9 / 99
第2章王都は味オンチ!? 料理と評判が広がる日々
第2話「謎の味オンチ王子と、初めての夜食バトル」
しおりを挟む
その夜――
セイル王子の屋敷に泊まることになった私は、客室のふかふかベッドの上でぐるぐる考えていた。
味オンチ文化、スキル付きごはん、王子の協力提案……なんかいろいろ急展開すぎない? 異世界って毎日イベント起きるの?
ぐぅぅぅ……
おなかが鳴った。
「……って、今さらおなか空いたの私!?」
夕食は王子の屋敷で用意された“淡味スープと乾燥パン”だった。まったくもって味がなく、食べたような気がしなかったのも当然か。
「……ちょっとだけ、厨房のぞいてみようかな」
静まりかえった廊下をそっと歩いて、厨房の近くまで来ると――
薄明かりのもとで、誰かの背中が見えた。
「王子!?」
そこには、まさかのセイル王子が、包丁を前に真剣な顔をしていた。
「……おなかが、減ってしまってな」
「だからって、包丁持ってる王子、レアすぎます!」
でも、その表情は真剣そのものだった。
「自分の舌が、正しいかどうか確かめてみたくて……。あの料理が、魔法ではなく“本当においしい”のか」
ああ、そうか。彼なりに、ちゃんと向き合いたかったんだ。
「じゃあ、勝負します?」
「勝負?」
「私と、夜食バトル!」
――かくして始まった、“真夜中のごはん対決”。
セイル王子は、料理なんて人生初らしく、包丁の持ち方もぎこちない。玉ねぎを切るだけで涙をこぼし、塩と砂糖を間違えそうになっていた。
「これが……料理というものか。思ったより、ずっと難しいな」
「でも、王子の手つき、ちょっと慣れてきましたよ!」
「ふふ、君に褒められると、嬉しいな」
一方私は、持ち前の食材アレンジスキルを活かして、“和風お茶漬け風スープ”を準備中。地球から持ち込んだ乾燥だしとルート根、刻んだ野菜とパンくずで即席リゾット風に仕上げた。
香ばしい匂いが厨房に満ちていくと、警備の騎士まで顔をのぞかせてきた。
「……これは、食事の匂いか?」
「夜食ですよー! 味見します?」
「いいんですか!? ぜひ!」
そして、完成したふたりの料理を、いざ実食!
「……おいしい」
「やった! 王子の料理、ちゃんと味ありますよ!」
「これは……“うす味”じゃない、“深味”だな」
「それ、いい表現!」
王子が作ったスープはまだ少し薄味だけど、丁寧に味見して調整した努力が出ている。
「おれ、こんな料理初めて食べました……」
と、味見に来た騎士がうるっとしている。夜食で感動してくれるなんて、作り甲斐があるなあ。
「ねえ、王子。料理って、思ってたよりも……楽しくないですか?」
「……ああ。初めてだが、こんなに心が落ち着くとは思わなかった」
少し照れくさそうに笑った王子の顔は、日中よりずっと柔らかかった。
「――君に出会えて、本当によかった」
ぽつりとこぼれたその言葉に、私は思わず目を見張った。
――この人、ただの王子じゃない。
心の奥に、ずっと何かを抱えて生きてきた人なんだ。
「……次はもっと、すごい料理作りますよ。びっくりするようなやつ!」
「期待している。君と一緒なら、味覚の新しい世界が見られそうだ」
真夜中の厨房で、ふたり並んで片づけをしながら、私はこっそり思った。
この人のそばにいたら、異世界でも、案外楽しく生きていけるかもしれない。
異世界の夜は、あたたかかった。
明日もまた、誰かを笑顔にできますように。
---
セイル王子の屋敷に泊まることになった私は、客室のふかふかベッドの上でぐるぐる考えていた。
味オンチ文化、スキル付きごはん、王子の協力提案……なんかいろいろ急展開すぎない? 異世界って毎日イベント起きるの?
