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第六章 《第一部》ヒーラー 絶望と反撃の覚醒篇
第82話「『おやすみなさい』」
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龍神ハク――。
かつて俺たちを圧倒し、死を与えた存在が、今、再び俺たちの前に舞い戻ってきた。
彼女には地獄を見せられた。実際にこの場にいる二人は一度死んでいる。
エルザも例外ではない。生きていたとはいえ、もし俺が居なければ確実に死んでいた。
……許せない。
「……どけ、龍神ハク。お前を相手にしている場合じゃない」
俺は冷たく言い放つ。
しかし、彼女は微動だにしなかった。
「私はまだ負けていません」
その言葉に、俺は目を細める。
確かに、俺たちが与えた傷ではない。しかし、彼女がこれほどまでに傷つきながらも、再び俺たちの前に立ち塞がる理由は何なのか――。
この場にいる全員が疑問を抱いていた。
「……龍神ハク。これは忠告だ。今すぐ去ると言うなら、俺は見逃す。ただし、このまま俺の前に立ち塞がると言うのなら、容赦はしない」
俺の言葉に、彼女はゆっくりと首を振る。
「……何を言っているのです? まるで私を倒せるような言い方じゃありませんか?」
「…………聞こえなかったか? 俺はそう言ってるんだ」
ハクは驚いた表情を浮かべた後、ふっと笑った。
「……お前はもう私を恐れないのですね」
「当たり前だ」
恐れなど、もうとうの昔に捨てた。
俺は既に、あの道化が作り出した絶望の世界を乗り越えた。
俺には今、心強い仲間がいる。俺には、マキナとの記憶がある。俺は、もう迷わない。
「もう一度言う、どけハク」
「……嫌です」
「……何故そうまでしてエーシルとやらに仕えるのですか?」
俺の言葉とは裏腹に、ルクスが静かに問いかけた。
その口調には、敵意よりも疑問が含まれていた。
確かに、彼女の忠誠心は異常だ。エーシルなど、道化に過ぎない。
なぜ、あの悪魔のような神に仕え続ける?
そんな価値があるとも思えないのに――。
「……私はエーシルとやらを見たことがありません。しかし、ろくな者では無いという事だけは分かります」
ルクスの言葉に、龍神ハクはゆっくりと頷いた。
「………仕方ありませんね。お前達には特別に答えて差し上げますよ。どうせもう終わるのですから」
終わる……?
ハクは、ボロボロになりながらもなお、俺たちに敵意を向けている。
その理由を、語るように、静かに口を開いた。
「……龍神一族はある神によって滅ぼされました。名をゼウス」
「……ゼウス」
俺は眉をひそめる。
彼女の口から、ゼウスの名が出るとは思わなかった。
「しかし、恨んではいません。あれは戦争。私達から仕掛けたものでした」
「なぜ、お前達から仕掛けた?」
「……分かりません。いつの間にか仲間が狂った様に暴れ始め、それは伝染していきました。それをゼウス・マキナ……彼女が止めてくれた」
――止めてくれた?
俺は、その言葉の意味を考えた。
ハクの語るゼウス像は、俺が知る彼女と矛盾しているように思えた。
だが、それは単なる誤解なのか、それとも――。
「……龍神一族。元々は人々を見守る優しい龍種だと聞いたことがある。おじいちゃんからな」
エルザが口を開く。
彼女の祖父、エルブレイドの知識からの話だった。
「……ええ、そうですね」
「それならどうして……?」
「分かりませんよ。ただ、覚えているのは龍神一族はゼウス・マキナの手によって滅ぼされたという事だけ。私が目覚めた時、目の前にはエーシル様が居た。彼は私にこう言った――」
『――私に仕えれば、龍神一族を復活させてあげますよ』
「私はこれでも龍神。神の位で言えば、下になるかもしれませんが、それがウソかホントかどうかは分かるのです。彼は嘘をついていなかった」
……やはり、あの道化が絡んでいたのか。
龍神一族が狂ったように暴れ出したのも、エーシルの仕業だった可能性が高い。
全ては繋がっている。
「エーシルはこの世界の管理者だ。もしかしたらお前の一族を復活出来るという話も本当かもしれない。だが、それでも俺達の前に立ち塞がるというのなら俺は容赦はしない」
「……アスフィ」
「…………そうですね。戦いの前に私はなにを言っているのでしょうか。やはり長生きはするものではありません。すぐ楽にして差し上げます」
……やはり分かり合うことは出来なかった。
俺たちは戦闘態勢に入る。
だが、俺はエルザとルクスの前に出た。
「お前達は下がってろ」
「何を言っているのだ!」
「そうです、アスフィ! 私達も戦います!」
……相変わらず頑固な奴らだな。
だが、それがこいつらの良いところでもある。
だからこそ、俺は――。
「私に一度負けたというのにお前一人ですか?」
「ああ」
「私にはあなたの魔法は通じませんよ?それを分かって」
「――それは違う」
……そう、違う。
彼女を倒せなかったのは、既に死んでいる相手に、死の魔法を唱えたからだ。
なら、違う方法を取ればいい。
「……お前は俺に地獄を見せた。大切な者を失うという地獄をな……だが、そのおかげで俺も全てを思い出すキッカケとなった。もちろん礼なんて言わないし、手加減する気もない。ただ、お前もあの道化に踊らされた哀れな同士だ。せめて楽に殺してやる」
俺は静かに、龍神ハクに死を宣告した。
「『再び生命を吹き込む蘇生魔法』」
龍神ハクの身体が眩い光に包まれる。
ボロボロだった羽は癒え、傷ついた肌も元に戻り、彼女はかつての姿――龍神としての威厳を取り戻した。
「これは……どういう? 私の体が回復……した?もう死んでいるはずの体が癒えた……」
ハクは戸惑いながら、自分の両手を見つめる。
「癒したのではない、生き返らせたんだ」
「……なに?」
俺は淡々と告げる。
「今、お前は死龍じゃない。全盛期の龍神ハクとなったはずだ」
「……私を蘇生したと? そんな馬鹿げたことがありますか。万が一それが可能だとして、あなたは一体何をしたいのですか。バカですか?敵を自らパワーアップさせるなど」
――何をしたいって?
