12 / 55
4-3
しおりを挟む紳士はぽかん、とした顔になって途端に笑い転げ出した。
「ははは、これはこれは。それは余計なことをしてしまったね。謝罪するよ」
屈託なく笑う笑顔が眩しく輝く。タキシードの下にはたくましい筋肉が盛り上がり、隠しきれないセクシーさが滲み出ていた。
「だがさっきの彼はやめておいた方がいい。借金まみれのしがない男爵家の三男坊だ」
「そうだったんですね。私ったら金目の物に疎くって……」
借金があるとはわからなかった。私もこのパーティーに出席するために見栄を張ってドレスを着てきたから、この会場には私のように見目だけ着飾ってきている人もいるのかもしれない。
「あなたはお貴族様の事情にお詳しいのね。色々と教えていただきだいわ。私におすすめの方はだれ?」
「くく、君は本当に面白い、レディ。君みたいな女性には初めて出会ったよ」
私に興味がある、と隠さずに面白がる彼の目線は私に釘づけになっていた。
それから私たちは軽食をつまみながら色々な話をした。
なぜか私たちの波長はぴったりと合った。こんな身分の高そうな極上の男性と自分がどうこうなるとは考えられない。
だけど、初めてきた煌びやかなパーティーに当てられてか、舞い上がって自分の状況を洗いざらい話してしまった。余計なことまで全て。
母が亡くなって私は学校を辞めざるをえなかったこと。本当は牧場経営ではなく教師をしたかったこと。経営がうまく行っていないこと。
けれど父を愛しているし、このまま牧場を手放すことはしたくない。だから、出資者になりそうな結婚相手を探していること。
「どなたか私の結婚相手になって、牧場を継いでくれそうな方はいらっしゃるかしら?」
「俺はどうだ? 自分で言うのもなんだが中々整った顔立ちをしているし、君の牧場にも満足のいく出資金を支払うことができる」
冗談まじりにも自信満々な遊び人の顔でそんなことを言ってきた。
「あなたが? あなたが牧場の牛や馬を世話しているところなんて想像もつかないけれど」
屈強そうな体は力作業にはもってこいだが、高そうなタキシードやきっちりと固めた金髪のオールバックの髪に作業服と麦わら帽子が似合うとは到底思えなかった。
「昔は小さな町で育ての親が飼っていた馬の世話をしていたことがある。馬の扱いに関してはそこらのお貴族様より詳しいよ。それに、いつかのんびり馬の世話をしてみたいと思っていたところだったんだ。牧場経営はぴったりだ」
驚きの提案だったが、でもなぜか悪くないと思ってしまった。最初と比べるとかなり打ち解けた口調で話し始め、お互いの雰囲気もかなりよくなっていた。
私の腰に添えられた彼の手に力が入る。
「俺もそろそろ身を固めるべきかと思っていたところだし。それに、君となら退屈しないだろう?」
だが、刺激的すぎる危険な男の香りがする。彼からただようシトラスの爽やかな香水の香りでは、滲み出る獰猛さが隠しきれていなかった。
「候補者として考えておくわね。ああ、そうだわ、どなたがプロミネンス伯爵かしら? 教えてくださる?」
彼に惹かれているとは知られないようにそっけない返事をした。
「どうして知りたいんだ?」
彼の目がギラリと冷たく光った。獰猛な目だ。なぜかショックを受けて落胆しているように見えてならなかった。
136
あなたにおすすめの小説
【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない
たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。
あなたに相応しくあろうと努力をした。
あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。
なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。
そして聖女様はわたしを嵌めた。
わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。
大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。
その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。
知らずにわたしはまた王子様に恋をする。
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる