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第4夜 天岩戸の天照
第2話 再会
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「退院していいですか?」
「駄目です」
──次の日。
「退院していいですか?」
「駄目です」
──そのまた次の日。
「駄目ですまだです完治してません」
「まだ何も言ってない!!」
「顔でわかります」
緋鞠を担当する看護師の茶木は素っ気なく返す。
目が覚めてから三日。怪我もほぼ治っているのだが、外に出してもらえない。散歩と称して出歩こうとすれば、どこからともなく茶木が現れる。
一階に下りようとすれば背後から。
窓から出ようとすればカーテンの中から。
女子トイレの窓から出ようとすれば外の壁から。
無表情でそこかしこから飛び出してくる。
……無表情で。
感情をまったく表に出してこないので、正直ホラー映画の貞○よりも怖い。まだあっちのほうが感情がありそう。
それに銀狼は茶木を支持し、治るまで入院、と言い続けるのである。
確かに心配をかけてしまったわけだし、聞いてあげたいのは山々だが──。
(病院の白さが苦手なんだよね……)
徹底的に消毒された真っ白な世界。
何物の浸入も許さない、といった雰囲気が苦手だった。
お手洗いに行ってくると言って一人と一匹を巻いて、休憩室の椅子に腰かける。
緋鞠は重たいため息を吐くと、窓から見える風景を眺めた。
柔らかな日差しに、楽しそうな小鳥たちのさえずり。
(……いいな。私も外に行きたい)
病院名が入ったスリッパを見つめていると、バタバタと廊下を走る音がする。
ずいぶん元気な人がいるなあ……。看護師に注意され、謝っている声が緋鞠の耳に届いて、思わずくすりと笑ってしまった。
「緋鞠ちゃん!!」
鈴のような声。
ぱっと顔をあげると、きれいな桜色の瞳と目が交わった。
「琴音ちゃん?」
名前を呼ぶと、琴音が緋鞠にぶつかるように抱きついてくる。
「よかった……! 緋鞠ちゃんが生きててくれて……本当によかった!!」
わぁぁぁん! 緋鞠にしがみつく琴音の背中を何度も撫でた。
琴音の髪を結ぶリボンが少しほどけていた。よっぽど急いで来てくれたのだろう。
茶木に話は聞いていたものの、本人に実際会うのとは違う。
緋鞠の胸が熱くなった。
琴音との再会が嬉しくて、沈んでいた気分もどこかに飛んでいってしまった。
「琴音ちゃんも無事でよかった」
ようやく泣き止んだ琴音は、鼻をすすりながら目にハンカチを当てた。
「ごめんなさい。大泣きしてしまうなんて……」
「ううん。心配してくれてありがとう。お見舞いに来てくれる人が銀狼以外にいなかったから、すごく嬉しい」
「銀狼?」
涙が残っている桜色の瞳が、興味を示したように輝いた。
今まで誰かに銀狼の話をしたことはなかったかもしれない。
緋鞠の周囲には、霊を見ることができる人はいなかった。いたとしても、孤児院院長の八雲か師匠くらいだ。
友人と呼べる存在に銀狼のことを話すのは初めてで、緋鞠の顔も自然と笑顔になる。
「私の契約している妖怪なんだ。銀色の毛並みがとっても綺麗な狼なの。優しいけど、ちょっと過保護すぎるんだよね」
授業参観の日にちが弟たちとかぶり、八雲が来れなかったときには、人型に化けて来てくれたこともあった。
琴音が笑顔で聞いてくれるものだから、つい話過ぎてしまう。
琴音との楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、診察の時間になってしまった。どよーんと落ち込む緋鞠の姿に、琴音が心配そうにたずねる。
「大丈夫ですか?」
「いつもならとっくに治ってる怪我なのに、全然治らなくて……」
窓から差し込む日の光が、右手の傷痕を照らす。
身体は元気なのに、四鬼に刺された傷だけが、未だに塞がらない。
やはり、四鬼は特異なのだろうか。
「自転車で転んで足の骨を折ったときも、有刺鉄線でざっくり切ったときも、天ぷら油で火傷を負っても、だいたい三日くらいで治るのに~」
琴音の顔がさあっと青くなった。
「普通三日で治りませんよ!? それにこの大怪我ならなおさらです!!」
「そうなの……?」
「そうです! だから、頑張って治療に専念しましょう?」
「ううう、病院苦手なのに~」
このまま治らなかったらどうしよう~、めそめそする緋鞠の姿に、琴音は悲しくなった。
彼女のおかげで自分は助かったのだ。少しでも力になりたい。
琴音はショルダーバックから一冊の手帖を取り出した。陰陽師の世界で臆病な彼女が生きるための、たった一つの方法。
「緋鞠ちゃん」
「?」
顔をあげた緋鞠の前に、ピンクの迷彩柄のキャスケットをかぶり、理知的なメガネをかけた琴音がいた。
