『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ

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第2章王都は味オンチ!? 料理と評判が広がる日々

第4話「魔導スパイスと料理騎士団!?ごはんが戦場を変える時」

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【1. 招かれざる依頼】

 王宮での「炊き込みごはん事件(勝手に命名)」から数日後――

 私は相変わらず厨房でごはんを作っていた。
 と言っても、今回は王宮の“貴族食堂”用。セイル王子のはからいで、毎日ほんの数品、異世界風の料理を提供している。

 

「カスミアーナさん、今日もおかわり率100%です!」

 厨房に駆け込んできたのは、食堂担当の見習い侍女リリナちゃん。

「今日の“肉じゃが風のやつ”、貴族様にも『ほっこりする』って大人気ですよ!」

「わーい、それは嬉しい……って、“風のやつ”って言い方!」

 

 食材も調味料もまるっきり違うこの異世界で、どうにか再現した“あの味”。
 にくじゃが(風)や、だし巻き卵(風)といったメニューは、ここ最近の定番になりつつあった。

 

 でも――

「なんか、変に視線を感じるなぁ……」

 

 視線の主は、王宮の上層部にいる“軍事方面の人たち”だった。
 「なんで厨房に祝福者が?」「戦力にならないのに王宮に?」と、ちらちらひそひそ。

 まあ、そりゃそうだよね。

 私のスキルって、ざっくり言うと“ごはん系”だし。

✳✳✳

【2. スキルと称号と、わたしの力】

 ――たとえば、私のスキルはこんな感じ。

 

《調味創出(アレンジスパイス)》:
地球・異世界問わず、存在する調味料を“記憶と味覚”から再現・創出できる。希少スパイスや失われた調味料も対象。

 

《料理バフ付与》:
調理した料理に、食べた者の属性・体質・状態に応じたステータス上昇や回復効果を与える。

 

《無限収納(時間停止)》:
調理器具・食材を劣化させずに保存できる魔道ポーチ。料理用の環境を保つためのサポート能力。

 

《食材鑑定》:
目の前の食材や料理の品質、毒性、栄養、魔力との親和性などを“ひと目”で見抜くことができる。

 

《味の記憶再現》:
心に残る“思い出の味”を、今ある素材で再現できる。再現度によって、食べた者の感情に効果を及ぼす。

 

《料理デバフ付与》:
“苦味”“重さ”“鈍さ”などの特殊調理技法で、敵対対象の集中力や動作速度を落とすことができる(※合法)。

 

 ――はい。どこからどう見ても、物理攻撃とは無縁です。

 

 でも、食べた相手が「戦えるようになる」とか「一時的にステータスが跳ね上がる」って点で言えば、私の料理は間違いなく“戦力支援”。

 

 なんて、そんなことを考えていたら――

 

「失礼します、カスミアーナ殿」

 厨房のドアをノックして現れたのは、凛々しい女性騎士団長だった。

「王直属の戦術会議より、貴女に料理依頼がございます」

「ええええっ、私に!?」

 

 始まった――異世界初の“ごはんによる軍事作戦”!?

✳✳✳

【3. 料理騎士団、発足!?】

 王都軍本部の戦術会議室に呼ばれた私は、椅子にちょこんと座っていた。

 目の前には、屈強な軍人たち、騎士団長たち、魔導技術官、そしてセイル王子の姿。

「では、今回の提案をまとめよう」

 軍の補給統括官がごほんと咳払いをして、こう言った。

 

「新設される『料理騎士団』の栄養管理および士気向上のため、貴殿に監修を依頼したい」

「えっ、えっ、料理騎士団……?」

「うむ。料理スキルによる一時的な身体強化や精神集中を訓練に取り入れる予定だ」

「なにその新ジャンルの騎士団!?」

 

 セイル王子が肩をすくめて笑った。

「実はあの“炊き込みごはん”事件のあと、一部の兵士の集中力や疲労回復が顕著だったそうでな」

「それ、実際にバフ効果出ちゃったやつだ……」

 

 そこへ補足説明が入る。

「魔導研究所によると、あなたの料理は“魔導スパイス”との相性が非常に高く、特定の調合によって戦術的価値が跳ね上がる可能性があると」

「ま、まじですか……」

 

「ついては、“料理騎士団”初陣のための特別訓練レシピを3品ほどご提供願いたい」

「え、レシピ提供だけでいいんです?」

「いや、できれば調理もしていただきたい。現地で」

「やっぱりー!!」

 

 こうして私の、新たなる“胃袋戦場デビュー”が決定したのだった。

✳✳✳

【4. 訓練開始!ごはんでステータス爆上げ!?】

 王都の郊外にある軍演習場。
 ここに、特設されたテント付き“野外厨房”が今日の私の持ち場だ。

「……ここが今日の戦場ね」

 いや、キッチンなんだけどね!?

 

 私が作るのは、次の3品。

魔導野菜のスパイス焼き

高タンパク芋スープ(疲労回復系)

ジャメ果と干し肉のおにぎり(集中力アップ)


 

 そして、そのすべてに入っているのが――

《魔導スパイス:フォルナ粉末》

 ルルの根から抽出したこの粉末には、魔力循環を助ける効果があるらしく、
 私の《調味創出》で地球のスパイス風に調整済み!

