Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第六章 《第一部》ヒーラー 絶望と反撃の覚醒篇

第80話「《ターニングポイント》」

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 暫くしばら俺とマキナの旅の思い出を見せられた。  
 なんてことも無い、ただダラダラと旅をしているそんな記憶だ。  
 あの頃の俺たちは、ただ前へと進んでいた。何か特別な目的があったわけでもない。  
 けれど、一緒にいることが当たり前で、別れるなんて考えたこともなかった。  

 そしてついにやってきた。俺とマキナのターニングポイントが。  

 それは些細ささいなことだった。俺とマキナは喧嘩をした。  
 マキナに、出会った日がいつか覚えているか?と聞かれた俺が、覚えてないと答えた。それだけだ。  
 そんなことで俺とマキナは別々で旅をすることになった。  

 ……今思えば、どうでもいいことだった。  
 出会った日がいつだったかなんて、正直どうでもいい。  
 大事なのは、今もそばにいるかどうか――そのはずだったのに。  

 当然今まで二人で旅をしていたとはいえ、ほとんど戦闘をしていたのはマキナだ。  
 俺は道中かなり苦戦した。なんせ攻撃魔法なんて使えないのだから。  
 魔物が襲ってきても、俺にできるのは逃げることか、隠れることくらい。  
 それでも、どこかで意地を張っていた。  

 マキナがいなくても、俺はやれる。  
 俺は俺のやり方で、生きていける――。  

 そう思いたかった。  

 そうして俺はしばらくの間、一人で旅をする。  
 新しい仲間を見つけては、別れ。またある時は冒険者仲間に罠にめられたこともあった。  
 孤独だった。だが、マキナの名前を出すのは癪で、あえて意地を張り続けた。  

 そんなある時だ。その日は突然やってきた。  
『神』と名乗る者が俺の前に現れたのだ。  

『やぁ、そこの君、今一人かい?』  

 妙に馴れ馴れしい声が、俺の背後から響く。  
 振り返ると、そこにいたのは――赤と青の派手な衣装に身を包み仮面を被った、いかにも怪しいピエロがそこにいた。  

「なんだお前は。俺にピエロの友達なんて居ないぞ」  

 無意識に警戒する。  
 なんだ、この胡散臭い雰囲気は。  
 冒険者として、いろんな奴に会ってきたが――こいつは違う。  
 何かが引っかかる。理由は分からないが、俺の本能が「ヤバい」と告げていた。  

『……君、この世界の者・・・・・・じゃないネェ』  

 心臓が、跳ねた。  

 俺の中の何かが警鐘を鳴らす。  
 こいつは何者だ。何を知っている?  
 ――いや、それよりも。  

 俺がこの世界の人間じゃないと、なぜ知っている?  

「………どうしてそう思う」  

『私には分かる。何せ神だから』  

「へぇ~この世界にも神って居たのか。知らなかったぜ」  

 わざと軽く流してみせるが、内心は焦っていた。  
 こいつの正体が分からない――それが、異様に不気味だった。  

 ピエロは笑い、俺に近付いてくる。  
 俺は気付かれないように、足に力を込め、すぐにでも動けるように身構えた。  

『マキナは今何をしているんだい?』  

「なぜ今マキナの話が出てくる……今は喧嘩中だ」  

 ――しまった。  

 俺は口が軽すぎたのかもしれない。  
 こいつがマキナのことを知っている理由を考えもせず、自然に答えてしまった。  
 こんな見るからに怪しい道化に、何をベラベラと……。  

