『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ

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第2章王都は味オンチ!? 料理と評判が広がる日々

第2話「謎の味オンチ王子と、初めての夜食バトル」

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その夜――

 セイル王子の屋敷に泊まることになった私は、客室のふかふかベッドの上でぐるぐる考えていた。

 

 味オンチ文化、スキル付きごはん、王子の協力提案……なんかいろいろ急展開すぎない? 異世界って毎日イベント起きるの?

 

 ぐぅぅぅ……

 

 おなかが鳴った。

「……って、今さらおなか空いたの私!?」

 

 夕食は王子の屋敷で用意された“淡味スープと乾燥パン”だった。まったくもって味がなく、食べたような気がしなかったのも当然か。

 

「……ちょっとだけ、厨房のぞいてみようかな」

 

 静まりかえった廊下をそっと歩いて、厨房の近くまで来ると――

 

 薄明かりのもとで、誰かの背中が見えた。

 

「王子!?」

 

 そこには、まさかのセイル王子が、包丁を前に真剣な顔をしていた。

「……おなかが、減ってしまってな」

「だからって、包丁持ってる王子、レアすぎます!」

 

 でも、その表情は真剣そのものだった。

 

「自分の舌が、正しいかどうか確かめてみたくて……。あの料理が、魔法ではなく“本当においしい”のか」

 

 ああ、そうか。彼なりに、ちゃんと向き合いたかったんだ。

 

「じゃあ、勝負します?」

「勝負?」

「私と、夜食バトル!」

 

 ――かくして始まった、“真夜中のごはん対決”。

 

 セイル王子は、料理なんて人生初らしく、包丁の持ち方もぎこちない。玉ねぎを切るだけで涙をこぼし、塩と砂糖を間違えそうになっていた。

 

「これが……料理というものか。思ったより、ずっと難しいな」

 

「でも、王子の手つき、ちょっと慣れてきましたよ!」

「ふふ、君に褒められると、嬉しいな」

 

 一方私は、持ち前の食材アレンジスキルを活かして、“和風お茶漬け風スープ”を準備中。地球から持ち込んだ乾燥だしとルート根、刻んだ野菜とパンくずで即席リゾット風に仕上げた。

 

 香ばしい匂いが厨房に満ちていくと、警備の騎士まで顔をのぞかせてきた。

 

「……これは、食事の匂いか?」

「夜食ですよー! 味見します?」

「いいんですか!? ぜひ!」

 

 そして、完成したふたりの料理を、いざ実食!

 

「……おいしい」

「やった! 王子の料理、ちゃんと味ありますよ!」

「これは……“うす味”じゃない、“深味”だな」

「それ、いい表現!」

 

 王子が作ったスープはまだ少し薄味だけど、丁寧に味見して調整した努力が出ている。

 

「おれ、こんな料理初めて食べました……」

 と、味見に来た騎士がうるっとしている。夜食で感動してくれるなんて、作り甲斐があるなあ。

 

「ねえ、王子。料理って、思ってたよりも……楽しくないですか?」

「……ああ。初めてだが、こんなに心が落ち着くとは思わなかった」

 

 少し照れくさそうに笑った王子の顔は、日中よりずっと柔らかかった。

 

「――君に出会えて、本当によかった」

 

 ぽつりとこぼれたその言葉に、私は思わず目を見張った。

 ――この人、ただの王子じゃない。

 心の奥に、ずっと何かを抱えて生きてきた人なんだ。

 

「……次はもっと、すごい料理作りますよ。びっくりするようなやつ!」

「期待している。君と一緒なら、味覚の新しい世界が見られそうだ」

 

 真夜中の厨房で、ふたり並んで片づけをしながら、私はこっそり思った。

 

 この人のそばにいたら、異世界でも、案外楽しく生きていけるかもしれない。

 

 異世界の夜は、あたたかかった。

 明日もまた、誰かを笑顔にできますように。


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