Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第五章 《第一部》ヒーラー 追憶篇

第72話「灰の中で蘇る記憶」

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「……少しやり過ぎましたか」

ハクが呟くその声は、まるで燃え盛る地獄の音と重なるように静かだった。
真っ黒な煙が辺りを覆い尽くし、焼け焦げた大地の臭いが鼻を刺す。
そこに、かつてのコルネット村の面影は微塵も残っていない。

辺り一帯には異臭が漂い、焦げた肉の破片と血に染まった泥が混ざり合っている。
散らばる黒いナニカ・・・は、もはや人としての形を留めていなかった。
ねじれた四肢、焼け爛れた皮膚、潰れた頭部――そこに存在しているのは、死の痕跡だけだった。

「さて、主から遊んで来いと言われましたが、あっさりと終わってしまいましたか。用は済んだ事ですし、帰るとしま……ん?」

煙の向こうから、微かな声が聞こえる。
それは消えかけた命が最後に放つ断末魔のように弱々しいものだった。

「…………………………………ル」

ハクはその方向に目を向ける。
焦げた瓦礫の隙間で、か細い声が断続的に響いていた。

「……あれを喰らってまだ生きているとは」

「………………………………ール」

その声に、わずかに興味を抱いたかのように眉を動かす。だが、すぐにその興味は失われた。

「……いえ、死んでいますね」

「………………………………………………………………ヒール」

目の前で動くかすかな影を無視し、ハクは踵を返した。

「………死人しびとに興味はありません」

そう言い捨て、ハク――龍神は去っていった。
その足音は、焼け焦げた大地を踏みしめるたびに、不吉な音を立てていた。

……

………

……………

(おい!しっかりしろ!アスフィ・シーネット!!)

燃え尽きた大地の隅で、微かな声が響き続けていた。

「………………………………ヒール」

灰をまとった少年が、瓦礫に埋もれた二つの黒いナニカ・・・に向かって、必死に魔法を唱えている。
その声には血の滲むような執念が込められていた。

(おいって!!……くそっ……無理もないか……………)

少年の指先から溢れる光は、命を繋ぎ止めようと必死にもがいているようだった。
だが、ナニカ・・・に覆われた黒焦げの肉片は、もはや反応を示すことはなかった。

「………………………………ヒール」

焼けた空気が少年の肌を焦がしていく。
その痛みに気づくことすらせず、ただひたすらに、少年は呪文を繰り返していた。

(ダメだ……こりゃもう死んでるな)

それでも手を止めない少年に、呆れるような声が響く。
それは、彼自身の心の中から聞こえてくるもう一人の存在の声だった。

(……遅かったか)