ぐぅぅぅ……
おなかが鳴った。
「……って、今さらおなか空いたの私!?」
夕食は王子の屋敷で用意された“淡味スープと乾燥パン”だった。まったくもって味がなく、食べたような気がしなかったのも当然か。
「……ちょっとだけ、厨房のぞいてみようかな」
静まりかえった廊下をそっと歩いて、厨房の近くまで来ると――
薄明かりのもとで、誰かの背中が見えた。
「王子!?」
そこには、まさかのセイル王子が、包丁を前に真剣な顔をしていた。
「……おなかが、減ってしまってな」
「だからって、包丁持ってる王子、レアすぎます!」
でも、その表情は真剣そのものだった。
「自分の舌が、正しいかどうか確かめてみたくて……。あの料理が、魔法ではなく“本当においしい”のか」
ああ、そうか。彼なりに、ちゃんと向き合いたかったんだ。
「じゃあ、勝負します?」
「勝負?」
「私と、夜食バトル!」
――かくして始まった、“真夜中のごはん対決”。
セイル王子は、料理なんて人生初らしく、包丁の持ち方もぎこちない。玉ねぎを切るだけで涙をこぼし、塩と砂糖を間違えそうになっていた。
「これが……料理というものか。思ったより、ずっと難しいな」
「でも、王子の手つき、ちょっと慣れてきましたよ!」
「ふふ、君に褒められると、嬉しいな」
一方私は、持ち前の食材アレンジスキルを活かして、“和風お茶漬け風スープ”を準備中。地球から持ち込んだ乾燥だしとルート根、刻んだ野菜とパンくずで即席リゾット風に仕上げた。
香ばしい匂いが厨房に満ちていくと、警備の騎士まで顔をのぞかせてきた。
「……これは、食事の匂いか?」
「夜食ですよー! 味見します?」
「いいんですか!? ぜひ!」
そして、完成したふたりの料理を、いざ実食!
「……おいしい」
「やった! 王子の料理、ちゃんと味ありますよ!」
「これは……“うす味”じゃない、“深味”だな」
「それ、いい表現!」
王子が作ったスープはまだ少し薄味だけど、丁寧に味見して調整した努力が出ている。
「おれ、こんな料理初めて食べました……」
と、味見に来た騎士がうるっとしている。夜食で感動してくれるなんて、作り甲斐があるなあ。
「ねえ、王子。料理って、思ってたよりも……楽しくないですか?」
「……ああ。初めてだが、こんなに心が落ち着くとは思わなかった」
少し照れくさそうに笑った王子の顔は、日中よりずっと柔らかかった。
「――君に出会えて、本当によかった」
ぽつりとこぼれたその言葉に、私は思わず目を見張った。
――この人、ただの王子じゃない。
心の奥に、ずっと何かを抱えて生きてきた人なんだ。
「……次はもっと、すごい料理作りますよ。びっくりするようなやつ!」
「期待している。君と一緒なら、味覚の新しい世界が見られそうだ」
真夜中の厨房で、ふたり並んで片づけをしながら、私はこっそり思った。
この人のそばにいたら、異世界でも、案外楽しく生きていけるかもしれない。
異世界の夜は、あたたかかった。
明日もまた、誰かを笑顔にできますように。
---
339
あなたにおすすめの小説
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜
たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。
だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。
契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。
農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。
そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。
戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
異世界配信始めました~無自覚最強の村人、バズって勇者にされる~
たまごころ
ファンタジー
転生したら特にチートもなく、村人としてのんびり暮らす予定だった俺。
ある日、精霊カメラ「ルミナスちゃん」で日常を配信したら──なぜか全世界が大騒ぎ。
魔王を倒しても“偶然”、国家を救っても“たまたま”、なのに再生数だけは爆伸び!?
勇者にも神にもスカウトされるけど、俺はただの村人です。ほんとに。
異世界×無自覚最強×実況配信。
チートすぎる村人の“配信バズライフ”、スタート。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』
チャチャ
ファンタジー
孤児院育ちの23歳女子・葛西ひまりは、ある日、不思議な本に導かれて異世界へ。
そこでは、アレルギー体質がウソのように治り、もふもふたちとふれあえる夢の生活が待っていた!
畑と料理、ちょっと不思議な魔法とあったかい人々——のんびりスローな新しい毎日が、今始まる。
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる