1 / 1
婚約破棄のお相手は
しおりを挟む
「ロッティナ! 貴様とは今日で婚約破棄だ!」
王立学園の卒業パーティーで、王太子ギリアムの声が響いた。
ギリアムの横には、神聖力が発現して聖女候補となったクラリッサ・ハートリー伯爵令嬢。
パーティーに合わせて豪奢な服装をしている二人に対して、ロッティナは学園の制服だった。
なぜなら、ロッティナは平民。幼い頃に色々と言った事が悉く的中し、予言だ、聖女に違いないと王宮に連れてこられ、ギリアムの婚約者となったのだ。
ロッティナの両親は国から金をもらって大喜びでどこかへ行った。それ以来、二度と会っていない。
「神聖力も発現せず、聖女でもないのに、よくぞ今まで図々しく私の婚約者を名乗れたものだ!」
「私が望んだ事ではありません。国王陛下がお決めになった事です」
「軽々しく父上の名を出すな!」
「そうは言われましても、私に選択肢はございませんので」
たとえギリアムに嫌われようと、王宮の皆に「平民風情が」と侮られても。
更には平民たちには「上手い事やりやがって」と罵られている。
「王太子である私の婚約者として恥ずかしくないよう華やかに美しくなる努力もせず、勉学と執務ばかりしおって」
「私が望んだ事ではありません。殿下が『結婚してやるのだから、私の分も学習して仕事を覚えろ』と言ったから勉学に励んだまでです」
ロッティナは優秀だった。教えられた事はすぐに飲み込み、学園では最優秀生徒の地位を譲らず、複雑な執務も難なくこなした。だから、国王はロッティナに神聖力が現れなくても婚約を解消しなかったのだろう。周りは「平民が王子の横にいるために必死だな」と笑っていたが。
「それを言うなら、殿下は私のために何か報いましたか? 殿下には何が出来ると言うのでしょう」
「私には尊い血が流れている!」
「血が何の役に立つのです? その血で畑を耕せますか? 人を癒せるのですか?」
「無礼な!」
「ギリアム殿下の能力が私より劣っているという事は事実です」
「お黙りなさい! お前などいなくても私がお支えします! この国は私たちがいれば安泰です!」
たまらず参戦したクラリッサに、ロッティナが冷たく言葉を放つ。
「無能な男を支えた私に感謝も無しですか。神聖力を授かってから、随分と尊大になりましたのね。以前はメイドにも気を遣う優しい令嬢でいらしたのに」
クラリッサの顔が怒りで赤くなる。
「ならば尊い血も無い、聖女でも無い下賤な平民の貴様に何の価値がある!」
「……何故お前が私の価値を問う。私はおまえのために存在しているのでは無い」
突然ロッティナの口調が変わった。
怒りで言い返そうとするギリアムに、ロッティナは穏やかに告げる。
「なあ、私はお前たちの言うとおりにしていただけだ。私からは何も求めていない。お前たちは勝手に私の婚約を決めて、勝手に婚約破棄した。私は、学べと言われて学び、働けと言われて働いた。その結果がこの茶番だ。ほとほと愛想が尽き果てた。もう、お前たちを見捨ててもいいだろう?」
一瞬、ロッティナの威圧に負けを感じたギリアムだが負けずに言い返す。
「な、何が『見捨てる』だ。偉そうに。一体何様のつもりだ」
「神だ」
「神ときたか! 平民から生まれたくせに」
笑いが止まらないギリアムに、ロッティナは問いかける。
「おまえは、神がどこで生まれるか知っているのか?」
「そ、そりゃあ天上にある神の国だろう」
「神の国にいて人の世をどうやって知るというのだ。この国が存在する価値があるか無いか、どうやって判断するというのだ」
「うるさい! 貴様如きが神を語るな! この国からさっさと出ていけ!」
ロッティナは笑顔になった。
「安心しろ。そのつもりだ」
ロッティナの体が徐々に浮き上がって行く。
「これをもって、この国から神は消える。神の与えし恩寵も失われると思え」
言葉を失った皆の前で、高く昇ったロッティナは最後にこう言い残して陽炎のように消えた。
次の瞬間、会場に飾られていた花々が一斉に枯れ、石造りの壁に亀裂が入る。
会場にいた人々は悲鳴をあげるが、間もなくそれが国中で起こっていると知るのだった。
微睡んでいた慈母神は、子供が自分の身体に戻ったのを感じた。
どこかの国が見限られたようだ。
まあ、どうせ人間は同じような国をまた作るだろう。
神の去りしその地が人間が住めない荒地と化したとしても、鳥や獣が、いや虫でも植物でも生きているのならいい。
自分から見れば、命はどれも同じなのだから。
王立学園の卒業パーティーで、王太子ギリアムの声が響いた。
ギリアムの横には、神聖力が発現して聖女候補となったクラリッサ・ハートリー伯爵令嬢。
パーティーに合わせて豪奢な服装をしている二人に対して、ロッティナは学園の制服だった。
なぜなら、ロッティナは平民。幼い頃に色々と言った事が悉く的中し、予言だ、聖女に違いないと王宮に連れてこられ、ギリアムの婚約者となったのだ。
