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さようなら婚約者
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はあ、確かに私はアンジュですが…。どちら様でしょう? もうじき故郷に帰る馬車が出発するので、ご用件はお早めにお願いします。
町の警備隊の方? こんな乗り合い馬車の乗り場に何のご用ですか? ……ニールセン伯爵家からのご依頼?
……はい、確かに私はニールセン家のキース様と五年間婚約してましたが、昨日解消になりましたので久しぶりに家に帰るところです。
私の家はここから馬車で丸一日かかる田舎なものですから、この五年はニールセン家にお世話になって淑女になるための勉強をさせていただいてましたの。
キース様ですか? 昨日婚約破棄を言い渡されてから、お会いしてませんわ。
「これで二度とお前の顔を見ないですむ!」
と、言われましたし、田舎に帰る馬車の出発は早いので昨日のうちに使用人の皆に挨拶は済ませておきましたから。今日は、早朝に起きて執事に見送られてニールセン家を出て来ました。もともと何の交流も無い婚約者でしたし。
はい、私との婚約は先日お亡くなりになったニールセン伯爵夫妻がお決めになった事なので、キース様はそれはもうご不満だったのです。他にお気に入りの女性もいらっしゃいますわ。
そんなキース様に、私も好意が待てなくて……。
なので、ニールセンご夫妻が事故でお亡くなりになって葬儀も終わった昨日、婚約破棄を申し渡されたのです。
私との婚約は私の実家への援助が条件ですので、もう実家に援助しないと言うのならと、私も婚約破棄を受け入れました。
「金目当ての卑しい女!」
と、言われましたが、私はこの五年で弟たちを学校に行かせられたので満足してますのよ。
キース様の婚約者としていただいたドレスや宝石は全部置いてきましたわ。田舎を出た時と同じ、この古いボストンバッグ一つで帰ります。
あの、それでご用件は? キース様に何て依頼されましたの?
……キース様が急病? 毒を盛られたのかもしれない?
すみません、もう関係の無い方なので何と言えばいいのか……。私に戻って看病しろと言う事でしょうか。
あ! もしかして私が毒を盛ったと思われているのでしょうか?
キース様らしい……、いえ、何でもありません。
困りましたわ。もうじき馬車の出る時間なのに、どうやってやっていない事を証明すれば良いのか……。
私の荷物を調べます? お仕事ですから遠慮なくどうぞ。
調べなくてよろしいのですか?
え? 故郷に帰って構わない?
ありがとうございます。それでは失礼いたします。
馬車の外はすっかり田舎の夕景。五年ぶりの帰郷だが、変わっていないようだ。
私は田舎の貧乏男爵家の長女として生まれた。下に、弟が二人と妹が一人。ほとんど平民と違わない生活だが、幸せだった。
五年前、私の前にニールセン夫妻が現れた。息子のキースが不治の病になり、医者に治せないのならスキルで何とか出来る人はいないかと探したら、私を見つけたのだと。
スキルの情報は教会がまとめているが、極秘のはずだ。どれほどお金をばら撒いたのだろう。
私のスキル。それは自分の寿命を他の人に分け与えられる事。
彼らは、私のスキルでキース様に私の命を与えるよう命じた。
その代わり、多額の報酬を約束するからと。
実家は田舎なので、弟たちが都市部の学校に行くには学費の他に寮費や生活費など諸々のお金が必要なのだ。報酬を貰えれば、費用の心配無く学校に行かせてあげられる。
そのためなら、私の寿命が半分になるくらい構わない。
そこまでは覚悟してニールセン家に行ったのだが、彼らは更に私とキース様の婚約を命じた。
そんな事をしなくても、ちゃんと命は与え続けると言っても
「もしお前が結婚したら、お前の夫や子供に何かあった時、そちらを優先するかもしれない」
と、聞いてもらえない。
なぜ私の人生まで縛られなくてはならないのかと絶望しているのに、病気が完治して、私を「金目当て」と信じてるキース様からの心無い言葉や態度で、地獄のような日々が始まった。
だから、下の弟が卒業したらこの家から逃げてやろうと思っていた。
その時キース様に全てを打ち明け、もし謝罪し態度を改めるのなら、命は送り続ける事にしてもいい、なんて。
現実は、そんな温情を嘲笑うかのように、キース様から一方的に婚約破棄され、家を追い出される事で終わったけど。
怒ってすぐに命の繋がりを断ち切ったげんども、故郷に帰るまで待った方が面倒が無かったな。
まあ、キース様を調べても毒なんか出て来ねくて、「不幸な急死」になるからいっか。
ふふ、言葉遣いが田舎娘に戻ってる。
ただいま、ふるさと。帰ってきたよ。
町の警備隊の方? こんな乗り合い馬車の乗り場に何のご用ですか? ……ニールセン伯爵家からのご依頼?