『そうかい……うん、答えてくれてありがとう』  

「……あ?てかお前誰だよ。名を名乗れ。俺はフィーだ。さぁお前も名乗れ、神さんよ」  

『……俺……いえ、私の名はエーシル。この世界の統治者だよ』  

 道化はそう答えた。ニヤリと笑いながら。  

 ――この瞬間、俺は直感した。  

 コイツはヤバい。  
 関わっちゃいけない存在だ。  
 だけど――もう遅い。  

「統治者?なるほど?だからってか?」  

『この世界には私以外にも神は居る。ただ、この世界を管理しているのは私』  

 ――本能が、叫んでいた。  

 目の前の道化――エーシルは、ただの神じゃない。  
 いや、神なんてものが本当にいるなら、俺は今、その「本物」と相対しているのかもしれない。  

 逃げなきゃならない。  
 だけど、今ここで背を向けるのは――もっと悪手な気がする。  

「……へぇ~そうかい。じゃあよ、俺に攻撃魔法を使えるようにしてくれよ。神なんだろ?」  

 軽い冗談のつもりだった。  
 だけど、この一言がすべての始まりだった。  

『……いいでしょう。あなたの願い、叶えましょう。ただし、私のやり方でネェ』  

 ――俺は、この時の軽率な発言を、すごく後悔している。  

 俺だけならまだ良かった。  
 だが、俺のこの発言一つで、どれだけの人間が巻き込まれることになったか――。  

 あんな結末になるくらいなら、俺はこのまま回復魔法だけで満足しておくべきだった。  
 今更、後悔してももう遅いが。  

『……さぁ、フィー。私と盟約を結ぼう』  

 ピエロは俺に向かって、手を差し伸べた。  
 その手を取れば、俺は――もう戻れない。  

 だけど。  

「――誓う」  

 俺は、何も知らないまま、その手を取った。  
 この先に何が待っているかも知らずに。  

 その瞬間、俺の体が光り出し、辺りが、世界が眩い光に包まれた。

 気付けば俺は真っ白な空間にいた。

「……なんだ?あのピエロ野郎、何しやがった!」

 無重力のような浮遊感。足元に確かな感触はなく、どこを見渡しても白以外の色が存在しない。
 音もない。風もない。ただ、圧倒的な”無”だけが広がっていた。

『ようこそ、フィー。私の世界へ』

 背後から、あのピエロ――エーシルの声が響く。

「おい、ピエロ野郎!俺に何をした!早くここから出しやがれ!」

 反射的に振り返り、拳を握る。
 だが、その拳は空を切るだけだった。

『あなたは盟約に誓いました。あなたは攻撃魔法が欲しいと唱えた。私はあなたの願いを叶えますよ』

 エーシルは楽しそうに笑いながら、ゆっくりと俺の前に現れる。

『……では、私の願いも聞いてくれなければ困りますネェ』

「……お前の願い?」

 俺は奥歯を噛み締める。嫌な予感しかしない。
 盟約は絶対――それはゼウスから聞かされていた。
 つまり、エーシルが俺に"代償"を求めることは間違いない。

『私は……自分だけの世界が欲しいんです』

「……世界?」

 俺の眉が僅かに動く。

『今のこの世界は実質的にゼウスが支配しているようなもの。……しかし、それは仕方の無いことなのです』

 エーシルの目が細められる。
 そこには、明確な"憎しみ"が滲んでいた。

『彼女は強い。私や他の神でさえ歯が立たない程に――…………違う……違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違ーーーーうっ!!そうじゃない!そうじゃないだろぉぉぉぉぉぉ』

 突如、彼の表情が崩壊する。
 狂気がその顔を覆い、空間が軋むような異音を発し始める。

 ゾワリ、と背筋が凍る。
 直感する。こいつは――危険だ。

『私が統治者だ!私が管理者だ!ゼウス、お前じゃない!!……私には救いたいものがいます。その為ならこの世界もどうせ……フン、まぁいいです。フィー、今の君に私の苦しみは分からない。いずれ訪れる絶望を味わえば、初めて私の感情を理解できるでしょう』