ロッティナの両親は国から金をもらって大喜びでどこかへ行った。それ以来、二度と会っていない。
「神聖力も発現せず、聖女でもないのに、よくぞ今まで図々しく私の婚約者を名乗れたものだ!」
「私が望んだ事ではありません。国王陛下がお決めになった事です」
「軽々しく父上の名を出すな!」
「そうは言われましても、私に選択肢はございませんので」
たとえギリアムに嫌われようと、王宮の皆に「平民風情が」と侮られても。
更には平民たちには「上手い事やりやがって」と罵られている。
「王太子である私の婚約者として恥ずかしくないよう華やかに美しくなる努力もせず、勉学と執務ばかりしおって」
「私が望んだ事ではありません。殿下が『結婚してやるのだから、私の分も学習して仕事を覚えろ』と言ったから勉学に励んだまでです」
ロッティナは優秀だった。教えられた事はすぐに飲み込み、学園では最優秀生徒の地位を譲らず、複雑な執務も難なくこなした。だから、国王はロッティナに神聖力が現れなくても婚約を解消しなかったのだろう。周りは「平民が王子の横にいるために必死だな」と笑っていたが。
「それを言うなら、殿下は私のために何か報いましたか? 殿下には何が出来ると言うのでしょう」
「私には尊い血が流れている!」
「血が何の役に立つのです? その血で畑を耕せますか? 人を癒せるのですか?」
「無礼な!」
「ギリアム殿下の能力が私より劣っているという事は事実です」
「お黙りなさい! お前などいなくても私がお支えします! この国は私たちがいれば安泰です!」
たまらず参戦したクラリッサに、ロッティナが冷たく言葉を放つ。
「無能な男を支えた私に感謝も無しですか。神聖力を授かってから、随分と尊大になりましたのね。以前はメイドにも気を遣う優しい令嬢でいらしたのに」
クラリッサの顔が怒りで赤くなる。
「ならば尊い血も無い、聖女でも無い下賤な平民の貴様に何の価値がある!」
「……何故お前が私の価値を問う。私はおまえのために存在しているのでは無い」
突然ロッティナの口調が変わった。
怒りで言い返そうとするギリアムに、ロッティナは穏やかに告げる。
「なあ、私はお前たちの言うとおりにしていただけだ。私からは何も求めていない。お前たちは勝手に私の婚約を決めて、勝手に婚約破棄した。私は、学べと言われて学び、働けと言われて働いた。その結果がこの茶番だ。ほとほと愛想が尽き果てた。もう、お前たちを見捨ててもいいだろう?」
一瞬、ロッティナの威圧に負けを感じたギリアムだが負けずに言い返す。
「な、何が『見捨てる』だ。偉そうに。一体何様のつもりだ」
「神だ」
「神ときたか! 平民から生まれたくせに」
笑いが止まらないギリアムに、ロッティナは問いかける。
「おまえは、神がどこで生まれるか知っているのか?」
「そ、そりゃあ天上にある神の国だろう」
「神の国にいて人の世をどうやって知るというのだ。この国が存在する価値があるか無いか、どうやって判断するというのだ」
「うるさい! 貴様如きが神を語るな! この国からさっさと出ていけ!」
ロッティナは笑顔になった。
「安心しろ。そのつもりだ」
ロッティナの体が徐々に浮き上がって行く。
「これをもって、この国から神は消える。神の与えし恩寵も失われると思え」
言葉を失った皆の前で、高く昇ったロッティナは最後にこう言い残して陽炎のように消えた。
次の瞬間、会場に飾られていた花々が一斉に枯れ、石造りの壁に亀裂が入る。
会場にいた人々は悲鳴をあげるが、間もなくそれが国中で起こっていると知るのだった。
微睡んでいた慈母神は、子供が自分の身体に戻ったのを感じた。
どこかの国が見限られたようだ。
まあ、どうせ人間は同じような国をまた作るだろう。
神の去りしその地が人間が住めない荒地と化したとしても、鳥や獣が、いや虫でも植物でも生きているのならいい。
自分から見れば、命はどれも同じなのだから。
336
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。
この作品は
「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。
どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。
愛を騙るな
篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」
王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。
「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」
途端、王妃の嘲る笑い声が響く。
「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる