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前世を越えてみせましょう
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私はどうやら異世界転生したらしい。
幼い頃から私には、のどかで閉鎖的な小さな集落で変わりばえの無い平和な毎日を送っていた記憶があった。今の美しい大きな部屋で侍女に世話される生活とはかけ離れた、家族のように育った皆と土臭い狭い家に身を寄せ合って食事を分け合って暮らす日々。私にはそれがとても懐かしかった。
やがて、成長した私はそれが前世の記憶というものだと理解した。なぜなら、その記憶の最後に私は集落の皆と一緒に殺されていたから。
友好的な関係を築いていたと思っていた隣の部族が、ある日突然襲って来たのだ。
戦闘能力に長けた彼らにろくな抵抗も出来ず、私たちは全滅した。
最後に覚えているのは、刃物を首に当てられて引き裂かれた事。
幼い頃は何度も夢に見て飛び起きた。
私は貴族令嬢として転生した。
おかげで、二度と前世のような事が起きないよう知識と教養を貪るように吸収する事が出来た。
我が身を守るには我が家を守る事。そう思って学ぶと、我が領の至らぬ点が見え、父と改善を協議し合った。
豊かな家なら、誰かに力ずくで蹂躙される心配は無くなるはずだから。
貴族学園に通う年齢になっても私の興味は勉学だけなので、外見は目立たぬよう地味にしていた。
そんな私が唯一興味を持ったのは、食堂の裏手にある鶏小屋だった。食堂で使う卵を入手するための養鶏なのだろう。大きな鶏小屋の中で鶏たちが好き勝手に休み、寛ぎ、たまには怒ったりケンカしているのを見るのは癒された。
貴族令嬢・令息にとっては臭い家畜のいる不浄の場なので、誰も近付く事が無い私だけのまったりスポットだ。
そんなある日の昼休み、いつものように鶏小屋へ向かっていたら尋常ならぬ鶏の鳴き声と面白がる男たちの声が聞こえてきた。
慌てて駆けつけると、三人の男子生徒が一匹の鶏を小屋から出して弄っていた。鶏が必死で逃げた先に先回りして鶏を蹴っては大笑いしている。鶏が方向を変えても、他の一人が笑いながら先回りする。
その姿に、私は前世の私の最期を思い出した。激しい怒りが全身から湧き上がる。
自分の所に逃げて来た鶏を思いっきり蹴飛ばそうとした男の肩をトントンと叩くと、振り返った男の顔に勢いよく握り拳をめり込ませた。
見事に男の体が吹っ飛んで、唖然とする友人たちの前に滑っていった。
私は、前世の記憶から来る刃物への恐怖を乗り越えようと体を鍛えた。とことん鍛えた。
先生には「筋がいい」と褒められた。当然だ。「殺さなければ殺される」を実体験した私は、とどめを刺す事に躊躇いが無い。ああ、躊躇いなどしない……。
友人が女生徒に殴り飛ばされた事に驚愕していた残り二人の表情が恐怖に歪むのはすぐだった。
私の前世の名は「クリスマスのチキン」。集落の皆が同じ名だった。
クリスマスが何なのか、もう知る術は無い。
でも決して私は忘れない。クリスマスの前に人間にされたあの残虐なジェノサイドを。
地に伏して呻く三人を見下ろして、ほんの、ほんの少しだけスッキリした私は校舎へ戻ったのだった。
幼い頃から私には、のどかで閉鎖的な小さな集落で変わりばえの無い平和な毎日を送っていた記憶があった。今の美しい大きな部屋で侍女に世話される生活とはかけ離れた、家族のように育った皆と土臭い狭い家に身を寄せ合って食事を分け合って暮らす日々。私にはそれがとても懐かしかった。
やがて、成長した私はそれが前世の記憶というものだと理解した。なぜなら、その記憶の最後に私は集落の皆と一緒に殺されていたから。
友好的な関係を築いていたと思っていた隣の部族が、ある日突然襲って来たのだ。
戦闘能力に長けた彼らにろくな抵抗も出来ず、私たちは全滅した。
最後に覚えているのは、刃物を首に当てられて引き裂かれた事。
幼い頃は何度も夢に見て飛び起きた。
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おかげで、二度と前世のような事が起きないよう知識と教養を貪るように吸収する事が出来た。
我が身を守るには我が家を守る事。そう思って学ぶと、我が領の至らぬ点が見え、父と改善を協議し合った。
豊かな家なら、誰かに力ずくで蹂躙される心配は無くなるはずだから。
貴族学園に通う年齢になっても私の興味は勉学だけなので、外見は目立たぬよう地味にしていた。
そんな私が唯一興味を持ったのは、食堂の裏手にある鶏小屋だった。食堂で使う卵を入手するための養鶏なのだろう。大きな鶏小屋の中で鶏たちが好き勝手に休み、寛ぎ、たまには怒ったりケンカしているのを見るのは癒された。
貴族令嬢・令息にとっては臭い家畜のいる不浄の場なので、誰も近付く事が無い私だけのまったりスポットだ。
そんなある日の昼休み、いつものように鶏小屋へ向かっていたら尋常ならぬ鶏の鳴き声と面白がる男たちの声が聞こえてきた。
慌てて駆けつけると、三人の男子生徒が一匹の鶏を小屋から出して弄っていた。鶏が必死で逃げた先に先回りして鶏を蹴っては大笑いしている。鶏が方向を変えても、他の一人が笑いながら先回りする。
その姿に、私は前世の私の最期を思い出した。激しい怒りが全身から湧き上がる。
自分の所に逃げて来た鶏を思いっきり蹴飛ばそうとした男の肩をトントンと叩くと、振り返った男の顔に勢いよく握り拳をめり込ませた。
見事に男の体が吹っ飛んで、唖然とする友人たちの前に滑っていった。
私は、前世の記憶から来る刃物への恐怖を乗り越えようと体を鍛えた。とことん鍛えた。
先生には「筋がいい」と褒められた。当然だ。「殺さなければ殺される」を実体験した私は、とどめを刺す事に躊躇いが無い。ああ、躊躇いなどしない……。
友人が女生徒に殴り飛ばされた事に驚愕していた残り二人の表情が恐怖に歪むのはすぐだった。
私の前世の名は「クリスマスのチキン」。集落の皆が同じ名だった。
クリスマスが何なのか、もう知る術は無い。
でも決して私は忘れない。クリスマスの前に人間にされたあの残虐なジェノサイドを。
地に伏して呻く三人を見下ろして、ほんの、ほんの少しだけスッキリした私は校舎へ戻ったのだった。
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