傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン

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 この暗い部屋の雰囲気を跳ね飛ばし、彼女を元気づけようと明るく声をかけた。ぎゅっとジュリアの血の気の引いた青白い手を握りしめる。

「旦那様」

 隣にいるクリスティーナが俺に泣きそうな声で俺の名を呼んだ。

 いつも俺がいない時はジュリアのそばにクリスティーナを置いていた。
 俺が信頼できる数少ないうちの1人だった。いや、自分以外で信頼できるのは、もう彼女だけなのかもしれない。

 声をかけられて彼女の様子を見たが、手で顔を覆い不安そうな顔つきで下を向いたままだった。

「ランドルフ……っ、私たちの赤ちゃんはね……」

 感情的になり、今にも泣き出しそうなジュリアが俺に訴えかけるように話しかけてきたが、俺はまたも言葉を遮ったのだ。

「ジュリア、子どもは残念だったが、また作ればいい。元々堕ろすつもりだっただろう? むしろよかったじゃないか」

 ジュリアの目が大きく見開かれ、とたんに大粒の真珠のような涙がこぼれ落ちてシーツに染みを作っていった。

「よ、よかった? よかったですって……? どうしてそんなひどいことが言えるの……!」

 彼女は俺の手を跳ね除けて、すがるように俺のシャツを掴んで引っ張った。指先の色が変わるほどに力を入れて握りしめていた。

「君のためにも子どものことは忘れた方がいい」

 子どもを流産してしまったことは残念だが、前に進むことが彼女にとっても必要だろう。それに不義の末にできた子どもかもしれなかった。その疑いが少しでもあった子だ。俺たちの間にはいない方がいい。

 ジュリアは俺の手をそっと外して言った。

「私のため……? だったら、そんなこと言えるはずがないわ……。ランドルフ、結局あなたは自分のことしか考えていないのね」

「なにを言っているジュリア」

「もう無理よ。離縁するわ。私はここを出ていきます」

「いい加減にしろ! 流石にその言葉は冗談ではすまされないぞ」

「私が間違っていたわ、2人の間の情熱だけでは、夫婦としてやっていけない。そのことに気づいたの」

 涙を流しながらも、覚悟を決めた強い表情で俺を真正面から見てくる。諦めも感じられるその表情に、俺はカッとなった。彼女への同情の気持ちが、全て怒りに変わった。

 もしかしたら、流産したことで慰謝料でも取ろうという算段かもしれない。結局、ジュリアもお金目当てで俺に近づいたのか。許せない。

「ああ、出て行け! どこへでも行ってしまえばいい! お前に金は一銭も払わないからな! アガトンに縋りついたってむだだぞ!」

「お金なんていらないわ」

 怒りに震えながら怒鳴り散らす俺を、医者に止められて部屋の外に出された。

 その医者の腕を振り払って俺は屋敷の外へと飛び出した。

 嵐はすでに去っていたが、外は暗くどんよりと湿っていた。

 また葉巻を吸おうとポケットからシガーケースを取り出そうとしたが、手の傷が今になってズキズキと痛み始めた。シガーケースをぬかるんだ地面に落としてしまい、葉巻が濡れた。

「クソっ……!」
 
 俺はイラついて、さらにその右手を屋敷の壁に打ちつけた。
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