「まだ分からないのか? もう一度生き返らせたのなら、もう一度殺せばいい。それだけだ」
「――っ!!」
龍神ハクは驚愕と同時に自らが立たされている立場をようやく理解したようだった。
「終わりだ、龍神ハク。……何か言い残すことはあるか」
俺は龍神ハクに敬意を持って問いかけた。
彼女もまた、俺と同じあの道化に踊らされた者だ。
だからこそ、せめて痛みの無いように――。
眠らせてやる。
それが俺のできる限りの偽善ぶった同情だ。
ハクは、静かに目を閉じた。
「……ありません。……悔いも後悔も。皆さん、おやすみなさい」
「…………ああ、おやすみ」
それ以上の言葉を俺とハクは交わすことはなかった。
「『死を呼ぶ回復魔法』」
俺が詠唱すると同時に、龍神ハクの身体は徐々に崩れ始めた。
肉体が塵となり、風に溶け、ただの大地へと還っていく。
彼女は――安らかな眠りについた。
もう二度と目覚めることのない、永遠の眠りに。
……
………
…………
「………さて、ルクス、エルザ――」
「――反撃開始だ」
「はい」
「うむ」
俺たちは龍神の弔いを終え、再び足を動かす。
向かうはエーシル。
全ての元凶の元へと。
かつて俺たちを圧倒し、死を与えた存在が、今、再び俺たちの前に舞い戻ってきた。
彼女には地獄を見せられた。実際にこの場にいる二人は一度死んでいる。
エルザも例外ではない。生きていたとはいえ、もし俺が居なければ確実に死んでいた。
……許せない。
「……どけ、龍神ハク。お前を相手にしている場合じゃない」
俺は冷たく言い放つ。
しかし、彼女は微動だにしなかった。
「私はまだ負けていません」
その言葉に、俺は目を細める。
確かに、俺たちが与えた傷ではない。しかし、彼女がこれほどまでに傷つきながらも、再び俺たちの前に立ち塞がる理由は何なのか――。
この場にいる全員が疑問を抱いていた。
「……龍神ハク。これは忠告だ。今すぐ去ると言うなら、俺は見逃す。ただし、このまま俺の前に立ち塞がると言うのなら、容赦はしない」
俺の言葉に、彼女はゆっくりと首を振る。
「……何を言っているのです? まるで私を倒せるような言い方じゃありませんか?」
「…………聞こえなかったか? 俺はそう言ってるんだ」
ハクは驚いた表情を浮かべた後、ふっと笑った。
「……お前はもう私を恐れないのですね」
「当たり前だ」
恐れなど、もうとうの昔に捨てた。
俺は既に、あの道化が作り出した絶望の世界を乗り越えた。
俺には今、心強い仲間がいる。俺には、マキナとの記憶がある。俺は、もう迷わない。
「もう一度言う、どけハク」
「……嫌です」
「……何故そうまでしてエーシルとやらに仕えるのですか?」
俺の言葉とは裏腹に、ルクスが静かに問いかけた。
その口調には、敵意よりも疑問が含まれていた。
確かに、彼女の忠誠心は異常だ。エーシルなど、道化に過ぎない。
なぜ、あの悪魔のような神に仕え続ける?
そんな価値があるとも思えないのに――。
「……私はエーシルとやらを見たことがありません。しかし、ろくな者では無いという事だけは分かります」
ルクスの言葉に、龍神ハクはゆっくりと頷いた。
「………仕方ありませんね。お前達には特別に答えて差し上げますよ。どうせもう終わるのですから」
終わる……?
