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ここは魚人族の集うお洒落なバーである。
浅瀬が広がるこじんまりとした無人島。月明かりに水面が蒼白く反射して光り輝いており、水中には光る魚や貝が散り散りに広がっていて思ったより明るい。
無人島の近く、浅瀬の海の中に建つバー。
丸く円になっているカウンターの中心にタコ魚人のマスターがいる。マスターからは手足がたくさん出て次々にカクテルを作ってサーブしている。
カウンターの周りには円柱状の椅子が海の中に沈んでいる。座ると腰まで浸かるほどの高さだ。月明かりに照らされて見える全てが幻想的で、異世界にきてしまったようだ。
まぁ、実際人族の自分にとって魚人のテリトリーに来ているのだから異世界にきてしまったと言っても間違いではない。
今回人族の私がこの魚人族の領域に踏み込むことになったのは、仲良くなった人魚のルシュールカから行きつけのお洒落なバーがあると聞きつけたからだ。
ひょんなことから陸に住む人族の自分と海に棲む魚人族で人魚のルシュールカと仲良くなった。
ある日、早朝に朝のお散歩として海辺を1人歩いていたところ、なんと人魚が打ち上げられており、かろうじて息をしていたルシュールカを私が助け出したのだ。これがひょんなことの詳細だ。
滅多に近寄らない海辺に、散歩もしない自分がなぜかあの早朝に行くことにしたのは本当に偶然だった。
見つけてから人族の医者に見せて、すぐにルシュールカは回復した。元気になって海に帰ったその後も、なんやかんやと次に海辺で会う約束を取り付けては私とルシュールカは色んなことを語り合った。
こんなに話が合って仲良くなれる人と出会えるとは思ってもみなかったなぁ。
このバーはルシュールカ行きつけとは言っても最近出来た若者向けの魚人専門のバーである。客の中で人間はスーシャのただ1人しかいない。
今日は平日の中日で比較的バーで飲むにはいささか早い時間でもあり、バーはそんなに混み合ってはいなかった。
それでもちらちらと周りからは少なくない視線を感じた。悪い視線というわけではなく、珍しい珍獣を見る観客のような視線だ。自分が動物園の動物にでもなったような気分になる。
カウンター席へと2人並んで座り、メニューを見たがそもそもお酒に詳しくもなく、魚人バー特有のカクテルもあるようで何が何だかわからない。
「マスター、おすすめ2つお願い」
ルシュールカが、とりあえずここのおすすめを飲んでみて、と同じものを2つ頼んだ。
すると、マスターのタコの足(手?)がにょろにょろと宙を舞い、青のグラデーションの液体がおしゃれな透明の貝を型どったグラスへと注がれる。
「すごくキレイ~~!テンション上がる!」
「でしょでしょ!初めて来た時もすごく興奮して!絶対にスーシャを連れてきたいって思ったのよね」
「初めて来た時は誰に連れてきてもらったの?」
「……えっとぉ、付き合ってる……彼氏に……」
きゃー恥ずかしー!と顔を両手で隠しながら照れる人魚。そんな姿が、すべてがかわゆい。
天使かよ。いや人魚だけど。
「お付き合いは順調なんだねぇ。いいねぇ。同じ人魚の彼氏だっけ?」
「そうだよ~。スーシャは今彼氏は?」
「いないよ」
「あれ?!この前会った時に一緒にいた人は?」
「あれは、まぁ、……友だち?」
セックスをする友だちだ。ただそのまま伝えるのは憚られるため言葉を濁す。私には特定の異性はいない。むしろ作らないようにしている。
なぜなら、1人が気楽だからだ。
元々ただの田舎の村娘だったが、村中の人が「結婚しろ」「子ども作れ」と会うたびに口にしてきた。村の女たちを見ても結婚したいとは到底思えなかった。
村の妻たちは遊びもせずに家事育児を1人で行い、おしゃれも出来ず、化粧っ気もない。しまいには、夫は子どもだけ沢山作って面倒も見ずに他の若い女にうつつを抜かす。
それを女たちが集う場でやんややんやと夫の文句を垂れるだけ垂れて、日々のストレスを少し発散するだけでなんの解決にもなっていない。
そんな村の世帯持ちたちの姿を見ているからか結婚願望も希望もない。
根なし草として、ふらふらと色々な場所を旅して、見て、触れて、感じることが楽しいのだ。
それでも子どもはいつかは欲しいなとは思っているけれど、女手1つでも育てられて、それを許してくれる周りの環境が整った場所なんて中々見つからない。
だから自分の根を下ろす場所探しのための旅をずっと続けている。そんな場所が見つかるかどうかわからないけど。
今はルシュールカとの友好関係がとても心地よくてこの海辺の街に長く居座っているが、ここまで長く1つの場所にいたことはないな、とふと思った。
何杯目かのお洒落なカクテルグラスを傾けて、目線と思考を宙に浮かせていた私は人魚のルシュールカへと視線を向ける。
「友だちにしては親しげだったよねぇ?」
「まぁ、そうなんだけど……って、わぁ!」
今までルシュールカとの会話と自分の思考に夢中で隣の席に巨体が座っていることに気づかなかった。
その隣の巨体の主と自分の肩がぶつかってしまい、そのぬるりとした肌の感触にびっくりして大きな声を上げてしまった。