……はい、確かに私はニールセン家のキース様と五年間婚約してましたが、昨日解消になりましたので久しぶりに家に帰るところです。
私の家はここから馬車で丸一日かかる田舎なものですから、この五年はニールセン家にお世話になって淑女になるための勉強をさせていただいてましたの。
キース様ですか? 昨日婚約破棄を言い渡されてから、お会いしてませんわ。
「これで二度とお前の顔を見ないですむ!」
と、言われましたし、田舎に帰る馬車の出発は早いので昨日のうちに使用人の皆に挨拶は済ませておきましたから。今日は、早朝に起きて執事に見送られてニールセン家を出て来ました。もともと何の交流も無い婚約者でしたし。
はい、私との婚約は先日お亡くなりになったニールセン伯爵夫妻がお決めになった事なので、キース様はそれはもうご不満だったのです。他にお気に入りの女性もいらっしゃいますわ。
そんなキース様に、私も好意が待てなくて……。
なので、ニールセンご夫妻が事故でお亡くなりになって葬儀も終わった昨日、婚約破棄を申し渡されたのです。
私との婚約は私の実家への援助が条件ですので、もう実家に援助しないと言うのならと、私も婚約破棄を受け入れました。
「金目当ての卑しい女!」
と、言われましたが、私はこの五年で弟たちを学校に行かせられたので満足してますのよ。
キース様の婚約者としていただいたドレスや宝石は全部置いてきましたわ。田舎を出た時と同じ、この古いボストンバッグ一つで帰ります。
あの、それでご用件は? キース様に何て依頼されましたの?
……キース様が急病? 毒を盛られたのかもしれない?
すみません、もう関係の無い方なので何と言えばいいのか……。私に戻って看病しろと言う事でしょうか。
あ! もしかして私が毒を盛ったと思われているのでしょうか?
キース様らしい……、いえ、何でもありません。
困りましたわ。もうじき馬車の出る時間なのに、どうやってやっていない事を証明すれば良いのか……。
私の荷物を調べます? お仕事ですから遠慮なくどうぞ。
調べなくてよろしいのですか?
え? 故郷に帰って構わない?
ありがとうございます。それでは失礼いたします。
馬車の外はすっかり田舎の夕景。五年ぶりの帰郷だが、変わっていないようだ。
私は田舎の貧乏男爵家の長女として生まれた。下に、弟が二人と妹が一人。ほとんど平民と違わない生活だが、幸せだった。
五年前、私の前にニールセン夫妻が現れた。息子のキースが不治の病になり、医者に治せないのならスキルで何とか出来る人はいないかと探したら、私を見つけたのだと。
スキルの情報は教会がまとめているが、極秘のはずだ。どれほどお金をばら撒いたのだろう。
私のスキル。それは自分の寿命を他の人に分け与えられる事。
彼らは、私のスキルでキース様に私の命を与えるよう命じた。
その代わり、多額の報酬を約束するからと。
実家は田舎なので、弟たちが都市部の学校に行くには学費の他に寮費や生活費など諸々のお金が必要なのだ。報酬を貰えれば、費用の心配無く学校に行かせてあげられる。
そのためなら、私の寿命が半分になるくらい構わない。
そこまでは覚悟してニールセン家に行ったのだが、彼らは更に私とキース様の婚約を命じた。
そんな事をしなくても、ちゃんと命は与え続けると言っても
「もしお前が結婚したら、お前の夫や子供に何かあった時、そちらを優先するかもしれない」
と、聞いてもらえない。
なぜ私の人生まで縛られなくてはならないのかと絶望しているのに、病気が完治して、私を「金目当て」と信じてるキース様からの心無い言葉や態度で、地獄のような日々が始まった。
だから、下の弟が卒業したらこの家から逃げてやろうと思っていた。
その時キース様に全てを打ち明け、もし謝罪し態度を改めるのなら、命は送り続ける事にしてもいい、なんて。
現実は、そんな温情を嘲笑うかのように、キース様から一方的に婚約破棄され、家を追い出される事で終わったけど。
怒ってすぐに命の繋がりを断ち切ったげんども、故郷に帰るまで待った方が面倒が無かったな。
まあ、キース様を調べても毒なんか出て来ねくて、「不幸な急死」になるからいっか。
ふふ、言葉遣いが田舎娘に戻ってる。
ただいま、ふるさと。帰ってきたよ。
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