Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第五章 《第一部》ヒーラー 追憶篇

第68話「呪いⅡ」

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神々が時計台にて集結する少し前。
俺達はディンと共に『アスガルド帝国』を観光していた。

「ここのパンがね――」

ディンは嬉しそうにパン屋を指差す。
彼女はどうやらパンが大好物らしい。
歩くたびに次々とパン屋を案内してくるが、正直、どれも似たようなものだ。

エルザとルクスも飽きた顔をしている。
パンが嫌いなわけではないが、これだけ立て続けに食べさせられると流石に限界が近いのかもしれない。

「なぁ、ディン、一つ聞きたいんだがいいか?」

俺はふと思い立ち、ずっと気になっていたことを口にする。
パンの話題をそろそろ終わらせたかった、というのも理由の一つだ。

「なんだい?なんでも聞いてよ!」

ディンは上機嫌のまま振り返る。

「エルザはどうしてルクスの幻想世界に入れたんだ?」

俺がずっと抱えていた疑問だった。
ルクスの世界に入り込む条件なんて聞いたことがない。

「それは多分、剣王の娘だからだろうね!」

即答したディンの言葉に、俺もエルザも同時に眉をひそめた。

「なぜ私がおじいちゃんの娘であるのが理由になるのだ?」

エルザの声には困惑が滲んでいる。
俺も彼女と同じ気持ちだった。剣王がどう関係するというのか。

「………私とエルブレイドは友達だからね!多分それが理由じゃないかな?」

ディンの返事は曖昧だった。
その軽い調子に俺は思わず目を細める。

「ディン。エルザの祖父……エルブレイドと何があったんだ?」

気になった俺はさらに問い詰める。
この話をうやむやにするわけにはいかないと思ってのことだった。

「それを君が知ってどうするのかな?」

ディンは笑みを浮かべながら、少し挑発的な口調で言った。

「神は人間に興味が無いはずだ。だがお前がエルブレイドを想う気持ちは本物に見えた」

俺は彼女の目を見据えて続けた。
それは、直感というより確信に近いものだった。

「……うん、それは間違っていないね。神は人間に興味を持たない者達が殆どだ。変神へんじんと呼ばれたポセイドン……アイリスくらいだよ」

ディンの返答は冷静だったが、その目には微妙な色が宿っていた。

なら、なぜエルブレイドにそこまで執着する。
俺の胸には新たな疑念が湧き上がる。

「……ま、いずれ分かる事さ!私が教えなくてもね!」

ディンは話を打ち切るように笑みを浮かべる。
またはぐらかされた……。神はいつもこうだ。気まぐれだ。

「先代の王……エルザの祖父エルブレイドは私にとても優しい人でした」

ディンが言葉を紡ぎ始める。
彼女の口調はどこか遠い記憶を辿っているような響きだった。

「でも……誰も居ない時、いつも悲しそうな顔をする人でした……それはディン、もしかしてあなたと関係あるのではないですか?」

ルクスが慎重に問いかける。
その声にはディンを追及しようという意図ではなく、単純な疑問の色が強かった。

「……そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。エルブレイドは私にとってただの……友達だよ」

ディンの言葉は一貫しているが、どこか違和感が拭えない。
彼女が本当に言いたいことを隠しているような、そんな感覚があった。

俺でさえ、それを感じ取るほどだ。
エルザのように勘の鋭い人間なら、もっと明確に気付いているだろう。

「さ、そんな事より次のパン屋に行こう!」

ディンは突然明るい声を上げ、話題を無理やり変えた。
俺たちはそれ以上踏み込むことができなかった。

「またパンかよ……」

俺は小さくため息をつきながら呟いた。

***

俺たちはディンに案内され、ほぼ全てのパン屋を見て回った。
気付けば辺りは暗くなり、夜になっていた。

「……さて、これでだいたい全てのパン屋は網羅したかな!」

ディンは満足げに言うが、俺たちは完全に疲れ切っていた。

