真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ

文字の大きさ
2 / 4

政略結婚と思っていたので

しおりを挟む
 彼女に気付いたのは、貴族学院の入学式だった。

 護衛から
「新入生に気を付けてください」
と言われて周りを見渡すと、誰の事を言っているのか一目瞭然な程に私を見ている少女がいた。
 薄茶色の髪をしたその子は、「信じられない」と言わんばかりに目を見開いて、口が半分開いている。腹に一物ある人間の態度では無いとは思うが、念のため警戒しよう。

 その後、すぐに複数の友人から報告が入った。
「マジ王子様とお姫様見た!」「信じられない! まるで生きる宝石、動くお人形!」「お二人が尊い…。尊過ぎて後光がまぶしい!」「貴族学院に入って良かった~!」と、大騒ぎしている女生徒がいると。

 “お二人”とは、私の婚約者のクラウディアも含んでいるのだろう。
 私とクラウディアは、護衛の関係でいつも一緒にいる。私たちが動く時は、私たちと二人の護衛とクラウディアの侍女という大所帯だ。いくら望んでも、あの少女が近づくすべは無いだろう。



 私は、国に五家ある公爵家の次男・アンドリュー。容姿も頭脳もそこそこ優秀らしく、大人の受けがいい子供だった。
 八歳になったころ、親が他の公爵夫妻と娘が来週我が家に来るから仲良くしなさい、と言った。
 政略結婚のための見合いだな。まあ貴族なら仕方ないか。と思った私はかなりこまっしゃくれた子供ガキだった。

 やって来たクラウディア嬢は、本当に可愛らしかった。
 兄様としか遊んだ事が無い私はかなりギクシャクしていたが、親たちは二人の婚約を決めて、私は喜んだ。両家の共同事業を確実なものにするための、クラウディアの意思は関係無い政略だと分かっていても。

 時は流れ、15歳となった私たちは貴族学院に入学した。二人の仲は、「気が合う友人」くらいまでは進展した…と思う。



 そんな私たちを熱い目で見ているのが、くだんの薄茶色の髪のレイチェル・レーモン男爵令嬢。入学式からしばらく経つが、近付こうという気配は無く、ひたすら見ている。
 私が階段でクラウディアをエスコートしている時など、嬉しさが満ち溢れた目でプルプルしているが大丈夫なのか。

 ある日、昼食後の食堂でいつものように給仕の持って来た紅茶にクラウディアがレモンを入れて渡してくれると、窓の外が騒がしくなった。
 どうやら、中庭に先日の統一テストの成績優秀者が張り出されたようだ。
 ガヤガヤとした声の中で「レイチェルが好きなお二人の名前が無いんじゃない?」と言うのが聞こえた。
 「お二人」が自分たちの事だと気付くが、その口ぶりは私たちをおとしめてるのでは無く、単にレイチェルをからかっているのが分かる。

「当ったり前じゃない!」
 彼女は怒ったようだ。
「成績優秀者は卒業時に城の文官試験の推薦状が貰えるのよ! 試験を受ける必要の無いお二人が順位に割り込むような事をするわけ無いじゃない!」

 ……驚いた。

 卒業時に、未だにコネと家柄がものを言う文官試験の推薦状が成績優秀者十名に渡される。私のせいで推薦状が必要な者が11位にならぬ様、答案用紙に空欄を作ったのだが、まさか推察されるとは。
 驚いてるクラウディアの様子から、彼女も同じ事をしていたようだ。本当に私たちは気が合う。

 数日後、外を歩いていると突然「失礼します!」と護衛に突き飛ばされ、たたらを踏んでると“ドサッ!!”と重い音がした。

 見ると、向かい合った護衛が組み合わせた手の中に薄茶色の髪の女生徒が納まっていた。頭の上のざわつく声を見上げると、二階のベランダからたくさんの人が心配そうに見下ろしている。察するに、彼女はベランダから身を乗り出し過ぎて落っこちたのだな。
 二階の人たちに「彼女は無事だ」と声をかけていると、彼女はあわてて護衛の腕の中から降りていた。

「ありがとうございました!!」
 彼女は護衛の二人に膝に頭が付きそうなほど頭を下げた。
「いつかこうなりそうだと思ってましたから」
と言う護衛に
「クラウディア様でも落っこちることがあるんですねぇ…」
と返し、吹き出しそうになった護衛が息を詰まらせる。

「無事で良かったわ。危ない事はなさらないでね」
「はいっ! ……あのっ、すみません、実はいつもお二人を見ていました!」
 いや、学院中が知ってますけど?
「お二人は絵本から飛び出した王子様とお姫様みたいで……。でも、見てるうちに本当は逆で、王子様とお姫様がお二人みたいだったんじゃないかと思えるようになったんです」

 はい?

「どんな小さな段差でもすごく嬉しそうにエスコートしてたり、紅茶に給仕がレモンを入れてしまってしょんぼりしてたり、きっと王子様とお姫様もこんな風だったんだなって。だから見ていると………」
 彼女の声が遠くなる。心臓がはくはくして何も言えない。クラウディアの顔が赤い。きっと私も同じ顔をしているのだろう。

 政略結婚……だよね?

「ねえ、レイチェルさん」
「はい!」
「私たちと、お友達になってくださらない?」


 やはり私たちは気が合う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

甘そうな話は甘くない

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」 言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。 「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」 「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」 先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。 彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。 だけど顔は普通。 10人に1人くらいは見かける顔である。 そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。 前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。 そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。 「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」 彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。 (漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう) この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。  カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

処理中です...