 

「さあ、焼くよー!」「焦げ目は香ばしさの証!」

 私が焼き台の前でせっせと調理していると、どこからか人が集まってくる。

「おい、あれが噂の“料理の祝福者”か?」

「なんだこの匂い……やばい、うまそうすぎる」

 

 数分後――

 第一陣の騎士団員たちが料理を受け取って食べると、目を見開いた。

「なんだこれ……! 体が軽くなる……!?」

「目の奥まで冴える感じ……うわ、めちゃくちゃ集中できるぞ!?」

 

 ステータス上昇が、目に見える形で発現。

 《料理バフ付与》スキル、全開です!

 

 騎士たちの訓練成果は格段にアップし、上官たちの目も丸くなる。

 

 ただ――

「ふん、こんな“ごはん遊び”が何になる」

 そう言って、陰で鼻で笑う騎士が一人。

 料理軽視派の“旧派閥”の兵士たちだった――

✳✳✳

【5. 非常訓練!料理の力を信じられるか!?】

「カスミアーナ殿の料理など、ただの気休めにすぎん」

 旧派閥の騎士・グライフがそう言い放ったのは、訓練の真っ最中だった。

「魔導装備こそが力だ。我らに必要なのは、飯ではない」

「そう言われましても……でも、食べてから判断してもらっても……」

「我らはそのような怪しい料理に頼るつもりはない!」

 

 そのとき――

「では、実戦形式で試していただこうか」

 割って入ったのは、セイル王子だった。

「料理を食べた部隊と、食べていない部隊――どちらが有効か、模擬戦で比較する」

 

 急きょ決まった“料理 vs 料理なし”の模擬戦。

 私は急いでおにぎりとスープを再調理し、料理騎士団チームに提供。

 一方、グライフ率いる旧派閥チームは、食事なしで挑むことに。

 

 そして、訓練が始まった――

 

 結果は、歴然だった。

 料理騎士団チームは、抜群の動きと集中力で的確に陣形を組み、連携を決める。

 一方、旧派閥チームは徐々に疲弊し、ミスが増えていった。

 

「ば、馬鹿な……! あの程度の食事で、なぜここまで差が……!」

「“あの程度”ではありませんよ」

 セイル王子がグライフに言った。

「彼女の料理には、祝福が宿っている。これは戦術だ」

 

 騎士たちは無言で私を見た。

 その視線は――さっきまでの軽視ではなかった。

 

 料理の力を、ようやく“本気”で信じてくれたんだ。

✳✳✳

【6. 料理は戦いじゃない、人を守る力】

 模擬戦が終わったあと、私はしばらくぽかんとしていた。

 あんなにがっちがちだった騎士団の人たちが――

「今度、自分でもスープ作ってみようかな」
「おにぎりって……包むだけでこんなにも違うのか……」
「俺たち、少し思い上がってたのかもしれん」

 そんなふうに言ってくれるようになった。

 

 その夜、厨房に戻って片付けをしていると――

「ここにいたか、カスミアーナ」

 背後から声をかけてきたのは、セイル王子だった。

「お疲れ様。模擬戦、すごかったですね」

「ああ……だが、君が一番すごかった」

 

 セイル王子は、静かに言葉を紡ぐ。

「君の料理には、人を強くする力がある。だが……」

 そこまで言って、彼は少しうつむいた。

「戦場に料理を持ち込むことに、まだ賛否はある」

「……わかります。戦いは、ごはんでどうにかできるほど甘くはないって」

 

 でもね、と私は言う。

「料理は、戦うための道具じゃない。誰かを“守る力”だと思うんです」

 

 それは、昔――誰もいなかったキッチンで、
 自分のために作ったおにぎりが、心を救ってくれたあの日の記憶。

「だから私は、誰かのためにごはんを作りたい。傷ついた人が、また笑えるように」

 

 王子は、目を細めて微笑んだ。

「――君がこの世界に来てくれて、本当によかった」

 

 そんな言葉をもらって、私は少し泣きそうになった。

✳✳✳

【7. 笑顔の食卓、そして次なる食材へ】

 次の日の朝――

 訓練の成果を祝して、簡単な朝食会が開かれた。
 場所は軍の広場。長テーブルの上には、スープ、焼き野菜、おにぎり。すべて、私が用意したもの。

 

「いただきます!」

 

 その言葉とともに、隊員たちは一斉に手を合わせた。

 ごはんを頬張るたび、誰かの顔がほころび、笑顔が咲いていく。

 

「……なあ、なんか、家にいるみたいだな」

「ほんとだな。安心する味だ」

 

 料理は魔法じゃない。

 けれど――

 誰かの疲れを癒やして、明日を生きる力になる。

 

 それだけで、きっと十分なんだ。

 

 私は満足そうにテーブルを眺めていると――

「カスミアーナさん!」

 リリナちゃんが走ってきた。

「次の依頼です! 魔族との国境地帯で、食糧事情が深刻らしくて……!」

 

 あっという間に、次の食材(=課題)が降ってきた。

 でも私は、もう驚かない。

 

「うん、行こう。きっと、まだまだごはんが必要な場所がある」

 

 エプロンを結び直して、私は笑う。

 

「異世界ごはん、まだまだ続きます!」


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