『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ

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第1章 異世界で朝ごはん!?料理研究家、転生する

プロローグ

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 パチパチと油が跳ねる音。ぐつぐつと煮える鍋の香り。
 そのすべてが、私の世界だった。

 篠原かすみ、38歳。料理研究家としてテレビや雑誌にレシピを載せたり、企業と商品を開発したり、まあまあ世間に名前を覚えてもらえるようにはなった。

 でもそれは、誰かのための料理じゃなかった。

 私には家族がいない。小学生のころに両親を事故で亡くし、親戚の家を転々としたけれど、いつの間にか一人で生きることが当たり前になっていた。

 だから、料理に夢中になった。人に喜ばれることが嬉しかった。
 けれど気がつけば、料理は「仕事」になっていて、「心を込める」ことを忘れていた気がする。

 そんなある日のことだった。

 深夜、仕事帰りに駅前の横断歩道を渡って――

 眩しい光。金属音。衝撃。そして、意識の途切れる感覚。

 

 目を覚ましたとき、私は真っ白な空間にいた。

「お目覚めになりましたね、篠原かすみ様」

 目の前に現れたのは、ふわりとした白い服を着た金髪の女性。柔らかく輝く光に包まれていて、どう見ても人間じゃない。

「ここは……まさか、死んだ?」

「はい。けれど、まだ終わりではありません。あなたの魂には、まだ役割があるのです」

 静かに微笑むその女性――女神様は、私の人生をひととおり見ていたらしい。

「あなたが培ってきた料理の知識、技術、そして“心を込める力”。それらが今、ある世界で必要とされています」

「……ええと、それって……」

「その世界には、食文化がほとんど存在しません。味付けも技術もなく、食事は“空腹を満たすだけの作業”として扱われています」

 ああ、それはなんだか悲しい。

「あなたには、その世界に転生していただきます。身体は若返り、健康そのもの。新しい人生を料理とともに歩んでください」

「若返り……?」

「ええ、ちょうど十五歳の姿で。これからの人生を、じっくり味わっていただきたいですから」

 あまりにとんでもない話に、ぽかんと口を開けてしまった。

 でも、不思議と迷いはなかった。
 もう一度、誰かのために料理を作りたい――そんな気持ちが、胸の奥から湧いてくる。

「……やります。やらせてください。その世界に、美味しいごはんを届けたい」

 そう告げた私の身体は、光に包まれ――

 

 次に目を開けたとき、私は草原の中にいた。

 風が気持ちよく吹き抜け、頬に当たる太陽のぬくもりもやけに心地いい。

 手には、なぜか調理道具の入った布袋。そして腰には、不思議な模様のついた小さな収納ポーチ。

 そして目の前には――

「おなか、すいた……」

 痩せた体でうずくまる、小さな男の子がいた。

 私は笑った。

 そうだ、これが、私の“新しい人生”の始まり。

 名前も、年齢も、世界も変わったけれど――
 この手で作る料理が、誰かの心とお腹を満たせるなら、私は何度でも立ち上がれる。

 

 異世界ごはん、はじめました!


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