婚約破棄された傷心令嬢です。

あんど もあ

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後編

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 中庭のベンチに一人で座っていると、二人がやって来ました。
 なんと言って切り出したらいいのか分からない二人に、こちらから
「婚約破棄でよろしいですわね?」
と、言うと、嬉しそうなカタリナとは対照的に、フランツはしょんぼりと
「うん……。ごめんね。コレットには十分な賠償をするように、父上に伝えるよ」
と、言いました。あー……、私が彼に惚れてて、とても傷ついたと信じてますわね。でも、ここでは否定しないでおきます。
「では、我が家への婿入りの話も無しと言う事で」
「うん。僕はカタリナと結婚するよ」

 私たちの会話に、顔色が悪くなるカタリナ様。
「な……、何よ婿入りって」
「私の家に婿に入って、子爵になる私を支えてくれる予定でしたの」
「何で? フランツは伯爵家の長男でしょう?」
「伯爵家は、優秀な次男が継ぎますわ。フランツ様、話してませんでしたの?」
「うん、聞かれてないから。弟はすごい優秀なんだ!」
「………」

「それでは、ごきげんよう。フランツ様」
 私は、少し寂しそうに言います。
「今までありがとう。君にも良いご縁があるように祈ってるよ」

 

 上機嫌なフランツが、無言になったカタリナを連れて去って行くのを見送りながら、笑いが堪え切れない。
 ついに、婚約破棄できた!

 私とフランツの婚約は、フランツの無能さをカバーするためのものだ。
 家柄が良く、経済的にも容姿にも恵まれて生まれたフランツは、周りの人たちの溢れんばかりの愛情に包まれて育ったため、人の悪意や害意というものにとても疎い。というか、そんな物は物語の悪役にしか無いと思っているのでは。伯爵家当主になどなったら、食い物にされるのが誰の目にも明らかだった。

 そんな男が出来る仕事は…と周りが考えついたのが「爵位を持った女性の夫」だ。頭脳はそこそこ有るし、あの容姿が社交用になら使えるのではないかと。
 後は妻に手綱を握ってもらおう、と他力本願この上ない。
 そして、姉妹しかいない子爵家を見つけ、婚約を結んだ。もうこれで王立学園に入学しても女性問題の心配は無いだろうと、さぞ安心しただろう。実際、私という婚約者の存在を知ってもアプローチするような女は、マデリーヌとカタリナだけだった。

 しかし、当の本人がせっかくのお膳立てをあっさり捨ててしまった。まあ、彼には愛情もお金も与えられて当たり前なのだから、ありがたみ何て分からないのだろう。
 さて、伯爵家はどう出るか……。もう関係無いからどうでもいいけど。

 新しい愛を掴んだと思っているフランツは、カタリナが政略結婚の相手が嫌で自分に近づいたなんて、夢にも思っていないだろう。彼女が政略結婚用に引き取られた庶子という事すら、調べていないに違いない。

 政略結婚の相手より条件のいい男性を見つけて婚約破棄してもらおうと思ってたカタリナは、思い通りに行くのやら。
 私から婚約者を奪った女と知れ渡るでしょうから、他の男性に乗り換えるのはもう無理でしょうし……。



 二人の姿が見えなくなったのを見計らって、
「あーあ、やっと片付いた!」
と伸びをする。

「はしたないぞ」
 振り返らないでも分かる声が聞こえた。幼いころから一緒に野原を転げまわって遊んだ、領地が隣の男爵家の三男だ。今は私と同じく王立学園の寮に入っている。
「誰のせいだと思ってるの。『コレットが子爵になるなら、僕がお婿さんになって守ってあげる』なんて言ってたくせに、いつまでたっても結婚の申し込みをしないからフランツなんかを押し付けられちゃったじゃない」
 振り返って、彼を睨みつける。
「お父様に言っても、フランツの実家と繋がりができるメリットがあるから、『嫌なら、自分の力で相手有責で婚約破棄しろ』だもの。仕方ないから、『フランツ様は私のものよ』演技でマデリーヌとカタリナを必死にあおったわよ。あ~気持ち悪かった」

 彼、レオンの表情が慌てて変わる。
「好きじゃなかったのか?」
「好きなわけ無いでしょ。あんな顔だけの男」
「いや……、だって……、いきなり女らしくなるし、俺なんかじゃ……」
「それはお父様の命令。『実際に領地を運営してるのは海千山千の男たちなんだから、男勝りの女が命令するより、か弱い令嬢がお願いした方がスムーズに行く』ってことで、子爵になるには令嬢らしくならないと認めてくれないのよ」
 猫かぶりは頑張って続けないと。どうやら本性が変わる日は来なさそうだから。

「で? レオンはどうするの?」
 ベンチから立ち上がり、レオンに向き合う。
「え?」
「もたもたしてると、あっと言う間に他の縁談が届くわよ。いいの?」
 とても令嬢らしからぬ振る舞いだが、のんびりレオンの気持ちが向くのを待ってられない。思いっきり圧をかける。

「い、今すぐ父様に手紙を書くから!」
 レオンが走り去った。


 
 そして、私はゆっくり教室に向かった。
 婚約者を奪われた傷心の令嬢として、ハンカチなどを握りしめて。
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