「腹がいっぱいでもう食べられない……」

「私もです……」

「私はまだまだ食べられるぞ!……でも飽きた」

エルザの変わらぬ食欲には呆れるしかなかった。

「君達はどうする?また私の家に帰るかい?」

「いや、俺達はもう出る」

「夜なのに?」

「ああ、時間があまりないからな」

「ええ、そうですね」

「うむ」

俺たちは必要な食料をある程度確保していた。
……ほぼパンだが、旅の準備は整っていた。

「分かったよ!またね!行ってらっしゃい!」

ディンは笑顔で見送ってくれた。

「ああ、色々と世話になったディン」

「うん、いいよ!ちゃんと話してあげるんだよ?フィー・・・

(……)

なんか言ってやれよ?

(あまりコイツを信用するな)

そうかよ。

ディンに別れを告げ、俺たちは夜のうちに『アスガルド帝国』を出た。
ディンの話では、アイリスとゼウスはまだこの街にいるらしい。
結局、初日以来顔を見せることはなかったが……まあ、きっとまたどこかで会えるだろう。

***

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

エルザが前方の魔物を一刀両断する。

夜の道は魔物や魔獣が跋扈していた。
一個体は強くはないが、数が多いのが厄介だ。

『死を呼ぶ回復魔法』デスヒール……しかし、この辺は魔物や魔獣が多いな」

「そうですね……しかしあまり強くはありません」

「うむ、雑魚ばかりでつまらん」

エルザの言葉に、俺は思わず眉をひそめた。
つまらなくていいだろう。強いのが来たら逆に困るんだからな。

「……誰だ」

突然、エルザが立ち止まり、前方を見据えた。

「……エルザ・スタイリッシュ、貴様の命を頂戴しに来た」

声が響いたのは、闇の奥からだった。

「もう現れたか、『刺客』」

エルザの目が鋭く光る。

「やれるものならやってみろ」

彼女の挑発的な言葉に、俺は内心で思わずツッコミを入れる。
エルザ、そんなフラグを立てるなよ……。

闇の中から現れたのは――

『ゼウスを信仰する者』ユピテル!?」

黒いフードを深く被った怪しい者だった。
俺たちが探していた奴が、わざわざ向こうから現れてくれた。

「お前達は何者なのだ!」

エルザが問い詰めるが、フードの男は冷たい声で返す。

「エルザ・スタイリッシュ……貴様に答える義理はない」

その無礼な態度に、エルザの目がさらに鋭くなる。

「お前達になくとも私にはある。レイラを……私の友達を殺したのはお前たちだ!」

彼女の声には明らかな怒りと悲しみが混じっていた。
俺もルクスも、それ以上何も言えずに見守るしかない。

何故なら同じ気持ちだったから。

「……エルザ、気を付けてください。こいつ……かなり強いです。エルフォードさんと同じ気迫を感じます」

ルクスが緊張した面持ちで告げる。
その言葉に俺も身構える。確かに、目の前の男はただ者ではない。

「『白い悪魔』……」

男が低く呟く。やはり答える気はないらしい。

仕方ない。少し乱暴なやり方になるが……

俺は魔法を準備する。

『消失する回復魔法』ヴァニシングヒール!」

放たれた魔法が男を捉えると、その動きが鈍る。

「う……なん……だこれは」

「早く言え、でないとこのまま生命活動を停止させる」

冷徹に言い放つ俺の声に、男は苦しそうな息を吐きながら口を開いた。

「……が……アス……ィ……」

だが、それ以上の言葉を紡ぐ前に、男は気絶してしまった。

「……結局、何も吐かなかったか」

俺はため息をつきながら魔法を解除する。

「こいつらは死が怖くないのか?」

「何を考えているのか分かりませんね」

「うむ、結局無駄足だったか」

エルザが剣を収めながら呟く。

俺は男のフードを静かにめくった。
キャルロットのやり方を真似たのだが……それが間違いだった。

そこにあった顔を見た瞬間、全身が凍りついた。

「……………………父さん」
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