Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第六章 《第一部》ヒーラー 絶望と反撃の覚醒篇

第83話「 『龍神セルロスフォカロ 』」

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とは言ったものの――。

エーシルどころか、マキナたちに追いつける足がない。

彼女たち『神』は飛んでいる……対して俺たちは徒歩。

この圧倒的な移動手段の違いを前にして、俺たちができることは限られている。

「……追いつけないな、これ」

「う、うむ」

「そう……ですね」

エルザとルクスの声も、どこか焦りを孕んでいる。

このままでは、俺たちが到着する頃には全てが終わっている可能性すらある。

それを考えると、ここで無策に走るのは愚策だろう。

キャルロットから借りた『虎車』は既に逃げてしまった。

俺たちの足では、到底間に合わない。

――何か手はないか。

俺は考えた。

「……あ、そうだ」

「どうしたのだ、アスフィ?」

思い出した。

再構築される前の世界で、マキナに色んな魔法を教えてもらったことを。

もちろん俺は使えなかった。だが、魔法の呪文に憧れて、使えもしない呪文をマキナに懇願し、いくつも教えてもらっていた。

マキナも使えない、俺も使えない。

人間には扱えない、そんな魔法――。

……ただし一人・・だけ。

恐らく人間でありながらこの魔法を使える者がいる。

「――ルクス。お前だ」

「………はい?」

ルクスは目をぱちくりさせた。

俺がマキナから教わった魔法、それはかつて龍神が使っていたとされる魔法だった。

龍神ハクが言っていた『戦争』……おそらく、あの戦争で使われた魔法だ。

龍神ハクが人間の姿になれるように――。

”人間”が”龍神”になれる魔法。

だが、この魔法は攻撃魔法でも防御魔法でもない。

支援魔法でも回復魔法でもない。

どのカテゴリーにも当てはまらない、異質の魔法。

それ故に、人間には扱うことができない――ただ一人を除いて。

「ルクス、今から俺が教える『呪文』を復唱してくれ」

ルクス・セルロスフォカロ。

彼女には『あらゆる魔法を扱える』という才能がある。

だからと言って必ずしも扱えるとは限らない。

……だが、俺はルクスを信じている。

「いいかルクス、呪文はこうだ……」

……
………
…………

「……なんか長いですね……覚えるのが得意な私が言うのもなんですが、よくこんなの覚えることが出来ましたね、アスフィ」

「男はカッコイイものは大体覚えてるもんだ」

「……そうなんですか……分かりました。もう覚えました」

流石の記憶力だ。

「いきます!」と意気込むルクス。

彼女は手を上に掲げ、詠唱を始める。

「我らは勇ましくも気高き『龍神』――」

「神の名に恥ぬ気高き『龍神』である――」

「Είμαστεοιπιοδυνατοίδράκοι.Τοαίματουθεούτουδράκουκατοικείσεαυτότοσώμα.Οκόσμοςμεθέλειτώρα.Τώρααπελευθερώστετο,τοπερήφανοπνεύματουΘεούΔράκουπουκατοικείμέσαμου!――」

……。

「………な、なぁ、アスフィ……ルクスのやつ、頭おかしくなったのか?」

「大丈夫だ、俺の記憶が正しければこんな感じだった………たぶん」

ルクスの詠唱を改めて聞いて、俺も少し不安になってきた。

……確かに意味が分からないよな、これ。

教えた俺が言うのも何だが、まるでジュゲムのフルネームでも覚えるかのような気分だ。

✳︎✳︎✳︎

……どうやら、唱え終わったようだ。

ルクスの体が光を放ち、サイズがどんどん大きくなっていく。

「お、おい!?アスフィ!?これは何だ!!ルクスがどんどんデカくなっていくぞ!!?」

「……ああ、実際に見るのは初めてだが、すげぇな……」

ルクスの成長は止まらない。

やがて光が収まり、そこにあったのは――。

「…………これがルクス……なのか?」

「ああ、名付けて!龍神セルロスフォカロ……ってとこだな!」

「龍神セルロスフォカロ……か。うむ、いいな!ルクスが消えてしまったのは残念だが、これはこれでいい!」

白く輝く龍の鱗。

銀色の角に、綺麗な赤い目。

その頭からは、ルクスのトレードマークとも言える白髪がなびく。

まさに神々しく、美しい白龍。

「あの……これが私ですか?」

「ああ、成功したみたいで何よりだ」

ルクスは自分の体を首を長くして見ていた。

本当に首が長い……。

俺はルクスの鱗を撫でる。

ザラザラとしているが、柔らかさもある。

「なぁ、この場合ルクスの胸はどこになるんだ?」

「………アスフィが今撫でている所です」

「なるほど……無いな」

「……泣きますよ?」

まぁ元々大きい訳ではなかったが……何て言ったらブレスでも吐かれそうだ。
だが、小さいのがむしろルクスのいいとこだろう。

エルザは腕を組み、頷く。

「ああ、それにしても美しいな!!」

龍神セルロスフォカロとなったルクスを見て、エルザは感動の声を上げる。

「よし……!龍神セルロスフォカロ!俺達を背に乗せてくれ!」

「……あの、その呼び方ちょっと恥ずかしいんですけど」

「何を言う龍神セルロスフォカロ!お前は今、美しく輝いているぞ!さぁ私たちをその背に乗せていってくれ!」

「………泣きますよ?」

さて、冗談はこれくらいにして、エーシルを追うとするか。

――早くしないと、そろそろ本当にルクスが泣きそうだ。

「では……飛びますっ!」

その言葉と同時に、ルクスの巨大な両翼が力強く羽ばたいた。

俺たちの体がふわりと浮き、重力から解放される感覚が広がる。

夜の静寂の中、龍の翼が風を切る音が響く。

それに合わせるように、ルクスの身体が光を帯びているように見えた。

まるで星空の中に、一筋の流星が駆け抜けるかのように――。

「うぉ!!すげー!ルクスすげーぞ!」

「うむ!これは感動だ!」

俺とエルザは興奮を抑えきれず、はしゃぎまくっていた。

龍の背に乗るなんて、そうそうできる経験じゃない。

この壮大な視界、この浮遊感……どれを取っても、俺の知る冒険のどれとも違う。

だが――

「ゆくのだ!龍神セルロスフォカロ!!!」

「そうだ!いけー!龍神セルロスフォ――」

「――うわぁぁぁ!!?」

突然、ルクスが宙で一回転した。

俺たちはあわや振り落とされそうになる。

「わわわかった!もう言わない!言わないからやめてくれルクス!落ちる、ホントに落ちるからぁぁぁぁぁ!」

俺は必死に背中の鱗にしがみつく。

「………アスフィ……私はなんだか吐きそうだ……」

ふと隣を見れば、エルザの顔が青ざめていた。

――これはマズイ。

「おい!ルクス!エルザが吐くぞ!いいのか!?お前の綺麗な背にエルザのゲロが降りかかるぞ!?」

「……っ!!」

さすがに嫌だったのか、ルクスの動きが止まった。

俺も安堵の息をつく。

「……ふぅ、助か――」

「オェェェェェェェェェェェェェッ!!!」

「助かってねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

龍の背から、大量のゲロを撒き散らすエルザ。

飛び散る白銀の光――もとい、汚れた軌跡。

その夜、星が瞬く美しい夜空に――

汚い虹が掛かった。
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