その瞬間、長い白髪をたなびかせる少女が空から舞い降りた。
灰にまみれた世界の中で、その白さだけが異質だった。

「…………………………………ヒール」

『おい、お前。これはなんだ。我に話せ』

「…………………………………ヒール」

問いかけに答えることすらなく、少年はただ回復魔法を唱え続けていた。
少女は眉を顰め、口を開く。

『はぁ……この我が無視されるとは』

「…………そりゃ仕方ないってもんだぜマキナ」

虚ろな表情を浮かべていた少年の声が、わずかに現実味を帯びた。

『………………フィーか』

燃え盛る村の中、二つの異質な存在が交錯する――。

***

『……これはどういう状況だ、フィー』

「見ての通りさ。全て終わった後の残骸だ」

フィーは肩をすくめながら言った。その表情は冗談を言う時のものではない。
目の前に広がる光景は、ただ現実そのものだった。

『少年は……?』

「まだ生きてる……いや、正確には“生かされている”ってとこだな」

『生かされている?』

「見れば分かるだろ。こいつは失ったんだ。全てを」

フィーが指差した先では、少年――アスフィが灰にまみれながら回復魔法を唱え続けていた。
だがその声は、届くはずのない亡骸に向けられたものだった。

「こいつは何もかもを守れなかったんだよ。誰一人救えなかった……いや、正確には“守らせてもらえなかった”ってとこだろうな」

『……なるほどな。それは我にも痛いほど分かる』

マキナの声が微かに震えた。
彼女もまた、似たような過去を抱えていた。

「……なぁ、マキナ」

『なんだ』

「もう一度俺と組まないか」

フィーは真剣な目でマキナを見つめる。その瞳には、覚悟と深い後悔が混ざり合っていた。彼の声は震えながらも、どこか決意に満ちた強さを持っていた。

焼け焦げた大地の中で、灰と血にまみれた姿のまま、彼の言葉だけが澄んで響く。

『……理由を聞こうか』

マキナの冷静な声がその場に重くのしかかる。
彼女の目には一切の感情が映らないようにも見えるが、心の底では何かを探るような光が宿っていた。

「この世界を終わらせる。これは俺達が始めてしまった世界だ。その責任は俺達が取るべきだ。……それに、アスフィはもう使い物にならない」

フィーの言葉は冷酷に聞こえるが、その奥底には計り知れない悲しみが渦巻いている。
焼け焦げた死体や、崩れ落ちた建物、その全てを彼が見つめるたびに、胸の奥に痛みが広がった。

マキナはその言葉を聞いてしばし沈黙する。
彼女の瞳には、微かに揺れる複雑な感情が映っていた。

『……世界、か。我には記憶がない』

「そうだな。けど力は残ってるだろ?記憶が無くても、身体が覚えてる。少なくとも俺はそうだ。俺だってずっと“自分”を失ったままだった。でも、こいつの中で生きることで、少しずつだが記憶が戻ってきた。だからこうして表に出られるようになったんだ。お前もそうだろ?」

フィーの声がかすかに震えていた。それは怒りでも恐怖でもない。彼自身が選んだ過去の罪への後悔が、彼の心を締め付けていたのだ。

マキナの目が細められる。その瞳にわずかな光が差し込んだようだった。

『……分かった。お前とならば、成し遂げられる気がする』

「そうか……よし、そうと決まれば行くぞ!マキナ!」

『ああ、終わらせに行こう、フィー』

二人は静かに立ち上がった。
足元に転がるのは、焼き尽くされた命の残骸だった。
燃え尽きた大地から立ち上る煙の中、彼らの影は、決意に満ちて揺れていた。

「……なぁ、マキナ」

『なんだ』

「覚えてるか?アレ・・を」

不意にフィーが話しかける。彼の口元には微かな笑みが浮かんでいた。

『……懐かしいな。フィー、お前まだそれを覚えていたのか』

「当たり前だろ。あれは俺たちの合図みたいなもんだ。むしろ俺は、お前がそれを覚えてることに驚きだぜ」

フィーが笑う。だがその笑みは、どこか遠い昔の懐かしさに浸るようなものだった。
かつての記憶――一緒に笑い合った日々が、一瞬だけよみがえる。

『……では、行くぞ』

「頼むぜ」

マキナが無表情のまま手を上げる。その手の動きには迷いがない。
次の瞬間、フィーの体に微弱な雷が纏わりついた。

「おいおい、加減を間違えるなよ?殺されたらまじで笑えねぇぞ」

フィーは軽口を叩きながらも、どこかで本当に怯えているように見えた。

『心配するな。我がそんなヘマをするわけがないだろう』

二人はお互いに視線を交わし、そして無言で頷いた。

そのまま、二つの影が空高く舞い上がる。
焼け落ちた村、崩れた家々、焦げた大地を見下ろしながら、彼らは進むべき道を選んだ。

「さぁ、最終決戦ラストバトルだ、マキナ」

『飛ばすぞ』

「頼む」

静かに交わされる言葉。だが、その背後にはこれまで積み重ねてきた覚悟と罪があった。
二人の影が、燃え尽きた村を背に、全ての元凶が待つ場所へと向かう。
そこには、二人が背負った世界の終焉が待ち受けている――。
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