ハクは、ボロボロになりながらもなお、俺たちに敵意を向けている。
その理由を、語るように、静かに口を開いた。
「……龍神一族はある神によって滅ぼされました。名をゼウス」
「……ゼウス」
俺は眉をひそめる。
彼女の口から、ゼウスの名が出るとは思わなかった。
「しかし、恨んではいません。あれは戦争。私達から仕掛けたものでした」
「なぜ、お前達から仕掛けた?」
「……分かりません。いつの間にか仲間が狂った様に暴れ始め、それは伝染していきました。それをゼウス・マキナ……彼女が止めてくれた」
――止めてくれた?
俺は、その言葉の意味を考えた。
ハクの語るゼウス像は、俺が知る彼女と矛盾しているように思えた。
だが、それは単なる誤解なのか、それとも――。
「……龍神一族。元々は人々を見守る優しい龍種だと聞いたことがある。おじいちゃんからな」
エルザが口を開く。
彼女の祖父、エルブレイドの知識からの話だった。
「……ええ、そうですね」
「それならどうして……?」
「分かりませんよ。ただ、覚えているのは龍神一族はゼウス・マキナの手によって滅ぼされたという事だけ。私が目覚めた時、目の前にはエーシル様が居た。彼は私にこう言った――」
『――私に仕えれば、龍神一族を復活させてあげますよ』
「私はこれでも龍神。神の位で言えば、下になるかもしれませんが、それがウソかホントかどうかは分かるのです。彼は嘘をついていなかった」
……やはり、あの道化が絡んでいたのか。
龍神一族が狂ったように暴れ出したのも、エーシルの仕業だった可能性が高い。
全ては繋がっている。
「エーシルはこの世界の管理者だ。もしかしたらお前の一族を復活出来るという話も本当かもしれない。だが、それでも俺達の前に立ち塞がるというのなら俺は容赦はしない」
「……アスフィ」
「…………そうですね。戦いの前に私はなにを言っているのでしょうか。やはり長生きはするものではありません。すぐ楽にして差し上げます」
……やはり分かり合うことは出来なかった。
俺たちは戦闘態勢に入る。
だが、俺はエルザとルクスの前に出た。
「お前達は下がってろ」
「何を言っているのだ!」
「そうです、アスフィ! 私達も戦います!」
……相変わらず頑固な奴らだな。
だが、それがこいつらの良いところでもある。
だからこそ、俺は――。
「私に一度負けたというのにお前一人ですか?」
「ああ」
「私にはあなたの魔法は通じませんよ?それを分かって」
「――それは違う」
……そう、違う。
彼女を倒せなかったのは、既に死んでいる相手に、死の魔法を唱えたからだ。
なら、違う方法を取ればいい。
「……お前は俺に地獄を見せた。大切な者を失うという地獄をな……だが、そのおかげで俺も全てを思い出すキッカケとなった。もちろん礼なんて言わないし、手加減する気もない。ただ、お前もあの道化に踊らされた哀れな同士だ。せめて楽に殺してやる」
俺は静かに、龍神ハクに死を宣告した。
「『再び生命を吹き込む蘇生魔法』」
龍神ハクの身体が眩い光に包まれる。
ボロボロだった羽は癒え、傷ついた肌も元に戻り、彼女はかつての姿――龍神としての威厳を取り戻した。
「これは……どういう? 私の体が回復……した?もう死んでいるはずの体が癒えた……」
ハクは戸惑いながら、自分の両手を見つめる。
「癒したのではない、生き返らせたんだ」
「……なに?」
俺は淡々と告げる。
「今、お前は死龍じゃない。全盛期の龍神ハクとなったはずだ」
「……私を蘇生したと? そんな馬鹿げたことがありますか。万が一それが可能だとして、あなたは一体何をしたいのですか。バカですか?敵を自らパワーアップさせるなど」
――何をしたいって?
「まだ分からないのか? もう一度生き返らせたのなら、もう一度殺せばいい。それだけだ」
「――っ!!」
龍神ハクは驚愕と同時に自らが立たされている立場をようやく理解したようだった。
「終わりだ、龍神ハク。……何か言い残すことはあるか」
俺は龍神ハクに敬意を持って問いかけた。
彼女もまた、俺と同じあの道化に踊らされた者だ。
だからこそ、せめて痛みの無いように――。
眠らせてやる。
それが俺のできる限りの偽善ぶった同情だ。
ハクは、静かに目を閉じた。
「……ありません。……悔いも後悔も。皆さん、おやすみなさい」
「…………ああ、おやすみ」
それ以上の言葉を俺とハクは交わすことはなかった。
「『死を呼ぶ回復魔法』」
俺が詠唱すると同時に、龍神ハクの身体は徐々に崩れ始めた。
肉体が塵となり、風に溶け、ただの大地へと還っていく。
彼女は――安らかな眠りについた。
もう二度と目覚めることのない、永遠の眠りに。
……
………
…………
「………さて、ルクス、エルザ――」
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「うむ」
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