Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第六章 《第一部》ヒーラー 絶望と反撃の覚醒篇

第85.5話「世界を欺く者」 “Climactic Battle: Part 2”

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 これで終わった――そう思った。

 アイリスがいなければ、俺たちは間違いなく敗北していた。
 水中での魔法封じ。絶妙なタイミングでの援護。
 アイリスの存在がなければ、エーシルに勝つことはできなかった。

 アイリスの姿を見つけると、すぐさま駆け寄り、彼女の無事を確かめるオーディン。
 俺も、マキナに謝らないといけない。
 ずっと守れなかった……ずっと、俺は――。

「はやくマキナのところへ――」

 その時だった。

『……駄目ですよポセイドン。油断し過ぎです』

「――!?」

『セレクション。神力じんりょく回収』

 エーシルの手が、アイリスに向けられる。
 その瞬間、アイリスは苦しみ始めた。

「……生きて……いたのですか…………エーシ………ル」

 アイリスの声が震える。
 彼女の体から何かが抜き取られるように、肌の色が徐々に薄れていく。
 道化は、ポセイドンとしての彼女の力を、奪い去った。

『あなたが来ることは警戒していましたからネェ。事前にこっそり防御魔法を唱えておきました』

 ――防御魔法?

「……なんのために……?」

 嫌な予感がした。
 俺の背筋に、氷のような冷たい感覚が走る。

『おや??フィー。どうやら分かっていない様ですネェ……では種明かしでもしましょうか』

 エーシルの声が、どこまでも嘲笑を含んでいる。
 道化は、まるでショーのオープニングを飾るかのように、大袈裟に腕を広げると、ゆっくりと語り始めた。

『なに、簡単なことです。防御魔法でフィーの魔法を無力化した……それだけのこと。後は水中で死んだフリをする……』

「……死んだフリをする必要はないハズだ」

 俺の疑念を投げかけると、エーシルは不敵に笑った。

『水の中に囚われて気付きました。やはり思っていた通り、水の中では魔法を唱えられないと……あのままポセイドンが水を解除しなければ、私はそのまま死んでいたでしょうネェ。ですが、私はあなたが解除すると確信していました、ポセイドン』

「……」

『あなたは、倒れた敵を確実に殺すような神ではない。『変神』と呼ばれたあなたは他の神とは違った思考を持っている。そしてフィー。あなたも自分の力に自惚れている。私にはそれが誰よりも分かる……故に、あなた達が私が死んだと”勘違い”することは目に見えていた』

「……お前に俺の何が分かる」

『分かるとも。お互い大切なものを失った』

「ざけんな……お前なんかに分かる訳がねえ!!」

 ――しまった。

 ルクスが息を呑むのがわかった。
 アイリスが、悔しそうに唇を噛むのが見えた。
 エルザが鞘に手を置いているのが分かった。

 エーシルは、ここまでのやりとりを全て計算ずくで俺たちを欺いたのだ。

(こいつはどこまで俺達のことを知っている……本当になんなんだこいつは)

『おかげで、私は死ぬことなくこうして生き残り、ポセイドンの神力を回収することができたのです。あなたたちの判断ミスが、こうして新たな絶望を招いたのですよ』

「くそが……」

 これでアイリスも戦えない……。
 いや、ポセイドンの力を奪われたということは――。

「アイリス……」

 俺が声をかけると、彼女は申し訳なさそうに顔を伏せた。

「……ごめんなさい……わたくし、もう……」

 その言葉が意味するものは明白だった。

 アイリスは、もう二度と神の力を使えない。
 いや、もはや彼女は”神ですらない”。

 エーシルは、神を人間の位へと堕としたのだ。

『しかし今回ばかりは私も驚きましたよ。まさか一番厄介なのがポセイドンだったとは……しかしもう、神の力は使えない。残念ですネェッ!』

 最後の希望が――潰えた。

 もう、頼れる力はない。
 あと何がある?
 俺の手札は、あと何が残っている?

 ――思い出せ。

 ――前の世界で、俺は何を成してきた?

『では、今度こそ終わりです。フィー……さようなら、出来損ない』

「まだだ……俺は、回復魔法は全て極めた筈だろ。もう誰も失うな!」

 思い出せ……!
 思い出せ…………!!
 思い出せっ!!!

「思い出せぇえええええええっ」

 俺が今までやって来たこと――
 全てを思い出せ!!!!

「………………あった」

『……なんですって?』

 俺は口元を歪め、ゆっくりとエーシルを見据えた。

「……思い出したよ。おまえを倒す方法を」

『ほう………そんなものが?』

 エーシルは嘲るように笑う。

『唱えた瞬間、返り討ちにして差しあげましょう』

 ――出来るもんならやってみろ。

「もう誰も失いはしない。もう誰も傷つけさせやしない。お前は俺の手で終わらせる」

 これは、大きなリスクを伴う賭けだ。
 だが、今の俺に他の選択肢はない。……すまない、マキナ。

(みんな、また会おう)

 俺は自分の頭に右手をあて、静かに詠唱を始めた。

時間回復魔法タイム・ヒール

『――反射魔法リフレクション

 エーシルは迷わず魔法を唱える。
 だが――何も起こらない。

(残念だったな)

 これは攻撃魔法なんかじゃない。
 他者ではなく、俺自身に使う魔法だ。

 つまり――反射なんて、無意味だ。
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