浅瀬が広がるこじんまりとした無人島。月明かりに水面が蒼白く反射して光り輝いており、水中には光る魚や貝が散り散りに広がっていて思ったより明るい。
無人島の近く、浅瀬の海の中に建つバー。
丸く円になっているカウンターの中心にタコ魚人のマスターがいる。マスターからは手足がたくさん出て次々にカクテルを作ってサーブしている。
カウンターの周りには円柱状の椅子が海の中に沈んでいる。座ると腰まで浸かるほどの高さだ。月明かりに照らされて見える全てが幻想的で、異世界にきてしまったようだ。
まぁ、実際人族の自分にとって魚人のテリトリーに来ているのだから異世界にきてしまったと言っても間違いではない。
今回人族の私がこの魚人族の領域に踏み込むことになったのは、仲良くなった人魚のルシュールカから行きつけのお洒落なバーがあると聞きつけたからだ。
ひょんなことから陸に住む人族の自分と海に棲む魚人族で人魚のルシュールカと仲良くなった。
ある日、早朝に朝のお散歩として海辺を1人歩いていたところ、なんと人魚が打ち上げられており、かろうじて息をしていたルシュールカを私が助け出したのだ。これがひょんなことの詳細だ。
滅多に近寄らない海辺に、散歩もしない自分がなぜかあの早朝に行くことにしたのは本当に偶然だった。
見つけてから人族の医者に見せて、すぐにルシュールカは回復した。元気になって海に帰ったその後も、なんやかんやと次に海辺で会う約束を取り付けては私とルシュールカは色んなことを語り合った。
こんなに話が合って仲良くなれる人と出会えるとは思ってもみなかったなぁ。
このバーはルシュールカ行きつけとは言っても最近出来た若者向けの魚人専門のバーである。客の中で人間はスーシャのただ1人しかいない。
今日は平日の中日で比較的バーで飲むにはいささか早い時間でもあり、バーはそんなに混み合ってはいなかった。
それでもちらちらと周りからは少なくない視線を感じた。悪い視線というわけではなく、珍しい珍獣を見る観客のような視線だ。自分が動物園の動物にでもなったような気分になる。
カウンター席へと2人並んで座り、メニューを見たがそもそもお酒に詳しくもなく、魚人バー特有のカクテルもあるようで何が何だかわからない。
「マスター、おすすめ2つお願い」
ルシュールカが、とりあえずここのおすすめを飲んでみて、と同じものを2つ頼んだ。
すると、マスターのタコの足(手?)がにょろにょろと宙を舞い、青のグラデーションの液体がおしゃれな透明の貝を型どったグラスへと注がれる。
「すごくキレイ~~!テンション上がる!」
「でしょでしょ!初めて来た時もすごく興奮して!絶対にスーシャを連れてきたいって思ったのよね」
「初めて来た時は誰に連れてきてもらったの?」
「……えっとぉ、付き合ってる……彼氏に……」
きゃー恥ずかしー!と顔を両手で隠しながら照れる人魚。そんな姿が、すべてがかわゆい。
天使かよ。いや人魚だけど。
「お付き合いは順調なんだねぇ。いいねぇ。同じ人魚の彼氏だっけ?」
「そうだよ~。スーシャは今彼氏は?」
「いないよ」
「あれ?!この前会った時に一緒にいた人は?」
「あれは、まぁ、……友だち?」
セックスをする友だちだ。ただそのまま伝えるのは憚られるため言葉を濁す。私には特定の異性はいない。むしろ作らないようにしている。
なぜなら、1人が気楽だからだ。
元々ただの田舎の村娘だったが、村中の人が「結婚しろ」「子ども作れ」と会うたびに口にしてきた。村の女たちを見ても結婚したいとは到底思えなかった。
村の妻たちは遊びもせずに家事育児を1人で行い、おしゃれも出来ず、化粧っ気もない。しまいには、夫は子どもだけ沢山作って面倒も見ずに他の若い女にうつつを抜かす。
それを女たちが集う場でやんややんやと夫の文句を垂れるだけ垂れて、日々のストレスを少し発散するだけでなんの解決にもなっていない。
そんな村の世帯持ちたちの姿を見ているからか結婚願望も希望もない。
根なし草として、ふらふらと色々な場所を旅して、見て、触れて、感じることが楽しいのだ。
それでも子どもはいつかは欲しいなとは思っているけれど、女手1つでも育てられて、それを許してくれる周りの環境が整った場所なんて中々見つからない。
だから自分の根を下ろす場所探しのための旅をずっと続けている。そんな場所が見つかるかどうかわからないけど。
今はルシュールカとの友好関係がとても心地よくてこの海辺の街に長く居座っているが、ここまで長く1つの場所にいたことはないな、とふと思った。
何杯目かのお洒落なカクテルグラスを傾けて、目線と思考を宙に浮かせていた私は人魚のルシュールカへと視線を向ける。
「友だちにしては親しげだったよねぇ?」
「まぁ、そうなんだけど……って、わぁ!」
今までルシュールカとの会話と自分の思考に夢中で隣の席に巨体が座っていることに気づかなかった。
その隣の巨体の主と自分の肩がぶつかってしまい、そのぬるりとした肌の感触にびっくりして大きな声を上げてしまった。
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