手帖を手にした彼女は、まるで探偵のような風情だ。
「お悩みの貴女に、とっておきの情報をあげちゃいます!」
「駄目です」
──次の日。
「退院していいですか?」
「駄目です」
──そのまた次の日。
「駄目ですまだです完治してません」
「まだ何も言ってない!!」
「顔でわかります」
緋鞠を担当する看護師の茶木は素っ気なく返す。
目が覚めてから三日。怪我もほぼ治っているのだが、外に出してもらえない。散歩と称して出歩こうとすれば、どこからともなく茶木が現れる。
一階に下りようとすれば背後から。
窓から出ようとすればカーテンの中から。
女子トイレの窓から出ようとすれば外の壁から。
無表情でそこかしこから飛び出してくる。
……無表情で。
感情をまったく表に出してこないので、正直ホラー映画の貞○よりも怖い。まだあっちのほうが感情がありそう。
それに銀狼は茶木を支持し、治るまで入院、と言い続けるのである。
確かに心配をかけてしまったわけだし、聞いてあげたいのは山々だが──。
(病院の白さが苦手なんだよね……)
徹底的に消毒された真っ白な世界。
何物の浸入も許さない、といった雰囲気が苦手だった。
お手洗いに行ってくると言って一人と一匹を巻いて、休憩室の椅子に腰かける。
緋鞠は重たいため息を吐くと、窓から見える風景を眺めた。
柔らかな日差しに、楽しそうな小鳥たちのさえずり。
(……いいな。私も外に行きたい)
病院名が入ったスリッパを見つめていると、バタバタと廊下を走る音がする。
ずいぶん元気な人がいるなあ……。看護師に注意され、謝っている声が緋鞠の耳に届いて、思わずくすりと笑ってしまった。
「緋鞠ちゃん!!」
鈴のような声。
ぱっと顔をあげると、きれいな桜色の瞳と目が交わった。
「琴音ちゃん?」
名前を呼ぶと、琴音が緋鞠にぶつかるように抱きついてくる。
「よかった……! 緋鞠ちゃんが生きててくれて……本当によかった!!」
わぁぁぁん! 緋鞠にしがみつく琴音の背中を何度も撫でた。
琴音の髪を結ぶリボンが少しほどけていた。よっぽど急いで来てくれたのだろう。
茶木に話は聞いていたものの、本人に実際会うのとは違う。
緋鞠の胸が熱くなった。
琴音との再会が嬉しくて、沈んでいた気分もどこかに飛んでいってしまった。
「琴音ちゃんも無事でよかった」
ようやく泣き止んだ琴音は、鼻をすすりながら目にハンカチを当てた。
「ごめんなさい。大泣きしてしまうなんて……」
「ううん。心配してくれてありがとう。お見舞いに来てくれる人が銀狼以外にいなかったから、すごく嬉しい」
「銀狼?」
涙が残っている桜色の瞳が、興味を示したように輝いた。
今まで誰かに銀狼の話をしたことはなかったかもしれない。
緋鞠の周囲には、霊を見ることができる人はいなかった。いたとしても、孤児院院長の八雲か師匠くらいだ。
友人と呼べる存在に銀狼のことを話すのは初めてで、緋鞠の顔も自然と笑顔になる。
「私の契約している妖怪なんだ。銀色の毛並みがとっても綺麗な狼なの。優しいけど、ちょっと過保護すぎるんだよね」
授業参観の日にちが弟たちとかぶり、八雲が来れなかったときには、人型に化けて来てくれたこともあった。
琴音が笑顔で聞いてくれるものだから、つい話過ぎてしまう。
琴音との楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、診察の時間になってしまった。どよーんと落ち込む緋鞠の姿に、琴音が心配そうにたずねる。
「大丈夫ですか?」
「いつもならとっくに治ってる怪我なのに、全然治らなくて……」
窓から差し込む日の光が、右手の傷痕を照らす。
身体は元気なのに、四鬼に刺された傷だけが、未だに塞がらない。
やはり、四鬼は特異なのだろうか。
「自転車で転んで足の骨を折ったときも、有刺鉄線でざっくり切ったときも、天ぷら油で火傷を負っても、だいたい三日くらいで治るのに~」
琴音の顔がさあっと青くなった。
「普通三日で治りませんよ!? それにこの大怪我ならなおさらです!!」
「そうなの……?」
「そうです! だから、頑張って治療に専念しましょう?」
「ううう、病院苦手なのに~」
このまま治らなかったらどうしよう~、めそめそする緋鞠の姿に、琴音は悲しくなった。
彼女のおかげで自分は助かったのだ。少しでも力になりたい。
琴音はショルダーバックから一冊の手帖を取り出した。陰陽師の世界で臆病な彼女が生きるための、たった一つの方法。
「緋鞠ちゃん」
「?」
顔をあげた緋鞠の前に、ピンクの迷彩柄のキャスケットをかぶり、理知的なメガネをかけた琴音がいた。
手帖を手にした彼女は、まるで探偵のような風情だ。
「お悩みの貴女に、とっておきの情報をあげちゃいます!」
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