザ……ルクス……?  
何を……言ってるんだ……?俺の家族や仲間の名前を、どうして――。

(そうだ。何も考えず目を閉じろ。そしてこれは幻想だと認識しろ)

幻想……?  俺が見ているこの光景が、幻想だとでも……?

(そうだ。これは現実じゃない。幻想だ・・・……)

そんな馬鹿な。  
マキナとの夜も、畑も、家も……。

(全て……幻想だ……終わった事だ…………)

終わった事……?  
この幸せな生活が、もう過去のものだと言うのか――。

……それでレイラを救えるのか?

声に問いかけると、力強い返事が返ってきた。

(それはこれからのお前次第だ、アスフィ・シーネット)

俺次第……。

……分かった。  
マキナ……いや、ゼウス・マキナ。お前は俺の女だ……それは間違いない。  
だがどうやら、それは俺であってじゃないようだ。
よくわからないよな。俺だってそうだ。

マキナ……また会おう……。  俺は俺の仲間を救うことに専念する。  
もしまた会える時が来たなら、その時はもう一度――。

(愛してる)

その言葉を最後に、意識が闇の中に沈んでいった。

***

「……お!戻ってきたね!おかえり、アスフィ!」

意識を取り戻した俺の前に立っていたのは、創造神オーディンだった。  
どこかおどけた様子で、にやけながら俺を見つめている。

「オーディン……」

「おお!名前まで分かったのか!凄いね!」

「……何のつもりだ……なぜ俺にこんなモノを……」

「君が見たモノを私は知らないよ!望んだものを”魅せた”のさ!」

「俺が見たいと思っていたってことか?」

「……そうだね!」

ふざけやがって……!  
こんなのは……こんなのは俺が見たかったものじゃない!  
だけど――どうしてだ……懐かしい気持ちになったのは、どうしてだ……?

俺は思わず涙を流していた。

「ハンカチいるかい?」

「……要らねぇ……」

涙を腕で拭うと、頭に浮かんだのはただ一つの名前。

「そうだ!ルクスだっ!!ルクスは!!!?」

「ルクスならそこだよ!まだ眠っているね!」

「……どうすれば目覚める?」

「彼女が認識・・すれば、かな!」

現実じゃないと認識すれば、俺は戻ってこれた。  
ならルクスもきっと――。

だが、彼女は一人だ……俺のように誰かの声が導いてくれるわけじゃない。  
本当に戻れるのか……。

「……大丈夫だ、アスフィ。ルクスは必ず戻る」

エルザが眠るルクスの手を優しく握りしめて言った。

「……………ああ、そうだな。なんせ俺たちのお姉さんだからな」

俺はルクスのもう片方の手をしっかりと握りしめた。
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