傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン

文字の大きさ
8 / 55

3-3

しおりを挟む
 
 どうして俺はこれほどジュリアを愛しく思うのだろう?
 今までの女性とどこが違う?

 彼女の屈託のない笑顔を思い出そうとしても、心は怒りに占領されてしまっていた。
 
 どうしてアガトンに体を許した? しかも俺の弟に! それとも、不貞などアガトンの嘘なのか? 嘘だとしたらどうして? 本当に彼女が体を許していたら、お腹の子が弟との子どもだったとしたら、俺はどうすればいい?
 この怒りをどう処理すればいい?

 苦しくて辛くて、自分の心臓を握りつぶしてしまいたいくらいだった。
 
 確かなことは、今はもう彼女の言葉を信じることも聞くこともできないということだった。

 待ち望んでいた彼女との子どもも、なにか汚いものに汚されてしまったかのように思えてならなかった。悪魔が彼女の腹に宿っている、なんて感覚にさえ陥った。そんなことあり得るわけがないのに。

 頭では彼女を信じるべきだと、不貞など起こすはずかないと、そう訴えてくるのに、心はそれを拒否してくる。

 もう自分ではどうしようもなかった。抑えきれない怒りと憎しみに押しつぶされそうになった。

 衝動的に取った俺の行動のせいで、彼女は脅え、足を踏み外して階段から落ちる羽目になってしまったのだ。

 今の俺は無力だ。
 ただジュリアの無事を祈ることしかできない。
 
 もう一本葉巻を吸い直そうとシガーケースを手にした時だった。

 ガチャリ。

 中から医者が沈痛な面持ちで出てきた。
 俺はシガーケースをむねぽけっとにしまう。

「先生、妻の容態はどうです?」

「幸運なことに夫人の命に別状はありませんでした」

「よかった……」

 ホッと胸を撫で下ろした。いつのまにか肩に力が入っていたようで、それもふっと抜けた感覚があった。

 ジュリアは階段から受け身も取らず転げ落ちてしまったのだ。何かあったらと思うと気が気ではなかった。真っ青になって傷だらけになったジュリアを思い出しただけて今でもヒヤリと胸が冷たくなる。

「それで、お腹の子は?」

「それが……何とお伝えすればいいのか……」

 暗い表情で言葉を濁す医者に、俺はすぐさま状況を察した。

「先生は、先生にできることを精一杯してくださいました」

 あれだけの衝撃を体に受けて、お腹の子が無事であるはずがない。ジュリアは腹をとっさに庇っていたが、庇いきれなかったのだろう。

 お腹の子は、階段を落ちた衝撃によって、儚くなって天に召されてしまったのだ。

 先生に最後まで言わせてしまうのも酷だと思い、これ以上何も言わせない方がいいと思った。

「先生、ありがとうございました」

 俺は医者の言葉を最後まで聞かずに、部屋の中に入った。

 中にはベッドで横になるジュリアと、そばに寄り添うクリスティーナがいた。

 重苦しい空気が部屋中を取り巻いていた。ゆっくりとベッドに近づくと、彼女の側にあった椅子に座り、彼女の手を取った。

「ジュリア、無事でよかった」

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない

たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。 あなたに相応しくあろうと努力をした。 あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。 なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。 そして聖女様はわたしを嵌めた。 わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。 大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。 その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。 知らずにわたしはまた王子様に恋をする。

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...