婚約破棄のお相手は

あんど もあ

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婚約破棄のお相手は

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「ロッティナ! 貴様とは今日で婚約破棄だ!」

 王立学園の卒業パーティーで、王太子ギリアムの声が響いた。
 ギリアムの横には、神聖力が発現して聖女候補となったクラリッサ・ハートリー伯爵令嬢。

 パーティーに合わせて豪奢な服装をしている二人に対して、ロッティナは学園の制服だった。
 なぜなら、ロッティナは平民。幼い頃に色々と言った事がことごとく的中し、予言だ、聖女に違いないと王宮に連れてこられ、ギリアムの婚約者となったのだ。
 ロッティナの両親は国から金をもらって大喜びでどこかへ行った。それ以来、二度と会っていない。

「神聖力も発現せず、聖女でもないのに、よくぞ今まで図々しく私の婚約者を名乗れたものだ!」
「私が望んだ事ではありません。国王陛下がお決めになった事です」
「軽々しく父上の名を出すな!」
「そうは言われましても、私に選択肢はございませんので」
 たとえギリアムに嫌われようと、王宮の皆に「平民風情が」とあなどられても。
 更には平民たちには「上手い事やりやがって」とののしられている。

「王太子である私の婚約者として恥ずかしくないよう華やかに美しくなる努力もせず、勉学と執務ばかりしおって」
「私が望んだ事ではありません。殿下が『結婚してやるのだから、私の分も学習して仕事を覚えろ』と言ったから勉学に励んだまでです」

 ロッティナは優秀だった。教えられた事はすぐに飲み込み、学園では最優秀生徒の地位を譲らず、複雑な執務も難なくこなした。だから、国王はロッティナに神聖力が現れなくても婚約を解消しなかったのだろう。周りは「平民が王子の横にいるために必死だな」と笑っていたが。

「それを言うなら、殿下は私のために何か報いましたか? 殿下には何が出来ると言うのでしょう」
「私には尊い血が流れている!」
「血が何の役に立つのです? その血で畑を耕せますか? 人を癒せるのですか?」
「無礼な!」
「ギリアム殿下の能力が私より劣っているという事は事実です」
「お黙りなさい! お前などいなくても私がお支えします! この国は私たちがいれば安泰です!」
 たまらず参戦したクラリッサに、ロッティナが冷たく言葉を放つ。
「無能な男を支えた私に感謝も無しですか。神聖力を授かってから、随分と尊大になりましたのね。以前はメイドにも気を遣う優しい令嬢でいらしたのに」
 クラリッサの顔が怒りで赤くなる。

「ならば尊い血も無い、聖女でも無い下賤な平民の貴様に何の価値がある!」
「……何故お前が私の価値を問う。私はおまえのために存在しているのでは無い」
 突然ロッティナの口調が変わった。

 怒りで言い返そうとするギリアムに、ロッティナは穏やかに告げる。
「なあ、私はお前たちの言うとおりにしていただけだ。私からは何も求めていない。お前たちは勝手に私の婚約を決めて、勝手に婚約破棄した。私は、学べと言われて学び、働けと言われて働いた。その結果がこの茶番だ。ほとほと愛想が尽き果てた。もう、お前たちを見捨ててもいいだろう?」

  一瞬、ロッティナの威圧に負けを感じたギリアムだが負けずに言い返す。
「な、何が『見捨てる』だ。偉そうに。一体何様のつもりだ」
「神だ」
「神ときたか! 平民から生まれたくせに」
 笑いが止まらないギリアムに、ロッティナは問いかける。
「おまえは、神がどこで生まれるか知っているのか?」
「そ、そりゃあ天上にある神の国だろう」
「神の国にいて人の世をどうやって知るというのだ。この国が存在する価値があるか無いか、どうやって判断するというのだ」
「うるさい! 貴様如きが神を語るな! この国からさっさと出ていけ!」

 ロッティナは笑顔になった。
「安心しろ。そのつもりだ」



 ロッティナの体が徐々に浮き上がって行く。
「これをもって、この国から神は消える。神の与えし恩寵も失われると思え」
 言葉を失った皆の前で、高く昇ったロッティナは最後にこう言い残して陽炎のように消えた。


 次の瞬間、会場に飾られていた花々が一斉に枯れ、石造りの壁に亀裂が入る。
 会場にいた人々は悲鳴をあげるが、間もなくそれが国中で起こっていると知るのだった。




 微睡まどろんでいた慈母神は、子供が自分の身体に戻ったのを感じた。
 どこかの国が見限られたようだ。
 まあ、どうせ人間は同じような国をまた作るだろう。


 神の去りしその地が人間が住めない荒地と化したとしても、鳥や獣が、いや虫でも植物でも生きているのならいい。



 自分から見れば、命はどれも同じなのだから。
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