「……おい、何言って――」

 俺は言葉を挟むが、エーシルは意に介さない。
 ただ狂ったように笑い、喚き散らしていた。

『……それを覆すくつがえには、あなたが必要なのです』

 なんだこの違和感は。このピエロ野郎ふざけた格好をしてはいるが、何故か同情心が湧いてくる。

「なぜ俺なんだ。俺じゃなくても良かっただろ」

『理由は三つありますネェ』

 彼は指を三本立てる。

 ・『この世界の者じゃない』こと。
 ・何かが欲しいという強い願望があること。
 ・まだ誰とも盟約を交わしていないこと。

 確かに――俺はこの三つに当てはまる。
 だが、それがどうした。

「……俺に何をする気だ」

 俺の声が低くなる。

『あなたに魔法を授けます。それは圧倒的な闇の力。神をも殺すことが出来る圧倒的な闇の力を』

 エーシルは恍惚とした表情で言う。

『これは私が授けるというよりも……この世界システムが盟約に従い与えるのですがネェ』

 ピエロの笑みが、ますます不気味に見えた。

『その代わりに――』

 彼は、にたりと笑う。

『私にこの世界を下さい』

 ……理解した。

 こいつは、俺を利用する気だ。
 俺に"神を殺せる力"を与え、ゼウス……マキナを排除させる。

 その結果、この世界を丸ごと"奪う"つもりだ。

「……嫌だと言ったら?」

 俺は睨みつける。

『もう既に盟約は始まっている。一方的な盟約はリスクを背負います。しかしあなたは誓う・・と確かに言いました。もう無駄ですネェ』

 絶望が、胃の奥から込み上げる。

 ……俺は、やっちまったのか。

 迂闊だった。あまりにも、迂闊だった。
 "盟約"がどういうものかも理解せず、ただ勢いで誓ってしまった。
 これじゃあまるで――

 詐欺に引っかかった馬鹿みたいじゃねぇか。

「フィーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 その時――聞き慣れた声が響いた。

『ちっ……ゼウス……こんなところまで……しかしもう遅いっ!盟約は既に交わされたっ!!』

「……マキナ」

 俺は振り返る。

 そこに――ゼウス・マキナがいた。

 彼女は神々しい力を解放し、白い光を纏っている。
 その顔には、今まで見たことがないほどの"怒り"が宿っていた。

『エーシル……お前、フィーになにをした』

 静かな問い。
 しかし、それが逆に"本気の怒り"であることを物語っていた。

『……私は何もしていないですよ。これから始まるのです。新たな時代が……私の時代が!』

 エーシルが狂ったように笑う。
 そして、俺とマキナを交互に見て――

『ゼウス……あなたには感謝しています。フィーが居なければ私の願いは叶わなかった………また、あなたが一緒に居れば必ず私の邪魔をしていたことでしょう。まぁそれも私には分かっていたことですが。運命はこうなるように設定されている・・・・・・・・・・・・・・・・・

 確信に満ちた声。

『あなた方が別々で行動していたのは、そのまさに運命っ!!……私はずっと機を伺っていたのです』

 俺は拳を握り締める。

「……俺のせいか」

 結局、こうなる運命だったのか。
 俺があの時、あんな軽率なことを言わなければ――。

 この結果は、変わっていたのか。

『さぁ……再構築が始まります。私の世界が……そうそう言い忘れていました。ゼウス・マキナ……お前は私の世界に必要ありません。お前は連れていきませんよ?ではサヨウナラ』

 エーシルは高笑いをしながら姿を消した。

「…………マキナすまん」

 俺は苦しげに呟く。

『フィーが謝ることじゃない。我のせいだ。今まで黙っていた。悪い。我は神……ゼウス・マキナだ。ずっと隠していた。フィーに嫌われる気がしたから』

「……バカだな」

 俺は笑う。

「俺がそんなことで、お前を嫌いになるわけないだろ。それになんとなく察しはついてた」

 マキナの目から、涙がこぼれる。

『……フィー、ごめんなさい』

 俺はマキナを強く抱きしめた。

「……俺の方こそ、ごめんな」

 そして、俺たちは口付けを交わした。

 ――世界が終わるその直前、俺たちは確かに愛を誓った。
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